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第420話 「闇のオークション①」

 ルウがフラン、ジゼルと共に馬車で魔法女子学園から自宅である屋敷に帰還する最中の事……


 モーラルからの念話がルウのこころに響いた。

 どうやら彼女は他の妻達にはまず内密で話をしたいらしい。


『旦那様、ご報告が――』


『何だ?』


『以前、アッピニアンの召喚者サマナー、グリゴーリィ・アッシュから得た情報を覚えていらっしゃいますか? 『アッピンの赤い本』絡みのものですが……』


 グリゴーリィ・アッシュはロドニアの王家御用商人ザハール・ヴァロフと擬態して王ボリスに近付き、ロドニア王国を転覆させ自分が王に成り代わろうとした闇の魔法使いである。

 彼は王都のホテルで滞在中のリーリャを襲った際に呆気なく倒されてルウの作り出した異界に幽閉された。

 その上で尋問された後にルウにより邪悪な魔法知識と記憶を奪われて現在はロドニアに貢献する誠実な商人として働いていたのである。


『覚えているさ。『闇のオークション』だろう? ははっ、そういえば今夜午前0時に月が変わって日付が1日となるな……』


 闇のオークションとは不定期に行われる闇の魔法使い達などへの競売オークションだ。

 場所は闇の競売人オークショナーオブダークネスが作り出す異界で行われるという。

 闇の波動に染まった人間以外に悪魔や人外が参加する事もあり、出品物は先程話した魔導書のような珍品から人間の魂などの貴重品、そしてガラクタみたいなものまで様々なものが出るとグリゴーリィ・アッシュは話していた。


 競売自体は1日へ日付が変わる深夜に行われるという事なのでルウは注意して動向をチェックしていたのである。


『はい、旦那様麾下の悪魔達や我々に好意的な精霊、妖精に依頼を入れて、この件で何か動きがあったら報告するように手筈を整えておりました。先日アルフレッドの知り合いである嘆きの妖精バンシーがたまたま開催の噂を聞いたそうです』


『ふむ……』


『はい! その者が申すには、暫くの間、開催されていませんでしたが、今夜久々に開催されるそうです』


『入場や出品に参加資格はあるのか?』


『そのバンシーも開催を持ち掛けて来た者へ同じ質問をしましたが、特に条件は無いそうです。強いて言えば合い言葉である言霊を唱えて『闇のオークション』が開催される異界に入れれば問題無いと……』


『……合言葉は邪悪マレフィクス……だったな』


『はい……アルフレッドが念を押したら、バンシーも間違い無くその言霊で聞いているそうです。今の所、話の辻褄は合っていますね』


『後は常識として出品された商品を落札する充分な金か、出品するお宝自体を持参しろという話だろう』


『仰る通りです。そこまで具体的ではなかったですが、『冷やかし』だけはお断りだと、バンシーはきっぱり言われたそうですよ』


『ははっ、『冷やかし』だけはお断りか……面白い、俺に考えがある……後でフランと書斎に来てくれ』


 傍らで座っていたフランとジゼルはルウに何かあったかを気付いたようである。

 しかし彼が何も言わないので彼女達から一切聞く事はなかった。

 

 馬車はまもなく屋敷に着く……

 ルウは目を閉じて素早く考えを纏め始めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸ルウ書斎、午後8時30分……


 食事が終わり、妻達といつものように紅茶を楽しんでからルウとフラン、そしてモーラルは書斎で話をしていた。

 内容は先程モーラルと話した『闇のオークション』の件である。

 ルウはフランに馬車に乗っていた時にモーラルからこの件で念話があったと改めて話をしていた。

 しかしフランの表情は微笑んだまま全く変わらない。

 

 フランもルウと夫婦になってから成長した。

 多数の妻達の中で第一夫人となって屋敷内の表の部分を纏めるようになってからは尚更である。

 ルウの考えを瞬時に悟るのは勿論、自分の意見があっても発言すべきか、控えるべきかを彼女は容易に判断出来るようになっていたのだ。

 ルウの考えは既に纏まっているらしい。


「結論から言おう。俺は行ってみようと思う」


「はい、私も同じ意見です」


 ルウが『闇のオークション』行きを決めた事を告げるとフランも文句無く同意した。

 2人の会話をモーラルは黙って聞いている。


「俺がそう決めた理由は?」


 続けてルウがフランに問うが、彼女はすかさず答えた。


「はい! 『アッピンの赤い本』があれば押えるべきなのが第一。第二には主催者や来場している客筋を把握しておいた方が良い事。第三に雰囲気、出品商品を知る事が可能な事。アッピニアンも来るとすれば情報収集が必要ですから。でも出来るだけの安全対策は練ってから行って下さいね」


 ルウはフランの言葉に黙って頷く。

 彼はフランが自分をしっかりと理解している事が嬉しい。

 今度はモーラルがフランを問い質した。


「横から失礼します。さすがはフラン姉……ところで貴女は『闇のオークション』に同行したいですか?」


「行きたくないと言えば嘘になります。だけどこれも決めていますよ……私は残ります」


 フランの答えを確かめるようにモーラルはもう1回念を押す。


「残っていただけるのですね」


「ええ、私が残る事で他の妻も納得しますから。だけどモーラルちゃん、私は万が一、旦那様に何かあったら、害した者を絶対に許しません」


 燃えるような目でモーラルを見詰めるフラン。

 『闇のオークション』には危険な闇の者が多く来る事は明白だ。

 勝手が分からないうちは、自分も含めて妻達が同行する事でルウの足手纏いとなる事を恐れたのである。

 そんなフランの真意を理解し、厳しい表情でその眼差しを受け止めたモーラルだが、一瞬の間を置いてにっこりと微笑む。


「旦那様、フラン姉と私が同意すれば他の妻達は理解してくれます。お考えがおありでしょうから、ぜひお聞かせ下さい」


 2人の会話をじっと聞いていたルウであったが、妻達のやりとりに満足したように大きく頷いた。


「分かった! 2人ともありがとう。今回俺は下記の者を連れて行く。……アモン、アスモデウス、メフィストフェレス、そしてモーラル……以上の4名だ」


 モーラルは特別として、他にはタイプの違う悪魔達を連れて行くというルウ。 人選にも考えがあるようだ。


「実際にオークションに数点出品して参加し、何とか主催者と接触して彼等の趣旨を聞きたい。その上であくまで中立公平なものであれば静観するし、もしこの地の乱れを画策しているならばそれなりの対応をしよう」


 ルウは今回の目的を述べるとフランに指示を出す。


「屋敷の守護にはその他の従士を残して行く。フラン、何かあったら俺に念話で直ぐ呼びかけるか、通じなかったらバルバトスに相談しろ」


 ルウの言葉を聞いたフランは力強く頷いた。

 その瞳には夫に対する確かな愛と信頼が宿っている。

 彼女は自分が同行出来ない分をモーラルに託すとも告げた。


「はい! 了解です。モーラルちゃん、くれぐれも旦那様をお願いしますよ」


「旦那様は私の命に代えてもお守りします、フラン姉」


 ――この後、フランより他の妻達へは今夜ルウが赴く『闇のオークション』の説明がされたのであるが、フランの真剣な表情に駄々をこねる妻は1人も居なかったという。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 午後9時30分……


 ルウの屋敷の玄関の前には妻と使用人達が並んでいる。

 例によってマルグリットはアデライドの居るドゥメールの屋敷に勤務していてこちらの屋敷には不在であった。


 ルウとモーラルの出で立ちだが、2人とも市民が愛用するようなこざっぱりしたブリオーを着込んでいた。

 傍から見たら市民のカップルと言う趣だ。

 フランのたっての希望もあって念の為にルウの収納の腕輪には真竜王の鎧が仕舞われている。

 

 妻達の輪の真ん中に立つフランの音頭で皆が2人を見送る。


「では行ってらっしゃいませ」


「「「「「「行ってらっしゃいませ」」」」」」


「よおし、行って来る」「行って参ります」


 ルウが軽く手を挙げるとモーラルも可愛い手を左右に軽く振る。


 門に向かって歩く2人の影は庭の各所に吊るされた魔導ランプに照らされていたが、やがて闇に溶け込んで見えなくなって行った。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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