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第36話 「用意」

 ジゼルとの勝負をすると決めた、その日の午後……

 理事長室でルウとフランは、アデライドから狩場の森についての説明を受けていた。

 

 『狩場の森』のシステムを、フランは既に良く知っていた。

 なので主に、ルウが説明を受けるという事になる。

 

 アデライドによると……

 この森は、王都の近郊に位置し、生徒が魔法の発動及び効果を検証する為、訓練場として造られた。

 王国の、騎士士官学校、魔法男子、女子両学園が共同所有で買い取り、建設した物である。

 中でもジゼルやミシェル、オルガのような騎士志望者の実戦研修を行う為の場所と位置付けられている。

 

 面積は、数万人が暮らす、王都セントヘレナが、すっぽり入るくらい広大な物だ。

 森の周囲には、外壁と強力な魔法障壁を巡らし、外に害が及ばないようにした上、敷地内へ、王国軍や冒険者が生け捕りにした魔物を人為的に放っている。

 また高地、砂地、沼そして村や古代遺跡の地形が配されており、魔物と戦う上で実戦に即したものになっているのだ。

 

 魔物の種類も、ゴブリン、オーガなど様々であり、基本的には致命傷を受けないように爪と牙を抜き、個々の魔物に束縛の魔法を掛けて膂力もだいぶ抑えている。

 また年に1回、学園魔力祭が行われる際にトーナメントの一環としてポイント制の狩猟が行われるのだ。

 例えばゴブリンが1ポイント、オーガが5ポイントといったようにだ。

 

「生徒向けの訓練場所だから、上級魔法使いには殆ど危険は無いわ。但し、コツが要るわね」


 狩場の森は、魔物の強さによるポイント制で勝ち負けを競う。

 その為に高ポイントの魔物が居る場所を把握し、効率良く狩るのが勝利するコツらしい。


「こういう勝負って、下見は駄目なのか?」


 ルウは狩場の森を全く知らない為、「1回見ておきたい」と言う。


「ふ~ん、ルウは結構、慎重なのね」


 アデライドはルウの申し出に意外そうな表情だ。


「貴方の強さなら、下見なんか要らないんじゃなくて」


 アデライドにはそう茶化されたが、ルウは「ぜひ下見をお願いしたい」と穏やかな笑顔を見せる。


「爺ちゃんがどんな森でも、安易な気持ちで判断するなと言っていたのさ」


 聞いたアデライドは……

 改めてルウの慎重さを知ったと同時に、フランを任せて安心出来ると思ったのである。


「下見は、全然問題無いわ。それも私が許可を出しておきます。いつ行くの?」


「ああ、今から行こうと思うんだ」


「今から? 王都からだと、馬車でも片道1時間はかかるわよ」


「ああ、問題無い。魔法を使うから」


 もしかしてまた飛翔魔法を使うのだろうか?

 

 傍で、ふたりのやりとりを聞いていたフランは……

 以前、ルウと大空を飛んだ事を思い出し、胸が熱くなる。

 

 またルウと、ふたりで飛んでみたい!

 そんな彼女の想いを、現実に引き戻したのはアデライドである。


「いいえ、そういう事じゃないわ。夜間は入り口を閉鎖してしまうの。流石に、夜間には入る事を許可できないわ」


 アデライドは、時間外にルウが無理矢理、狩場の森へ入ると思ったらしい。

 一方、フランはルウと一緒に行きたいと駄々をこねる。


「ルウ、私も行きたい! 一緒に連れて行って!」


「明日の春季講習はお昼で終わりでしょう? ふたりで学園から、そのまま行けば良いわ」


 同行をせがむフランを見守りつつ、アデライドはルウに勧める。


「ああ、構わない」


 ルウは相変わらず、穏やかな笑顔でゆっくりと頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その夜……


 明日の講習の準備として、改めて学園の教科書『魔法学Ⅰ』を、ルウは読み直していた。

 

 教科書は古代ロドニアの偉大なる伝説の魔法王ルイ・サレオンの言葉で始まっていた。

 全ての人類は、魔術師としての素質を備えている――と。

 

 ルイの言う素質とは、人類の持つ基本的な魔力である。

 しかし素質はあっても、魔法を何度も行使出来るよう、魔力量が増えるか、魔法式を習得し、効果的に魔法を発動出来るかは全く分からない。

 

 そもそも、魔法とは……

 人智を超えた『存在』の力を自身の物とし、行使する事だ。

 

 『存在』とは様々。

 創世神、その他の神々、天使、精霊、魔物、そして悪魔などである。

 

 神と天使は別格ではあるが……

 人間が1番制御しやすいのが魔物、次に精霊、そして悪魔の順とされている。

 基本的に彼等の力は殆ど解明されておらず、その一部が使えるのみであるという。

 

 その一部を人間が使用する為のマニュアルが魔法式なのだ。

 

 ルイは人の身でありながら強靭な72柱の悪魔を従え、自身は未知の魔法を解き明かし、それを1冊の本、いわゆるサレオンの魔導書にまとめたという。


 ルウは思い出す。

 師シュルヴェステル・エイルトヴァーラから、ルイの名は、修行の度によく聞いていた。

 

 シュルヴェステルは、ルイに何度も会い、魔法の腕を競い合う仲であったと。

 終いには、悪魔召喚の魔法も、ルイと共に切磋琢磨し、見事に極めたという。

 

 そんなある日、ルイはシュルヴェステルに告げた……

 「我が肉体はいずれ滅する、しかしその魂はいずれまた貴方に巡り会おうと!」


 ルウは、そんな話を聞いてもピンとは来ない。

 

 その後の召喚魔法の修行で、悪魔召喚の厳しさとその困難な魔法を極めた師、そして顔も知らぬその王の偉大さを改めて実感しただけだ。

 

 悪魔は精霊と違い、多くは残忍で狡猾だ。

 しかし、ルウは経験を積むうちに少しずつ、やがて思うがままに、彼等を制御出来るようになったのである。


 ルウは続いて、教科書を読み進めて行く。

 初級魔法使い向けの内容が続いている。


 気分を落ち着ける事、集中力と想像力を高める事、それぞれの概念と必要性、そして具体的なトレーニング方法が記載されている。

 ……これは分かる、方法も全てではないが、自分がやったのと同じ事も含まれている。


 そして魔法文字とそれを使用した基礎の生活魔法の魔法式の習得、最後に属性の適性について書かれていて、『魔法学Ⅰ』は終っていた。


 明日、講習を受ける生徒達はクラス2年C組の約半分で15人程だという。

 

 フランによると、その内の半分以上が精神的な安定の無さや集中力の欠如、想像力不足から魔法を巧く発動出来ない為に講習を受けるらしい。

 

 学園の方針であれば教科書に沿った反復練習を徹底するそうだ。

 しかしルウは、自分が行った修行方法が使えないか試行錯誤していた。

 フランの指導方法の問題も指摘されているらしいが、そちらもフォローしてやりたい。


 残り約半分の生徒達は新たに学ぶ『魔法学Ⅱ』の予習をしたいようだ。


 『魔法学Ⅱ』は『魔法学Ⅰ』の応用を記した教科書である。

 大きな内容としては生徒が自分の使い魔を持つ練習をする事だ。

 

 使い魔とは術者の命令で動く、精霊や魔物、動物の総称である。

 召喚された彼等を、いかに絶対的な主従関係を築き、使役出来るかで、その魔法使いの才能が評価される。

 

 当然、使役出来るものが高位の存在になればなるほど、評価は上がる。

 また召喚に才能が無い者は、さっさと見切りをつける事はさして珍しくないという。

 そしてある程度の使い魔を持った生徒達は、自分の属性の適性を確定させ、中級魔法以上の魔法を習得して行くのである。


 そういえば自分も、『表向きの使い魔』を召喚した方が良いだろうか……

 

 そんな事を思いながらルウは眠りに落ちて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝7時30分……


 いつもの通り朝食を摂り終わると、ルウとフラン、そしてアデライドは屋敷を出た。

 馬車で学園へ出勤する。

 

 男性用のロッカーは女性用に比べると随分狭い物であった。

 だが、今日出勤する予定のベテラン教師と、ふたりで使用するから、全く支障は無い。

 

 ルウがロッカールームに入ると、そのベテラン教師は居た。


「おお、君が今度入る新人教師か、宜しくな。私はベルナール・ビュランと言う」


 ベルナールは60歳になるか、ならないかくらいだろう。

 銀髪に碧眼、人の良さそうな笑顔を浮かべ、ルウに右手を差し出して来た。


「こちらこそ、俺はルウ・ブランデルです。宜しくお願いします」


 ルウも応え、ゆっくりと右手を差し出したのである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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