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第37話 「春期講習①」

 ルウはベルナールと共に職員室に入り、自分の席につくと、講習を行う準備をする。

 やがて……

 ケルトゥリがやって来て手を叩き、春期講習前の会議をする旨を、職員全員に伝えた。

 そして、ルウの所にやって来る。


「ルウ先生、生徒会長のジゼルと勝負をするようね?」


 ルウが頷くと、ケルトゥリは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 はっきり言って、野次馬気分なのに違いない。


「学園に来た早々、面白い事をやってくれると思ってね。ちなみにジゼルとナディアの担任は私なの」


「お! と、いう事は……」


「ええ! というわけで、当日、あなた方の立会人は私だから宜しく」


 そう言い残し、ケルトゥリは会議室へ消えて行く。


 ケルトゥリと、入れ替わりに現れたのはフランである。

 どうやら、ルウとケルトゥリのやりとりを見ていたらしい。

 

「教頭に何か言われたの?」


 フランは心配そうに聞いて来る。

 

 ルウは微笑むと、ゆっくり首を横に振り……

 フランへ、「一緒に会議室に行こう」と促したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 職員会議の内容は……

 春期講習の進め方と注意点の確認である。

 冒頭のフランの挨拶とケルトゥリからの説明が終わり、会議はすぐに終了した。

 その後は、各自が受け持つクラスの教室へ移動するのだ。

 

 ふたりが向かうのはフランが担任を務める、2年C組である。

 ルウも、副担任となる予定となっている。

 今度の4月から、新2年生となるこのクラスは……

 フランによると、様々な問題を含んでいるらしい。

 

 それは、すぐにはっきりと現れた。 

 

 フランとルウが教室へ入っても、朝の挨拶が殆ど無い。

 数人の生徒が「お早うございます」と言ったくらいである。

 その中には、顔見知りになったミシェルとオルガも含まれていた。

 

 後の生徒は、何をしているかと言うと……


 ひたすら教科書を読み込む者が居るかと思えば、貴族令嬢らしい者は取り巻きに囲まれ、お喋りに夢中である。

 何人かの商家の娘らしい者達はルウに関心があるらしく、露骨にこちらを指差して、小鳥のようにさえずっていた。


みんなぁ! 静かにして!」


 生徒のひとりがいきなり立ち上がると、大きな音を出し、手を叩きながら叫ぶ。

 その姿はまるで、ケルトゥリのようであった。

 

 彼女の声と手を叩く音で、お喋りをしていた生徒達が黙りった。

 貴族令嬢も顔をしかめるが、取り巻きと共に静かになる。

 そこでルウは、フランにもう再び挨拶をしようと促した。

 

 フランは頷くと、思いっきり息を吸い込んだ。

 そして、大声で言い放つ。


「お早うございます! 皆さん! 今日から春期講習が始まります。来たるべき新学年を迎える為、学んだ事をしっかりおさらいしておきましょう」


 おおおっ!


 生徒達からは、軽いどよめきが起こる。

 フランがこんなにはっきりと、挨拶をしたのは過去に無かったからだ。


 続いて、フランはルウを紹介する。


「皆さんに、新しい先生を紹介します。ルウ・ブランデル先生です。今年からこのクラスの副担任になっていただく予定です」


 先ほど、ルウを見て騒いでいた、商家の娘らしい数人が、はしゃぐ。

 また、ルウを指差した。


「こらっ! アンナにルイーズ! ルウ先生に失礼でしょう! 罰として立ち上がってしっかり自己紹介しなさい!」


 フランは、彼女達の名を呼び、きっぱりと命令した。

 

 新任のルウに、自分の名前を早く知って貰いたい気持ちもあるのだろう。

 ふたりの生徒は意外にも、素直に聞き、元気良く立ち上がった。


「アンナ・ブシェです! ルウ先生! 宜しくね!」


「ルイーズ・ベルチェです。優しくして下さいね、ル・ウ・せ・ん・せ・い!」


 元気良く大きな声で挨拶しながらも、しなを作る視線が、熱っぽく注がれる。

 

 そんなふたりの視線を受けても、ルウは穏やかに微笑んでいる。


「俺はルウ、ルウ・ブランデルだ。宜しくな、アンナ、ルイーズ」


「まあ、俺ですって!」


「言葉遣いがなってないわ!」


 非難が、何人かの生徒達の間から出た。

 ルウを見ながら、何やらひそひそと囁かれている。


 フランはそんな生徒を無視し、授業を開始する事にした。


「早速授業を始めます。『魔法学Ⅰ』を開いて貰えるかしら」


 魔法を円滑に行使するには、精神の安定と集中を図る事が重要である。

 その為には……

 まず有効なのが、『呼吸法』と記載されていた。

 

 魔法使いが使う呼吸法は……

 常人の呼吸とは全く違うリズムである。

 なので、最初は慣れなかったり、苦痛を伴ったりする。

 

 しかしこの呼吸法を無理をせず少しずつ行い、だんだん自然に行えるようになると……

 魔法式を唱える際のリズムが良くなったり、呼吸法から生じる落ち着きから魔法発動の安定さを保つ事が出来る。

 それ故、魔法を学ぶ者で、呼吸法を学ばない者は居ない。


 呼気や吸気。

 いわゆる息を吐いたり吸ったりする。

 そして止気、すなわち息を止める事。

 これを、ある一定のリズムで繰り返す。

 

 例えば、息を吐く呼気を、連続で4回行い、止気する。

 その次は、息を吸う吸気を、連続で4回行い、止気するなどだ。

 

 このような呼吸法の、回数や呼吸の間隔など、厳密な法則はない。

 各個人が適合した形で行えば良いのである。

 

 止気する際にリラックスして、他の事を一切考えずに行うと、集中力を養う為にも有効である。


 シュルヴェステルが指示したルウの修行方法は、基本的な呼吸法に加え……

 風を司る精霊シルフの存在を意識し、取り入れる独特のものだ。

 

 人も他の生物達も、基本は大気(※酸素)を吸い吐く事で生きている。

 すなわち、風の魔法属性を持つ者は勿論、違う属性者も含め、生きとし生けるもの全てが、大気を司る彼女シルフ達の加護を受けている事になる。

 

 他にも利点メリットはある。

 

 自分の行う呼吸法が、シルフ達の吐息である、穏やかな風と一体になれば……

 呼吸法の効果は、飛躍的に伸びるのだ。

 

 更に効果を望むなら、この修行を、屋外で行う事がお勧めである。

 そうすると風の精霊シルフは勿論、他の精霊達の加護も受け易くなり、相乗効果で、魔力量の高まりを促進し易くなる。


「では呼吸法からやります。皆さん宜しいでしょうか?」


 フランが大きな声で呼びかけるが、ここでも彼女の指示通り、呼吸法を行う者は少ない。

 皆、思い思いに『魔法学Ⅰ』の違う頁を読み込んだり、生徒同士がお喋りをしている。

 

 片やルウは……

 教壇に立つフランの傍らに控えていたが、彼女に目配せすると、生徒達の所へ向かう。

 

 目を閉じて真面目に呼吸法を行っている生徒達を行き過ぎて……

 ある生徒を見れば、全く違う頁を、熱心に読み込んでいた。

 あまりにも集中しているので、ルウが傍に来ても全く気付かない。

 

 ルウは、彼女が広げている『魔術Ⅰ』の頁の上に、そっと手を置いた。

 生徒は「びくっ!」と反応し、ルウを睨みつける。


「な! 何をするんですか?」


 栗色髪の、化粧気の無い少女。

 地味で、真面目そうな雰囲気だが、何故か態度は頑なだ。


「今は皆で呼吸法をやる時間だぞ。お前が読んでいる頁の、『感性の磨き方』では無いよ」


「私にはもう呼吸法は不要です。それに私はお前ではありません、ちゃんと名前があります」


 小さな肩を震わせ、抗議する少女へ、ルウは穏やかな笑顔を見せる。


「お前に呼吸法の修行が必要か不要かはフラン、いやフランシスカ先生が判断する。まずは皆と一緒にやって欲しい」


「……分かりました。でもまたお前って言いましたね。私にはオレリー・ボウと言う名前があります。お前なんて呼ばないで下さい」


「じゃあ、オレリー。一緒に呼吸法からやろうか?」


 改めて笑顔を見せるルウに対し、最初は憮然としていたオレリーも、しぶしぶ頷いた。


 次にルウが向かったのは……

 再び取り巻き連中とお喋りに夢中な、貴族令嬢らしい娘の下だ。

 

 ルウが目の前に立っても、全くお喋りをやめようとしない。


「他の生徒への迷惑になる。講習をまじめに受ける気が無いなら教室を出て行ってくれないか?」


 ルウがそう言っても、その生徒は完全に無視し、お喋りをやめない。

 

 さすがに、取り巻きの連中の3人は、喋るのをやめ、ルウを見つめていた。

 頃合いと見て、ルウは指を「ぱちん!」と鳴らし、いきなり魔法を発動する。

 

 すると、何という事であろうか。

 今まで小鳥のように囀っていた、生徒の声が、いきなり途絶えたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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