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第405話 「土産」

 ルウ・ブランデル邸大広間、土曜日午前10時……


 ナディア以下、ルウの妻達はルウ、フラン、そしてモーラルが現れるのを今か今かと待っていた。

 ただ残念な事に家人は全員揃ってはいない。


 まずジゼルはロドニアとの親善試合も近いので、魔法武道部の部長として練習の為、魔法女子学園に向かい、不在。

 また最近使用人になったばかりのマルグリットはバルバトスの店の手伝いにアデライドと一緒に行っている筈である。

 筈であるというのは、マルグリットが最近、アデライドの希望により週末の金土はドゥメールの屋敷に勤務していてこちらの屋敷には不在がちだからだ。

 アデライドとマルグリットは余程、馬が合うらしい。

 フランと別々に住む様になったアデライドにとっては良い話し相手が出来て幸せそうなのだ。


 閑話休題。


 ルウ達の今回のバートランド行きはセントヘレナの正門を出て街道の途中から飛翔魔法で到着し、帰りは バートランドの正門を出てから一気に転移魔法で帰還するという報告が家令アルフレッドから為されたのでこうして待機しているのだ。

 ルウの魔法による、全く危険と負担の無い夏季旅行への期待に留守組みの妻達は早くも思いを馳せている。


「ああ、ご主人様マスターのご帰還ですよぉ!」


 アリスの嬉しそうな声が響き、何も無い空間からルウ、フラン、そしてモーラルが次々と現れた。

 その瞬間に響く帰還を喜ぶ妻達の声!


「「「「お帰りなさい! お疲れ様でした!」」」


「お帰りぃ~! ご主人マスター!」


「よくぞご無事で! それと皆様、冒険者上位ランク認定、おめでとうございます!」


 妻達の言葉の後に、アリスの鈴を転がすような甘い声とアルフレッドの渋い声が大広間に響くと、ルウはにっこりと笑って片手を挙げた。


「今回、皆には感謝している。留守を守ってくれて本当にありがとう!」


「旦那様と選んだバートランドのお土産が全員分、ありますから、ジゼルが戻ったら渡しますよ」


 ジゼルが戻る前に、ここでお土産を分配したら揉めるだろうとフランが苦笑する。

 ナディアもその様子が目に浮かんだのか苦笑して肩を竦めた。


「西方の国からの輸入ものです。私はとても気に入りました」


 モーラルが少しヒントを出したのでオレリー、ジョゼフィーヌ、そしてアリスの3人はお土産が何だろうかと、かしましい。


「旦那様! とりあえずウチのお風呂に入ってのんびりしましょう!」


「おう!」


 フランがお風呂に入って寛ぎたいと提案するとルウもすかさず賛成する。


「「「私もっ!」」」


 そこへ他の妻達も一緒に入浴したいという希望が殺到した。

 ルウはいつもの穏やかな表情で快諾する。


「ああ、じゃあ皆で入ろう!」


「「「わあっ!」」」


 ブランデル邸の大広間には今迄の寂しさを吹き飛ばすような妻達の嬉しそうな喚声が響いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 王都セントヘレナ正門、土曜日午後4時……

 正門前にはブランデル家専用の黒い馬車が停まっている。

 御者台にはアリスが座っており、馬車の前ではジゼルが、せわしなく片足を地面に何度も打ちつけながら、待っていた。


 ルウ達が王都を出発したのが木曜日午後……


 一旦、自宅に戻ったルウ達ではあったが、正門から出た為に『記録』が残っており、いわば帳尻合せのようにこの時刻に正門から王都に入る手筈になっているのだ。

 実際にはルウの魔法で屋敷から正門の少し離れた場所へ転移して、それらしく入るのは言うまでもない。

 ジゼルはそれを承知して、魔法武道部の練習が終わってから、アリスに迎えに来て貰うと、屋敷には戻らずに、この正門に来たのである。


 やがて正門外での手続きが終わったのであろう。

 通常の馬へ変身させたケルピー達に跨ったルウ達が入って来る。

 その先頭を歩くルウの姿を認めたジゼルはもう我慢が出来なかった。


 何故、私はこんなに切なくなるのだろう!?

 旦那様にたった、3日会わなかっただけだというのに!


 自問自答しながらもジゼルは大声でルウを呼んでいたのだ。


「旦那様~っ!」


「おお~っ、ジゼル!」


 ジゼルの呼ぶ声に答えて手を振るルウ。

 一目散に駆け寄ったジゼルは何故か涙ぐんでいる。

 目に涙を溜めたジゼルを見たルウは優しく微笑んだ。


「ははっ、泣く奴があるか」


「だ、だって……」


 ルウはそんなジゼルに馬上から手を差し出した。

 どうやらルウの乗っているケルピーに一緒に乗ろうという意味のようだ。


 ジゼルは嬉しそうにルウの手を確り握った。

 するとルウは軽々とジゼルを引き上げ、自分の前に跨らせて彼女を馬上の人にしてくれたのである。


 騎士や衛兵はカルパンティエ公爵家の令嬢であるジゼルを見知った者達も多い。

 彼等は最初、吃驚した目でルウとジゼルのやりとりを見ていたが、直ぐにその視線は慈愛に満ちた温かいものに変わって行った。

 自分も愛する女性と、または今は居らずとも愛する相手と巡り会い、そのような関係を結んでみたい――そう思わせるような睦まじさだったからである。


 やがて3頭のケルピーと1台の馬車はゆっくりとブランデル邸に向って走り去って行ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸、土曜日午後8時……


 帰宅後、ルウはジゼルのたっての希望で一緒に風呂に入ってから皆で夕食を摂る。

 風呂ではジゼルが甘えまくったのは言うまでも無い。

 学園でのきりっとしたジゼルとのギャップが大き過ぎると言えるが、これが本来のジゼルの『素』であると全員が理解しているのである。


 夕食も楽しく終わり、とうとうお土産の披露となった。

 皆が固唾を飲んで見守る中、開ける寸前にジゼルが待ったを掛けた。


「今、ここにはリーリャが居ない、彼女が可哀想だ」


「大丈夫、彼女が同じ条件で選べるように同じセットを買ってあるから」


『姉』として末妹を気遣うジゼルを見ながら対策済だと言うルウ。

 ジゼルはルウがしっかりとリーリャの事を考えていてくれたので満面の笑みを浮かべた。


「うわぁ! さすが旦那様だ!」


 すかさず合いの手を入れたのはナディアである。

 皆がホッとするのが分かる。

 リーリャに対しての気遣いは全員同じだったようだ。


「じゃあ……」


 フランが代表して包み紙を解いて、中身を披露した。


「「「「「おおおっ!」」」」」


 その瞬間、妻達のどよめきの声が木霊した。


 何と中身は綺麗な硝子製のマグカップだったのである。

 ヴァレンタイン王国のマグカップは殆ど陶器製なので、このようなガラス製は珍しい。

 透明な清流のような色、真っ青な空のような色、上品な果実のような色、そして燃え盛る火炎のような色、単色から何色か混ざり合ったものまで多種多様であった。。

 ルウがそのカップの使い方を補足する。


「このカップを冷やして、冷たい紅茶やエールを飲むとぬるくならないから、見た目の清涼感も合わせて暑い時はたまらなく美味しいらしいぞ」


 ルウの言葉に対して妻達は一瞬で、自分が冷えて美味しい飲み物を味わう光景をイメージしたようだ。

 思わず誰かがごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

 更に好みのマグカップを巡って揉めない様にフランが念押しする。


「旦那様の仰った通り、同じ物を5セット買ってあるから、希望通りのものを選べるわ。だから……喧嘩しないでね」


「「「「「はいっ!」」」」」


 万全の態勢に妻達は一層元気良く、返事をしたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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