第411話 「対抗戦メンバー発表」
魔法女子学園屋内闘技場、火曜日午後4時30分……
本日は通常の練習が早めに切り上げられ、ロドニア王国騎士団&魔法使いの混成隊との対抗戦の日程とメンバーが発表される予定となっている。
部員達はさすがに緊張の面持ちだ。
部長のジゼルや副部長のシモーヌでさえ、厳しい表情で顧問のシンディ・ライアンとルウを見詰めている。
こんな雰囲気になったのは、理由があった。
こういったケースの場合、今迄年功で選ばれていた選抜が違う価値基準から選ばれる事になったからだ。
特に全員に響いていたのはルウの言葉であった。
実力は勿論の事、バランス感覚に優れた者――自分の価値観に囚われすぎずに大局的に冷静な判断が下せる者。
各自が魂の中でそれを合い言葉に切磋琢磨して来たのである。
さあいよいよ日程の発表だ。
シンディがメモを読み上げる。
「開催日は7月11日、時間は午前10時の開始となります……上期終了日の翌日で確定となりました……当学園に午前7時集合とし、馬車で現地に向います。ロドニアチームも一緒です」
コホンと咳払いをしてシンディの発表は続く。
「人数は10名程度を予定していたのですが、各所で協議の結果、最終的には少し絞る事となりました……出場5名、補欠2名の構成となります」
部員の緊張が更に高まった。
彼女は既に相手の陣容が固まった事を伝えたからである。
「まずはロドニア側の確定メンバーをお伝えします」
顧問のシンディが相手のメンバーを読み上げる。
ロドニア王国騎士団副団長:マリアナ・ドレジェル
ロドニア王国騎士団:・ペトラ・エスコラ
ロドニア王国騎士団:・ミーサ・キヴィ
ロドニア王国王宮魔法使い:ラウラ・ハンゼルカ
ロドニア王国魔法使い: サンドラ・アハテー
補欠・ロドニア王国騎士団:エルミ・ケラネン
そして……
補欠・ロドニア王国魔法使い:リーリャ・アレフィエフ
補欠とはいえ、ロドニア側は何とリーリャを入れて来た。
これはラウラの判断である。
密かにルウの造った異界で訓練を続けるリーリャ。
実は彼女はこのメンバーの中でラウラに次ぐ2番目の実力を持つところにまで成長したのだ。
無論、ヴァレンタイン王国魔法武道部の中では唯一ジゼルだけが、その事実を知ってはいるが、他の部員達は冷ややかであった。
王女という身分だからこそ、『一応』メンバーに入れて貰ったという受け止め方なのだ。
続いていよいよ魔法武道部側のメンバーの発表である。
ごくり……誰かの喉が鳴る音が聞こえた。
こちらを発表するのは副顧問のルウである。
彼は淡々と名前を読み上げて行く。
ヴァレンタイン王国魔法武道部部長:ジゼル・カルパンティエ
ヴァレンタイン王国魔法武道部副部長:シモーヌ・カンテ
まあこの2人は順当であろう。
いくら今回の選抜にバランス感覚を重視しているからと言ってこの2人の実力は部内では抜きん出ていたからだ。
まず部員から見て――部長のジゼルは変わったという評判だ。
以前、麗人と言われていた頃は、特定の価値観に縛られて矢鱈に自他ともに厳しく尊敬されつつも後輩からは遠い存在として見られていたのだ。
しかしルウを愛するようになってからは、厳しい中にも頼りがいがあり、優しい先輩として後輩が公私に渡って相談を持ち掛けて来る近しい存在に変わって行った。
また底知れぬ魔法、剣技、体術の実力が著しく上昇し、ある種の『凄味』も加わったのである。
副部長のシモーヌも同様だ。
ルウに魂の窓を開けて貰い、多様な価値観を持つようになり、ジゼルの変化にも大きな影響を受けたといえる。
元々の性格である、愚直なまでの真面目さと誠実さは変わらないが、今迄の後輩に対する高飛車な態度が全く影を潜め、厳しいながら優しく接するようになったのだ。
ヴァレンタイン王国魔法武道部:ミシェル・エストレ
ヴァレンタイン王国魔法武道部:オルガ・フラヴィニー
続いて読み上げられたミシェルとオルガも2年生の中では屈指の実力者でバランス感覚に優れている。
いわゆる妥当な人選であった。
しかしここで驚きの抜擢があった。
ヴァレンタイン王国魔法武道部:イネス・バイヤール
何と入部したての1年生部員の抜擢である。
今迄の魔法武道部の方針であれば絶対にありえなかった事なのだ。
ジゼルとシモーヌは腕組みをして目を閉じていて動揺した様子は無い。
2人ともイネスの剣技を認めているからだ。
だが部員の一部からはどよめきが起こる。
ルウはそんな部員の動揺を他所にして発表を続けて行く。
残るは補欠の2名である。
補欠・ヴァレンタイン王国魔法武道部:デジレ・バタイユ
デジレもミシェルに匹敵する2年生の実力者だ。
ここでホッとしたと雰囲気と同時に1年生部員からは落胆の声もちらほらと聞こえた。
やはり……イネスのように、そうイレギュラーは無いと。
……しかし最大のサプライズはやって来た。
補欠・ヴァレンタイン王国魔法武道部:フルール・アズナヴール
続いて放たれたルウの抑揚の無い声に部員は全員が驚きの声を上げる。
今度はジゼルもシモーヌも含めてであった。
その声は闘技場中に響き渡る。
「「「「「「「「「ええええええっ!!!」」」」」」」」」
「えええっ!? わわわ、私!? 私が!? ななな、何故!?」
周囲は当然の事ながら、当のフルールも何故選ばれたのか信じられない表情だ。
フルール・アズナヴールは風の属性を持ち、最近少しずつ風弾と風の壁を行使出来るようになった、1年生部員である。
贔屓されるような上級貴族の令嬢でもなく、身体も小柄で性格も大人しく、どちらかというと引っ込み思案の少女なのだ。
ルウとは副顧問就任後の模擬試合で組んだ部員の1人である。
※第101話参照
「以上だ! 今、名前を読み上げられた者は選抜クランとして、今後練習をして貰う。このメンバーにシンディ先生か、俺が加わって計8名になったのを更に4名ずつの2班に分けてのクラン構成で実戦練習をする……本番までにバランスを見てレギュラーと補欠の入れ替えも考えるぞ」
ルウの話が終わると、丁度魔法武道部の練習終了の時間が来た。
シンディが締めの挨拶をする。
「選抜のメンバーはしっかりと準備してね。じゃあ今日はこれで練習は終わりよ、皆、ご苦労様でした、解散!」
「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」
部員の挨拶が終わると、直ぐにイネスがフルールの下に走り寄って来た。
「フルール、おめでとう! 対抗戦、一緒に頑張ろう!」
「え、ええ……」
フルールには未だ指名された衝撃が残っているようだ。
彼女は釈然としない顔付きで、去って行くルウの後姿を見詰めていたのであった。
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