第414話 「緊急出張販売①」
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魔法女子学園屋内闘技場、木曜日午前10時少し前……
ルウがフランとアデライドに対して依頼した購買部の『緊急出張販売』が早速、本日実施される。
昨日に詳細が決定し、各クラスのホームルームにおける連絡や学園内での掲示板掲出等で、急ぎ通達されたのだ。
緊急出張販売自体は魔法女子学園において良くある話だという。
主に上級貴族の令嬢が様々な事情により、購買部主催という形でこのような出張販売を急ぎ要請する事が多々あるそうだ。
校長、理事長の承認を経て、商業ギルドに依頼がされると、間を置かずに実施される事が多く、今回もルウが申し入れをして中2日という異例の速度で手配されたのである。
実施は本日木曜日限りで時間は午前10時から午後2時までの4時間限定となっていた。
生徒達は授業の無い時間やお昼休みにやって来て買い物をする形となる。
ちなみに今回参加した商会はキングスレー商会を入れて3つの商会だ。
それぞれが簡易な店舗を設置して学園の生徒、または教師や事務員が購入をしそうな商品を思い思いに並べている。
魔法を学ぶ学生の為という趣旨なので魔道具や魔導書は勿論、古来から魔力が高まると言われている食品や魔力を補填するポーションなどもカバーし、果ては女性向けらしくお洒落な文房具や身だしなみを整える化粧品や手鏡、ブラシなどありとあらゆる商品が揃っていた。
今回はルウがリクエストした『仮初の人型』も各商会が自慢のオリジナル商品を持ち込んでいた。
それらは現在授業で使用されている学園の備品とは全く違うものである。
単なる木製の人形と言ったシンプルで無骨なものだけではない。
年頃の少女が好みそうな可愛い動物のぬいぐるみやリアルな人間を再現した恰好いい男女まで、ありとあらゆる種類が並んでいたのであった。
「ははっ、凄いな。仮初の人型が……可愛い縫ぐるみか」
「おはようございます! ルウ先生」
本日はお昼まで授業の予定が無いルウがそんな『仮初の人型』の品揃えを半分呆れながら見ていると背後から聞き覚えのある女性の声が掛かった。
「おう! ソフィさん、お早う」
商業ギルドのギルドマスター、マチルド・ブイクスの姪であり、サブマスターのソフィ・ブイクスが立っていたのである。
ルウが魔法鑑定士認定の国家試験を受けて以来の再会であった。
彼女が今回の緊急出張販売における商業ギルドの担当のようだ。
「成る程、伯母さんから理由ありの案件だと聞いて、場所が魔法女子学園と分かった時点でそうじゃないかと思っていたのだけど……」
ソフィは久し振りに会ったルウへ屈託の無い笑顔を見せた。
「ははっ、元気そうだな」
「ええ、元気よ。伯母さんは相変わらず早く良い人を見付けて結婚しろって煩いけど……」
「ははっ、大変だな。だけど助かったよ。実は生徒から買い物を頼まれたが、時間が無くてね」
ルウが礼を言うとソフィはこっそりと内幕をばらしてくれる。
「うふふ、ルウ先生には白状するけど本当はこういうのって、各商会からは歓迎されるのよ」
「そうなのか?」
「ええ、魔法女子学園との繋がりが出来るのは大きいし、商品の売れ筋の確認や試作商品の試験販売も実施出来るからね」
確かにソフィの言う通り、急な依頼だというのに各商会のスタッフは嫌そうな顔ひとつせず、嬉々として働いている。
「ルウ先生! あれっ!? ソフィさん?」
そこへフランがやって来て、ソフィの姿を認めると嬉しそうに駆け寄って来た。
ソフィはフランよりは少し年上だが、自分の伯母とフランの母が親友同士のせいもあって、この2人も仲が良いのだ。
「うふふ。フランちゃん、久し振り。ルウさん、い、いえ……旦那さんと上手くやっている?」
「ふふ、ばっちり!」
2人が楽しそうに立ち話を始めたのでルウはそっと傍を離れた。
すると今度はキングスレー商会の王都支店長マルコ・フォンティがルウを見て頭を深々と下げる。
そこで時間は丁度、午前10時となったので、開場となり授業の予定が無い生徒達がどっと入場して来た。
2年C組のエステル・ルジュヌとルイーズ・ベルチェも2時限目に授業の予定が無かったのか、緊急出張販売の会場である屋内闘技場へ嬉々として入って来る。
エステルとルイーズは会場を見渡してルウの姿を認めると手を振って大声でルウの名を呼んだ。
エステル達が呼ぶ声を聞いた何人もの他の生徒達も、ルウ本人が居るのに気が付くと彼の名を大きな声で呼んだのである。
しかしそれは呼ぶというより嬌声に近かった。
その様子を見たソフィは苦笑してフランに言う。
「フランちゃん……貴女の旦那さんって、凄い人気ね」
「うふふ……まあ……」
しかしフランは全然余裕の表情だ。
ソフィは怪訝な表情で思わず聞き返す。
「気にならない?」
「ええ……生徒達に嫌われるよりはよっぽど良いし、自宅に帰れば他の妻が何人も居るのよ……皆、可愛い妹みたいなものだけど」
ソフィには笑顔で答えるフランの気持ちが理解出来なかった。
自分なら嫉妬に身悶えしてしまうであろう。
伯母さん、私はルウさんと付き合うのは無理そうよ……
ソフィは魂の中でそう呟いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、だん……じゃなかった、ルウ先生!」
2年生に囲まれたルウに声を掛けたのはナディアである。
彼女も2年生の時にアンノウンを呼び出してそのままにしていたので、改めて『仮初の人型』を見に来て、良い物があれば購入しようと思って来場したのだ。
「先生! 約束通りに買い物、付き合って下さい」
暫し何人かの生徒との雑談が終わった後、頃合と見てエステルが申し入れをして来た。
「ああ、任せろ」
「おっと! ボクも一緒に行くよ」
ルウとエステル達が買い物に行くのを見て、するりとナデイアが滑り込んだ。
「ああっ!? 副会長?」「どうして?」
「うふふ、2人ともアンノウン用の『仮初の人型』を買いに行くのだろう? だったらボクも同じ用事だから良いよね?」
先輩の、それも生徒会の副会長にそう言われてはエステルとルイーズは嫌とは言えなかった。
「ははっ、今日のお昼は副会長が学食で1番高いランチをご馳走してくれるらしいぞ」
「え!? ボクが?」
いきなりのルウの話に驚くナディアだが、一瞬にして場の雰囲気を察したのであろう。
「ああ、良いよ。好きなデザートも付けてあげる!」
そのような展開になればエステルとルイーズも現金なものである。
「ご馳走になります! 先輩」「ラッキー!」
「OK! 任せてよ」
大きな声で嬉しそうにやり取りする3人をルウは穏やかな表情で見守っていたのであった。
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