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第376話 「喜びの渦」

 屋外闘技場、午前10時20分……


 魔法攻撃術B組の授業中、生徒達はルウの指示で魔法習得の原点に返って呼吸法の模索に入っている。

 その中でジョゼフィーヌは目を閉じて横たわったまま、ルウが召喚した風の精霊シルフ達の姿を認めて念話を送った。

 彼女が伝えたのは決して特別なものではない。

 単純な挨拶程度の意思表示だけである。


 そもそも精霊は基本的には人間のように言葉を発さない。

 ここで具体的に表現するのは困難であるが、感情のような思念を送って相手に意思疎通するのが精霊一般の会話なのだ。

 ジョゼフィーヌの念話が届くとルウと戯れていた風の精霊シルフの1人がジョゼフィーヌの方を振向いた。


 以前のジョゼフィーヌであれば考えられない事である。

 全ての精霊から祝福されたルウは全ての精霊から見れば同胞以上の存在であり、アールヴでいえばソウェルのような存在だ。

 そんなルウを差し置いて風の精霊シルフを振向かせるという事は、ジョゼフィーヌが自分達の風の属性としての中級魔法使いミドルウイザードどころか、上級魔法使いハイウイザードとして彼女達にも認められつつあると言えよう。


『ジョゼ! さすがだな。 お前が初めて呼吸法を学んだ時の事を思い出して欲しいんだ』


『旦那様! 懐かしいですわ……忘れようにも忘れるわけがありません。 あの春季講習の授業が無ければ私は旦那様の妻となってはおりませんでしたから』


 ジョゼフィーヌが懐かしい記憶を手繰たぐってしみじみ言うとルウの意思が彼女に伝わって来た。


『では俺の言いたい事は分るな? 俺と共に風の精霊と交歓し、その力を借りて、ここに居る生徒達に呼吸法発見の手助けをして欲しいのさ。お前にとっても精霊と親密に触れ合う事が更なる成長の糧ともなる』


 念話とは魂の交歓による意思のやりとりである。

 お互いに魂をオープンにすればますます理解が深まるのだ。

 ジョゼフィーヌにはルウの過去の経験や今、何を言いたいかが即座に分ったのである。


『はい! 旦那様、分りますわ! 初めての授業の時に風の精霊シルフと触れ合った喜び……貴方が過去に経験した喜びを私にもと、導いて下さったのですよね。魔法使いとしては極上の喜びですから私もあの喜びをクラスの皆に体感して欲しいですわ。この旦那様のお考えと私の考えは全く同じなのですから』


『良いぞ、ジョゼ。その通りさ。それに風の精霊シルフの1人がお前に興味を持っているようだ。彼女の意思がはっきりと伝わって来るだろう?』


『はいっ! あの風の精霊シルフの彼女は私達の考えに賛成だし、私と話してみたいようですわ。それは何故かというと……うふふ、旦那様との関係を気にしているようですよ』


 ここでいうルウとの関係は単に肉体的なものだけでは無い。

 魂と魂との結びつきをいうのである。

 ルウのつがいとして風の精霊シルフ達に認識されていたジョゼフィーヌであるが、現在その意味でどこまで深い間柄なのか興味を持たれたのだ。


『ははっ、頼むから仲良くやってくれよ、じゃあ早速いってみようか』


 2人の会話が終わった、その瞬間である。

 屋外闘技場全体が清涼な大気に満ち溢れた。


「え?」「何!?」「こ、これって!?」


 横になって思い思いに呼吸法を試していた生徒達の間に驚きが走る。

 精霊の存在を認識出来なくても何者かが降臨している事を感じたのはさすがに魔法使いだと言えよう。


 その時ルウの声が響き渡る。


「皆! そのまま静かに訓練を継続しろ。もしリラックス出来るならそのまま身も魂も解放するのだ」


 ここで直ぐに生徒達に対して精霊の存在を伝える必要はない。

 酷なようであるが、この後に生徒達は、精霊とはっきり交歓出来る素質のある者と出来ない者に分れてしまうからである。

 それよりも今はこの訓練の最初の趣旨通り、適正な呼吸法を円滑に見つける為にリラックスしてくれれば良いのだ。


 一方、風の精霊シルフの存在を感じているのは生徒達だけでなく、ルウの傍らに横たわっているフランも同様である。


 月曜日の夜に異界での訓練の際にはいくつか課題クリアに向けて有意義な結果は出ていたが風の精霊シルフとの交歓に関しては余り進展していなかった。


 それが今、フランの魂をノックして来る風の精霊シルフ達が大勢居る。

 どうやらフランに興味があるようだ。

 火の精霊である火蜥蜴サラマンダーとの会話で精霊会話のコツを掴んでいたフランにとっては交歓する良い機会チャンスである。


 ただ、ここで難しいのが自分の魔法適性と精霊との兼ね合いである。

 フランの場合、準適性が適性に近いくらいの能力を持つ複数属性魔法使用者マルチプルである。

 しかし火蜥蜴サラマンダーとあれだけの交歓をしてしまうと他の属性の精霊達は通常、一歩引いて術者を見るのだ。


 フラン自身も火蜥蜴サラマンダーとの『仲』を隠すつもりはない。

 その上で仲良くなって力を貸して欲しいという挨拶をしたのである。


 風の精霊シルフ達は何か相談をしているようであった。

 先程のジョゼフィーヌ同様、ルウとの魂の繋がりの具合も知りたいらしい。


 ここで驚くべき事が起こった。

 風の精霊シルフ達を介してフランとジョゼフィーヌが魂の交歓を可能となった。

 すなわちお互いの念話が可能となったのである。


 今迄夫のルウとしか話せなかった念話が私達で出来る!


 思わず話したフランとジョゼフィーヌはそれぞれの事情は違っても風の精霊シルフ達が求めるルウとの間柄に関しては声を大にして一緒に答えようという考えで即座に一致したのだ。


『旦那様に対する私達の気持ちや考えは一緒ね、ジョゼ』


『ええ! こうして念話が出来ると余計にそれを感じますわ。フラン姉』


『では旦那様に貴女が頼まれた事を含めて彼女達に答えて良いですね?』


『はいっ!』


 こうした会話の上でフランとジョゼフィーヌは愛する夫に対する気持ちを包み隠さず風の精霊シルフ達に晒したのである。


 ここで一気に屋外闘技場に一陣の風が吹き抜けた。

 どうやら風の精霊シルフ達はフランとジョゼフィーヌ2人のルウとの絆に驚いたらしい。


『私達の旦那様に対する絆は揺るぎません!』


『はいっ! その通りですわ!』


 驚いた精霊達に念を押すように言い放った2人。

 一瞬間を置いて今度は爽やかな涼風が吹く。


 どうやらフランとジョゼフィーヌの魂の絆は風の精霊シルフ達に受け入れられたようだ。


 生徒達もルウの注意があったので今度は比較的動揺せず、訓練を続けている。

 時折感嘆の声があがるのは風の精霊シルフの存在を感じている者が出ている為だ。

 そうでない生徒も今迄にない解放感に包まれているようである。


 かつて風の精霊シルフと交歓し、その加護に喜びを感じたルウとジョゼフィーヌ。

 そして今、フランや生徒達もその喜びや一端を知った。


 今、魔法女子学園の屋外闘技場は爽やかな涼風が喜びの渦となって湧き上がっていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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