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第4話 「慟哭」

 頬に当たる風が気持ち良い!

 フランはルウにしっかり抱きかかえられて、広い大空を飛んでいた。


 森の木々が遥か下に見える。


 フランは初めて飛ぶ大空の心地良さと、ルウの魔法使いとしての素晴らしい才能に感嘆していた。

 

 凄い! 凄いわ!

 

 形容のしようがない、単純な感情を表す言葉しか出てこないのが可笑しい。

 火と風の属性魔法に治癒の魔法、そして索敵魔法も……底が見えないとはこの事だろう。

 この人なら―――魔法使いとしての実力が充分なこの人なら、あの娘達も納得するに違いない。


「お~い、フラン。襲撃された所は?」


 ルウに声をかけられて、フランはそんな思いを中断される。


「今、真上に上昇したのよね。だったら確か北西の街道沿いの筈よ」


「OK!」


 くんか、くんか……フランはつい匂いを嗅いでしまう。

 汗の匂いがするけど……私はルウに抱かれていて安心する。


 そういえば、昔からすぐ匂いを嗅ぐから、犬っ娘って言われていたっけ。

 ふふふ……

 

 フランは、何気に思い出し笑いをしてしまった。


「あそこかな?」


 自分を抱いていて両手が塞がっているルウが、顎で指す方角を見ると、見覚えのある馬車がひっくり返っているのが見える。


 今まで浮き浮きしていたフランの表情がそれを見た途端に暗くなった。

 昨夜の襲撃を思い出してしまったのだ。

 現場は昨夜起きた惨劇のままに違いない。

 それに気付いたルウがそっと囁いた。


「フラン、少し我慢してくれ。もし駄目だったら目を瞑っていれば良い」


 ルウ……私を気遣ってくれているのね。 

 ありがとう!


 フランは、ぎゅっとルウの腕を掴んだ。


「あの独特な魔力波オーラは感じない、例のあいつらは居ないようだ」


「大丈夫! 確り見るわ、自分の為に戦ってくれた人達だもの」


 フランは覚悟を決めたように言い切ると、もう1度ルウの腕を掴む。

 そしてふたりはゆっくりと、襲撃現場へ降りて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これは……酷いな」


「…………」


 フランが襲われた現場は、凄惨極まりないものであった。

 彼女を守ってきた騎士は殺されてから、あの化け物に食い散らされたらしく遺体は見るも無残な状態だったのだ。

 馬車を引っ張っていた馬達も同様だった。


 その中にいくつか奴等の死体が転がっていた。

 ルウは注意深く、それらを調べている。


「やはり擬似生命体ホムンクルスのようだ。もしかしたら、邪悪な死霊術や魔獣と組み合わせた悪鬼としての個体かもしれない」


 フランはその非情な光景を見てじっと立ち尽くしていた。


「フラン……」


 ルウに呼ばれてハッと我に返るフラン。


「騎士の、彼等の遺品は何を持って帰れば良い?」


「ええと、あまり大きな物は駄目よね」


 フランは、ルウの持っていた背嚢を思い出していた。

 旅に必要な物が詰まっており、余分なスペースは無い。


「大丈夫さ、これがある」


 ルウが指差した左腕に魔道具らしい腕輪が装着されていた。。

 どうやらそれが、『収納の魔道具』になっているらしい。


「それって、まさか!?」


「爺ちゃんに教えられた通り付呪魔法エンチャントで作ったんだ」


 付呪魔法エンチャント!?

 付呪魔法エンチャントって、言った!?


 そう言えば襲って来た奴等が擬似生命体ホムンクルスと彼はすぐに見抜いた。

 やはり7千年も生きた偉大なるアールヴのソウェルがルウを自分の後継者にと指名したのは伊達じゃ無いのだ。


「分かった……じゃあ悪いけど、ルウ。皆さんの剣と遺髪を回収して貰える? わ、私も当然やります」


 フランは遺体に近づいて剣と遺髪を回収しようとしたが、改めて遺体の凄惨さに吐き気を催したのだろうか……蹲って胃の中の物を戻してしまう。


「おいっ、フラン!」


 ルウが駆け寄り、フランを抱き抱えると、木陰に連れて行って横たえる。

 汚れた口元を乾いた布で拭われると、フランは外套を掛けられ、頬をごつい手で優しく撫でられる。


「大丈夫か? 無理するな。慣れてなきゃ仕方が無い、俺がやっといてやるよ」


 フランは情けなかった。

 自分を守って死んだ騎士達に、触れる事も出来ない弱い自分が……


 ルウは嗚咽するフランを暫く見守った後に5人の騎士達の剣と遺髪を回収した。

 彼等の剣は大きい物でロングソードがせいぜいで、主にショートソードだったので、手入れと収納に楽だったのは幸いであった。


 遺髪は甲冑に紋章がついていたので、それを剥がして目印とした。

 全ての作業が終ると、ルウは改めて横になっているフランに声を掛けた。


「フラン、終わったぜ」


「…………」


「大丈夫か? じゃあ、お前の家に向かおう、また俺に摑まれ」


「…………」


「フラン……」


 ルウがフランに近付き、肩に手をかけて抱き起こそうとした時であった。

 嗚咽していたフランが号泣し始めたのである。


 我慢していた感情が一気に堰を切ったように爆発したのだ。


「うううううう、わあああああああああん!」


 ルウはそっと彼女の背中を擦ってやり、大丈夫、大丈夫だと声を掛けている。

 そんな彼女を慰める声が、自分の意思に反して掠れていたのを……

 ルウ自身も気付いていなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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