第400話 「冒険者ランク検定②」
「私は魔法剣士です……剣技にて稽古をつけて頂ければと思います」
ミンミはギルドに備え付けの試合用の模擬剣を手に取った。
魔法剣士が良く使用するミスリル製のものだが、刃を潰した練習用の剣である。
片やルウの方は何と木刀を取った。
「ルウ様……生意気を言うようですが、その木製の剣では魔力波の伝導が巧くいきません。それでもお使いになりますか?」
ミンミの言葉にルウは黙って頷く。
「分かりました……いざ!」
2人は向き合って見詰め合う。
……ルウが剣を取るのを、フランが見るのはこれが初めてである。
フランが思うにルウは本来魔法使いであり、魔導拳という素晴らしい体術を持ってはいるが剣技は全くの未知数である。
相手はかつてルウが魔法の指導をしたアールヴらしいが、本職の魔法剣士なのだ。
フランはほんの少し心配になった。
その少しの心配をも完璧に打ち消したのはモーラルである。
「フラン姉……大丈夫……ルウ様は私達の旦那様は世界一の剣士ですから」
「え!? モ、モーラルちゃん!?」
「どうか、見ていて下さい……その意味は直ぐ分かります」
「…………」
ミンミが剣を構え、何か呟くとその刀身が発光し始めた。
魔法剣士の剣技のひとつ、魔導剣である。
言霊の詠唱により発動された属性魔法の魔力波を剣の刀身に込め、剣の切れに加えて魔法の攻撃力を増した恐るべき剣技だ。
フランは魔導剣の存在は知ってはいたが、目にするのは初めてである。
「あ、あれが……魔導剣」
「はい! あのミンミというアールヴの魔法属性はフラン姉と同じ火属性です。彼女の使う剣は『炎の魔剣』と呼ばれています」
モーラルの言う通りであった。
ミンミがルウに対して正眼に構えた剣の刀身からは凄まじい勢いで炎が噴き出したからである。
「という事はあの子も……」
「ええ、彼女はフラン姉同様、火の精霊である火蜥蜴に祝福された魔法使いなのです」
そんなモーラルの言葉が終わるか終わらないうちであった。
「たあおおっ!」
ミンミの口から裂帛の気合が発せられ、信じられない程の速度でルウの懐に飛び込んだのだ。
それは人間離れした踏み込みの鋭さであった。
「あ、ああっ!?」
その瞬間、ルウの身体が魔剣の炎により、まっぷたつに断ち切られた……ように見えたが、フランが見たのはルウの残像である。
「たああっ、いやあっ!」
しかしミンミは残像を斬ったと分かっていたのか、攻撃の手を休めず、ルウを追う。
炎を噴き出す刀身を横に薙ぎ払い、突きを何発も送り、変幻自在の攻撃を繰り出して行く。
だが対するルウはそれ以上の動きで難なくミンミの攻撃を全て躱し去ったのである。
そして信じられない事が起こった。
「たっ!」
ルウが発した短い気合と共に木刀が一閃すると、ミンミが防御の為に咄嗟に構えたミスリル製の剣がまっぷたつに折られてしまったのである。
驚いた事にルウは木刀を構えてもおらず、ただ腰に添えていただけの状態から、目にも留まらぬ早業での攻撃であった。
「あ、あれは!?」
唖然として言葉も出ないフランにモーラルはその恐るべき剣技の正体を告げた。
「居合い……です」
「居合い!?」
「このヴァレンタイン王国から遥か東方の国、ヤマト皇国……ヤマトの剣士サムライの中でも剣技に長けた達人である、サムライマスターが使う技です」
「ヤマト皇国……サムライマスター……」
フランとモーラルがそんな会話を交わす中、ひと際大きな声が響き渡る。
「参りました!」
そこには折れた剣を手に持ったミンミが、ルウに対して深く頭を下げていたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やはりルウ様はお強い!」
ミンミは感嘆したように言う。
ルウは何も言わずにいつもの通り穏やかな表情を浮かべている。
「魔導剣を授けてくださったのと同様に、私にもいつか、サムライ究極の剣技、リシン流の手解きをお願い致します」
そんなルウをマスターのクライヴ・バルバーニーは驚愕の表情で見詰めていた。
ミンミの魔導剣の手解きをしたのは魔法使いである、このルウらしい。
またルウの今、使った技は魔導剣とも全くの別物であり、身のこなしなどは確かにこの国では見られない。
そしてミンミが『リシン流』と呼ぶのは遥か東方の国、ヤマト皇国のサムライの使う伝説の剣技だとクライヴも以前から聞き及んでいた。
先に使った魔法といい、やはりルウという男は底が知れない……
クライヴは改めてエドモンがルウに惚れ込んでいる理由が分かる気がした。
「おい、マスター……これは俺達には荷が重過ぎる。て、いうか俺達がランク認定の試験を行うっていうのが、おこがましいぜ」
渋い表情でクライヴに言ったのは冒険者ギルドのサブマスターの1人、ブリアック・カルヴェだ。
どうやらブリアックは完全に兜を脱いだらしい。
模擬戦闘をパスしたいとクライヴに申し出たのだ。
だが、これは……ルウ達の事をもっと知れという、エドモン様の意思だろう。
クライヴははっきりとその事を確信していたのである。
そんな思いにふけるクライヴにブリアックは話を続けた。
「俺はルウどころか、多分あのフランシスカ嬢やモーラルという小娘にも勝てないだろう。先程の魔法の実演だけで3人には俺と同じAランクの認定をするつもりさ。あんたはどうする? マスター」
ブリアックの本音はサブマスターとして恥をかきたくないという事であろう。
むう……だが、俺は実際に手合わせをしていない。
クライヴは決意した。
「俺は……」
難しそうな表情で見詰めるブリアックにクライヴが言葉を返そうとした時である。
「クライヴ様……宜しければ私とモーラルの組み手をご覧になって頂けますか?」
「な!?」
クライヴにいきなり申し入れをして来たのは、美しい顔立ちに優しい笑顔を浮かべたフランであった。
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