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第374話 「発進会お開き」

 リベルト等3人が因縁をつけて来た冒険者達を店の外に出している

 それを見たルウは満足そうに頷いた。


「上手くやっているようだな、アーモン」


「は! ルウ様。彼等も、もう少しで1人立ち出来るでしょう。そうしたら私もお役御免、次の仕事に取り掛かりたいものですな」


 この人も!

 ルウ先生の……従士!?


 ルネが吃驚してアモンを見る傍らでカサンドラがはたと手を叩いた。


「そう言えば彼等の中の男には見覚えがあるぞ。このシチュエーション……かつては彼等が!?」


 カサンドラの言葉に対してルウが彼等の素性の説明をしてやる。


「ははっ、そうだ。彼等は以前、鉄刃団アイエンブレイドと呼ばれていた愚連隊だ」


 そこにリベルト以下3人が戻って来て訝しげにカサンドラを見る。

 あちらも何か記憶が甦って来たようだ。

 やがてニーノがあからさまにカサンドラを指差した。


「ああっ、この女!? あの時のがさつな男女おとこおんなだぁ!」


 以前に街でカサンドラへ声を掛けた時の記憶が甦ったのであろう、ニーノが叫んだ瞬間にリベルトの鉄拳がニーノの頭に炸裂した。


「ぎゃう!」


「馬鹿野郎! お客様に何て失礼な事を言うんだ! お前はもう鉄刃団アイエンブレイドじゃあないんだぞ」


「す、済みません! ボス! い、いや、会頭!」


 ぷっくくく……


 どこかで笑いを堪える声がする。

 誰が?

 皆の視線が集まる。

 笑っていたのはルネであった。


「こ、こらぁ! ルネ!」


「男女って、ははは、お姉様らしい! 目立つから街中で男性に凄く声を掛けられるけど、相手とひと言でも話したらそう言われてしまうのよね」


「ルネ! お、お前!」


「でもね! 本当のお姉様は私なんかと違ってとても繊細で優しいし、気配りが出来る女性ひと。ただ、それが上手く表現出来ないだけなのよ。それを理解してくれる男性は必ず居る」


 ルウ先生……みたいにね……という言葉をルネはそっと飲み込んだ。


「ル……ネ……」


 ルネの考えている、『何か』を感じたのであろうか……

 それ以上詰問せず、カサンドラはそんな妹をじっと見詰めていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう! お前等、初仕事は上手くやったみたいだな。ルウの推薦を信じて良かったぜ。これからは他の店でもこうやって毅然として仕事を遂行していけばどんどん信用が着いて来ると思うぜ」


 暫くして厨房の奥からその堂々たる巨体を現したのは英雄亭の店主、ダレン・バッカスである。

 鋼商会の面々に労いの言葉を掛けるとそのままアモンの傍らに立ったのである。

 ダレンが店内でアモンと並んで立つとそれは壮観であった。

 2人を見たモーラルが嫣然と笑う。


「ふふふ、ダレンさんとアーモン殿が一緒だと何か男臭さにくらくらしますね」


 モーラルの言葉を聞いたダレンが苦笑した。 


「男臭さって何を言っている。俺なんかもう枯れた爺さ。それに比べりゃ彼はまだまだ若いだろう?」


 それを聞いたルウとモーラルが今度はぷっと吹き出した。

 アーモン――悪魔アモンは気の遠くなるような神代の時代から今迄生きているからである。


 果たして彼は一体何歳なのか?


 ここはまともに突っ込もうとしても突っ込めない所である。

 人化しているのを知っているのはこの場ではルウとモーラルだけだし、本人以外に答えられる者など皆無なのだから。


 当然、アモン当人は無表情で無言だ。

 一方、ダレンは自分が言った事が何故、うけた・・・のかも、分からずきょとんとしている。


 それを見たルウとモーラルはもう1度顔を見合わせて微笑んだのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 居酒屋英雄亭、火曜日午後9時……


 新生クラン『ステッラ』の発進会も早やお開きの時間である。

 場所がオープンなだけに各自の得意技やそれに基づく連携などの話は場所を変えて次回へ持ち越しという事になった。


「ご馳走さん!」 


「相変わらず美味しい料理ですね、ご馳走さまでした」


「お酒も最高です。楽しい時間を過ごせました」


 ルウとフラン、そしてモーラルはダレンとニーナ達英雄亭のスタッフに食事の礼を伝えている。

 金さえ払えば、食事など作って当然という貴族や上級商人も多い中、2人の態度は周りからも温かい目で見守られていた。


 礼を言われたダレンも嬉しそうな表情だ。


「お前達がそう言ってくれると嬉しいぜ。ただなぁ、ウチはどうしてもさっきのような柄の悪い、荒っぽい連中も来る店だ。そこさえ何とかなればな」


「あ、あの……」


 そんなダレンにカサンドラも何か言いたいようだ。


「店主! 貴方が作った料理……とても美味しかったんだが……いずれ私にも作れるかな?」


「え!? 姉さん?」


 料理を作りたい?

 今迄に調理用ナイフも使った事の無い姉が?

 ルネは思わず吃驚してしまう。

 しかし更にカサンドラが言った言葉にルネはそれさえも通り越して固まってしまう。


「ルウ様が美味しそうに召し上がっていたのだ。私もぜひ……作ってみたい」


「がははっ! 好きな男の為にか? 良い心掛けだ。大丈夫! 頑張ればいずれ作れるさ」


 カサンドラの言葉を聞いて吃驚したのはルネだけではない。

 ほろ酔い気味のフランでさえ驚きの余り、目を見開いていたのである。

 カサンドラがまさかそこまで『本気』とは到底考えていなかったに違いない。


「おいおい、若奥様達よ。聞いたか? 新たな強敵出現だ! 負けていられないだろう?」


 ダレンは面白がってフランとモーラルを挑発した。

 そうはいっても料理が大得意のモーラルは余裕の表情である。

 しかし料理がまだまだ不得意なフランの顔色は見る見るうちに青褪めて行く。

 そんな時にルウの声が優しくフランに掛けられたのだ。


「フラン、俺もダレンさんの料理を覚えてみたいんだ。皆で一緒に習おうか?」


 え!? という表情のフランに場の空気を察したダレンがすかさずフォローを入れる。


「おう! 旦那までも料理をやるか? ははは、こりゃ良い! 皆に伝授したら英雄亭の2号店でもやって貰うか」


「おう! ダレンさん、そりゃ良い考えだ。フラン、一緒に習おうな」


 相槌を入れるルウの表情はいつも通り穏やかで変わらない。


「はいっ!」


 優しい夫の言葉に元気良く返事をするフランは先程の動揺したこころが落ち着き、爽やかな気分になって行くのを感じていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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