第413話 「幕間 リーリャの信頼」
ヴァレンタイン王国王都セントヘレナ内ホテルセントヘレナ、スイートルーム
火曜日午後8時……
「うふふふふ……」
リーリャは椅子に座っている。
ルウから大きなサプライズを与えられたリーリャは月曜日の午後から満面の笑みを絶やさない。
そんなリーリャにとって今日も1つ良い事があった。
補欠ながら、ヴァレンタイン王国魔法武道部との対抗戦のメンバーに選ばれたのだ。
とんとんとん!
リーリャの居る部屋のドアにリズミカルなノックがされる。
このノックの仕方はラウラだが、彼女だけではなく多数の魔力波も一緒だとリーリャには分かっていた。
マリアナ他、今回の対抗戦のメンバーに違いない。
これから対抗戦の打合せをやろうというのであろう。
「はい!」
「リーリャ様、ラウラです。マリアナ殿他今回の対抗戦のメンバーも一緒ですが、お部屋に入っても宜しいでしょうか?」
ラウラの言葉に対してリーリャは案の定とばかりに頷いた。
「どうぞ!」
「「「「「「「「「失礼します!」」」」」」」」」
魔導拳の魔力波読みの訓練を受けてから、リーリャの索敵能力は著しく大きくなった。
周囲300m以内なら大体誰が近付いたか察知出来るのだ。
事前に魔力波自体を覚えていないと当然氏素性までは分からないが、性別、年齢、背格好、職種、害意の有無、武器携帯の内容等まで識別してしまう。
これもリーリャの天才的な魔法の才能の為せる技であった。
「そこら辺に適当に座って下さい」
「「「「「「「「「かしこまりました」」」」」」」」」
思えばリーリャの周囲の雰囲気も変わった。
自由闊達で天真爛漫なリーリャに影響されて礼儀をしっかりと守りつつも、胸襟を開き、心の底から彼女に仕えるようになったのだ。
「遅れました! 申し訳ありません」
ほんの一瞬遅れて侍女頭のブランカが飛び込んで来た。
彼女も当日の付き添いで『狩場の森』に同行するのだ。
「全員揃ったようですし、始めましょう!」
ロドニア騎士団副団長マリアナ・ドレジェルのひと声で対抗戦の打合せは始まった。
ヴァレンタイン王国魔法武道部の選抜メンバーの情報も当然知らされている。
まずマリアナがメンバーの気持ちを締めにかかる。
「相手は所詮、全員学生です。舐めてかかろうとは思いませんが、こちらは戦闘のプロですから、絶対に負けるわけにはいきません」
「当然だ! ジゼル嬢を含めた3年生4人が主体と思いきや、発表されたメンバーを見たら、1年生が2人も入っているじゃないか!」
マリアナの腹心で勇猛な女騎士であるペトラ・エスコラは相手のメンバー構成に不快感を隠さない。
勝負は常に真剣勝負が信条の彼女にとってはヴァレンタイン王国側が単なる親善試合と見て馬鹿にしたと思ったらしい。
「ペトラ、シンディ先生とルウ先生はそのような方ではありません。何か正当な理由とお考えがあるのですよ」
「ですが……」
なおも食い下がるペトラをマリアナが抑えた。
「良いではないか、ペトラ。獅子はどのような相手にも全力を尽くすという。栄光ある我等ロドニア騎士団はどのような相手でも全力を尽くして戦うのが信条だろう」
「分かりました……リーリャ様とマリアナ様がそう仰るのなら」
ペトラがやっと矛を納めたので、マリアナは微笑んで本題に戻った。
日程、段取りが説明された後、いくつかの組み合わせでクランを組む想定での作戦会議に入る。
今回はハンデとしてロドニア王国側の『狩場の森』の現地での下調べは認められていない。
その為、地形図と放たれた魔物の情報に関してマリアナ達はじっくりと研究を続けて来たのである。
またヴァレンタイン王国に留まり、リーリャの警護をしていると、騎士達や魔法使い達はどうしても訓練不足になってしまう。
その点もハンデと言えば言えなくもないが、さすがにヴァレンタイン側も考慮して、ヴァレンタイン王国騎士隊のサブの訓練場を貸し出してくれたのである。
ただ訓練が土日に限られた事と護衛と言う名の結構な数の監視がついたのは言うまでもないが……
それから約1時間打合せは続いたが、リーリャの疲れも考慮するとして約1時間で終了となった。
マリアナはラウラ、ブランカ以外の人間をリーリャの部屋から退出させた。
残ったこの4人で別件の話をする為である。
別件の話とはずばり、リーリャの結婚話であった。
ルウの確認を取ってこの3人だけに話して他の者には厳秘という事になったのである。
マリアナが美しい眉を顰めるように言う。
「リーリャ様……貴女がお考えになっているほど、お話は簡単ではありませんよ」
「うふふ……私も旦那様と簡単に結婚出来るなどと思っていませんわ……でも」
「でも?」
「旦那様はロドニア王国をお救いされた方よ。それに比べれば今回の件なんてどうって事はないわ。それに私、信じていますから」
「…………」
マリアナの懸念はリーリャも一応は認めているようだ。
しかしリーリャにはルウに対して揺るがぬ信頼がある。
自分に対して何の曇りも無く真っ直ぐな視線を向けるリーリャにマリアナは何も言えなくなった。
「マリアナ殿、私も今度ルウ様に相談しますから」
マリアナはロドニア王国では抜きん出た力を持つラウラがこのように簡単にルウの弟子になってしまった事が今でも信じられない。
いくらロドニア王国を救った英雄だと言ってもマリアナにはピンと来ないのだ。
ルウと正対してその実力を存分に味わったラウラと違ってマリアナはルウの力を伝聞によって知るだけなのだから。
人間とは自分の目で見て確認しない限りは、物事を心の底から信じないものである。
傍らでマリアナの様子を見ていたラウラはかつての自分と全く同じであるマリアナの気持ちが手に取るように分かったのだ。
そして今迄口を出すのを控えていたブランカもマリアナに同意した。
「リーリャ様、差し出がましいようですがこのブランカもマリアナ様と同じ気持ちです。ルウ殿は頼もしい殿方ですが、陛下を含めて王家、そしてロドニア国民が納得するには並大抵の事では……」
「うふふふふ!」
ブランカにそう言われたリーリャは可笑しくて堪らないといったように口に手をあてて笑い出したのである。
「リーリャ様!」
思わず笑い事ではないといった感のブランカ。
「分かりました! 旦那様に相談して、いずれ貴女達2人にそれなりの対応をしましょう」
リーリャは自信たっぷりに言い放つと、悪戯っぽい笑みを浮かべたのであった。
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