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第410話 「マノンの宣戦布告」

 魔法女子学園研究棟2階、火曜日午後12時10分……


 ルウは最近、昼食を摂る場所が学食と研究室の半々の割合となっている。

 今日は午前中に魔法攻撃術C組、上級召喚術B組の授業を終了してから、学食でテイクアウトしたものを持ち帰っていた。

 研究室で午後に行う魔道具研究B組の資料を読みながら、昼食を摂ろうと考えていたのである。

 ルウが自室のドアのノブに手を掛けた時であった。

 背後の、この魔力波オーラは……

 その瞬間、落ち着いた渋い男性の声が掛かる。


「ああ、ブランデル先生じゃないですか……研究室でお昼ですか?」


「ルウって呼んで下さいよ、ベルナール先生」


 3年C組の担任ベルナール・ビュランであった。

 ルウ同様、学食のテイクアウトの包みを下げている。

 今年の12月で退任予定の彼はルウが来るまで唯一の男性教師であった。

 ベルナールの専門は錬金術と魔道具研究であり、彼も先程授業が終わったようである。

 ちなみに専門科目は学年ごとの授業となっているので今年で退任予定のベルナールは2年生の担当を持っていない。


「よかったら、一緒に昼でも食べませんかね。ルウ先生」


「ああ、良いですね」


 5分後――ベルナール研究室


「お茶……良かったらどうですか」


 ルウは持参した自分の紅茶をベルナールに勧めた。

 ベルナールは礼を言い、ルウの勧めを受けた。


「ああ、これは……美味いですね」


 カップに注がれた紅茶の香りを楽しんでから、ベルナールは美味そうに啜る。

 キングスレー商会から購入しているルウお気に入りの紅茶だが、ベルナールも気に入ったようである。

 何となく2人は差し障りの無い話を始めた。


「ルウ先生、貴方は様々な魔法を使いこなす才能豊かで稀有な魔法使いですね」


「師匠が良かったのと理事長以下、皆さんに良くして頂いていますから」


 ベルナールとは最初に会って以来、職員会議で言葉を交わす程度ではあるが、物静かで温厚な彼の性格にルウは好感を持っていた。


「この研究室とも後、半年でお別れだと思うと名残り惜しいですよ……」


「ベルナール先生は退任後、どうされるのですか?」


「好きな錬金術の研究をやりながら、のんびりしますよ。生活の方は幸い魔法鑑定士の資格があるので食うには困りませんね」


 ベルナールはA級魔法鑑定士の資格を保持しているので確かに生活は困らないだろう。

 それに学園から退職金、王国から年金も出る筈なので楽勝である。     


「それに私には貴方と違って家族が居ませんからね、……気楽ですよ」


 しかしルウはベルナールの魔力波と言葉が一致していない事に気付いていた。

 ベルナールには未だやりたい事、いや夢があるらしい。

 ルウには何となく分かったが、それ以上踏み込むほど野暮ではない。

 彼が自ら話す日が来るような気がしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園研究棟2階、火曜日午後1時前……


 この時間のルウの担当は魔道具研究研究B組であり、まもなく授業が始まろうとしていた。


 ここでもルウが、まず継続して行うように伝えたのは地道だが呼吸法の継続だ。

 魔法の根幹が魔力である事は分っている事ではあるが、誰もが途中で魔法の行使、発動そのものに殆ど目を向けてしまう。

 しかし呼吸法の最適化は魔法全ての基本であるというのが師であるシュルヴェステル・エイルトヴァーラルウの教えであり、ルウもそれを継承しているのだ。。

 魔力の核である魂を安定、または集中させて、体内の魔力を高め魔法を発動し易くして行くかが大事なのは勿論、ルウが拘る理由は魔力量の増加を始めとして、術者の潜在能力をも引き出す可能性があるからだ。


 次に鑑定魔法の完全習得と熟練度の上昇が指示される。

 ここでオレリーはそっとジョゼフィーヌとリーリャに囁く。


「私達が習得している魔導拳……とても応用が効きますよ」


「魔導拳が?」「それは……」


「鑑定魔法とは魔力波を読み取り、対象品の出自を探る魔法ですから……魔導拳の魔力波読みは応用練習に最適、これも旦那様の深謀遠慮ですね」


「「成る程!」」


 ジョゼフィーヌとリーリャは思わず顔を見合わせて頷く。

 どうやら2人とも納得したらしい。

 オレリーは納得しながら、バルバトスの魔道具店『記憶メモリア』の手伝いをしている事も大きいと考えていた。

 実戦に勝る練習は無いというのもまた真実なのである。


 そんな思いに耽るオレリーにルウの言葉が響く。


「3つ目の課題は何か好きな物で良い。専門の商人も逃げ出すほどの知識を身に付けるんだ。まず資料になる本を読む事が大事であり、余裕があれば実物を手に取りながらの模擬鑑定が最適だ」


 ルウがいう好きな物とは宝石ジェム貴金属プレシャスメタルを始めとした素材に始まってワンド、短剣、法衣ローブ、革鎧、装飾品等々である。

 鑑定魔法でそれらが放出する魔力波とともに知識で出自と価値を判断して最終的に鑑定する事が魔法鑑定士の業務だが、魔法と共に知識を磨くようにと告げているのだ。


 そこでマノンが手を挙げる。

 ルウが発言を許可すると彼女は嬉々として言い切った。


「先生! 私は子供の頃から宝石ジェムが大好きで、知識なら家に出入りの宝石商にも負けはしませんわ。当然このクラスでもぶっちぎりの1番を自負しておりますの」


「ああ、お前は既にC級の魔法鑑定士だからな。宝石ジェムに特化した上級魔法鑑定士を目指すのも良いだろう」


「はい! 皆様がお持ちの宝石ジェムもそうですし、購入の際には私が鑑定して差し上げても宜しいですわ。そうすればまがい物などをつかまされずに済みますよ。ねぇ、オレリーさん?」


 マノンはいきなり話を振って来た。

 それもオレリーに対する挑発行為とも言える様な言い方である。


「ちょっと……マノンさん」


 オレリーが思わず言い返すとマノンは不敵な笑みを浮かべた。


「ふふふ……未だ鑑定士でもない貴女に対して、私は親切心で申し上げているのですよ」


 ここまで来たら完全に宣戦布告といえよう。

 

 マノンはルウへの橋渡しをオレリー達が断わった事が気に食わなかったらしい。

 最近は何かと言うとオレリーをライバル視している。

 同じ受講クラスにおいて学年で首席のオレリーを抑えてトップになる事で『2番目』の鬱憤を晴らすつもりなのであろう。

 そこでルウが火花散る2人の間に割って入った。


「ははっ、競い合って、全員が頑張ってくれよ」


 ルウは2人をクールダウンさせるように穏やかな表情で言う。


 「夏期講習を経て9月が楽しみだ。俺のケースのように試験内容の結果によっては特例という事も可能性としてはあるからな」


 絶対にマノンより上の魔法鑑定士になる!


 オレリーはルウの言葉を聞きながら、静かに闘志を燃やしていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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