第357話 「対抗心」
「で、では私もC班でお願いします!」
オレリーはマノンの発言に対抗して思わず手を挙げて宣誓してしまう。
傍らに居たジョゼフィーヌとリーリャはオレリーのいきなりの発言に吃驚して彼女をまじまじと見た。
何故、マノン・カルリエを意識してこのように対抗心を燃やすのか?
オレリーは自分が不思議でならない。
今迄は自分が2年生における首席で彼女が次席、ただそれだけの感覚であったのだから。
理由は何だろうか?
オレリーには……思い当たる節があった。
マノンがルウに執着しているとの噂を聞き、それを実際に体験授業で目の当たりにしたからである。
学生食堂での一件(※第161話参照)以来、マノンはルウに対して異常に意識しているとA組の生徒からC組の級友を経て噂を聞いていた。
オレリーのマノンに対するこれまでの印象は貴族特有の誇りを持った冷静沈着な秀才――それくらいのイメージしかなかった。
それがあの事件以来すっかり変わってしまったというのだ。
やがて噂はオレリーの目の前で事実に変わったのである。
ルウはそんなオレリーとマノンを見てルウは相変わらず穏やかな表情で言う。
「お前達をどの班にするかは今提出して貰った自己申告書と学園作成の個人資料を付け合せた上で俺とフランシスカ先生で相談して判断する。だから今の希望する班ではない事も承知しておくように――」
ルウはここで生徒達を見回した。
誰もがルウの話に対して真剣に聞き入っている。
「先程も言ったがこの時点での班分けは余り気にするな。皆が目指すのは当然A班だからこの班分けを行う事で各自の鍛え所をはっきりとさせる意味くらいに考えておけ、良いか?」
「「「はいっ!」」」
生徒達の元気の良い返事を聞いたルウとフランはにっこり笑って授業の終了を生徒達に告げたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ私は次の3時限目が担当する占術の授業だから、これで! さっきの資料は目を通しておきますからね!」
「ああ、ありがとう。フラン!」
フランは名残惜しそうにルウに手を振ってから、違う実習教室へ向って去って行く。
次の第3時限目、11時開始の授業にフランが担当をする占術の授業が入っているのだ。
このように前の授業との兼ね合いでスケジュールが押すと副担当である教師が授業の準備をして担当をフォローするのが魔法女子学園の通例である。
ルウの授業を今、フランがフォローしたようにだ。
今度はフランが担当する占術の授業の場合は副担当であるオルスタンス・アシャールが準備をして彼女を待っている筈である。
片やルウはフラン以上に専門科目の担当クラスが多い。
当然、次にも予定が入っている。
「ルウ先生!」
実習教室から出て来たルウを呼び止めたのはアドリーヌ・コレットである。
どうやらルウが魔法攻撃術の授業を終えるのを廊下で待っていたようだ。
「ああ、アドリーヌ。次は魔道具研究B組だったな。悪いが副担当、頼むな」
「はいっ! 前の時間私は『空き』でしたのでルウ先生に言われた通り、資料の手配をしておきました。もう教室に置いてあります」
「おおっ! ありがとう! 助かるよ」
ルウの感謝の言葉を聞いたアドリーヌはそれだけで飛び上がる程、嬉しくなる。
「ルウ先生! いや……ルウさん。どうしてでしょう?」
「どうした?」
「父に強制されてあれだけ学ぶ事に抵抗があった魔道具研究が……嫌で堪らなかったのが……今は学ぶ事が、教える事が嬉しいんです。とても楽しみで浮き浮きするんです」
「ははっ、それは学ぶ『目的』がはっきりしたからだ。それに伴うしっかりした志が出来たからさ」
「学ぶ……目的……志。ええっと……」
思わずアドリーヌは口篭り、頬を赧めた。
アドリーヌは自分が何故魔道具研究に対して前向きになったか、はっきりと自覚していたからである。
暫し、ぼうっとするアドリーヌ。
「さあ、時間が無いぞ。教室に行こう」
ルウに声を掛けられたアドリーヌはハッと我に返ると笑顔を浮かべてルウに寄り添うように歩いて行ったのであった。
魔法女子学園実習棟教室、月曜日午前11時前……
第3時限目のこの教室で行われる授業はルウ担当の魔道具研究B組である。
今年の2年生の専門クラスの中では唯一、定員枠を超えて入室試験が行われたクラスであり、合格して今、この場に居る生徒達も多大なる期待をもってこの場に臨んでいた。
ルウは先程の魔法攻撃術の授業と殆ど同じ台詞で生徒達に挨拶をした。
「皆、良いか? 俺がこのクラスの担当であるルウ・ブランデルだ。2年C組の副担任で、魔法武道部の副顧問もやっているから知っている生徒も居ると思うが、改めて挨拶しよう。このクラスにおいては他の授業以上に皆には入室試験でやる気と適性を見せて貰った。今後とも宜しくな」
「「「「はいっ!」」」」
生徒達は元気な声で一斉に返事をする。
このクラスにも当然の事ながら、オレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャを始めとした2年C組の主な面々と2年A組の学級委員長マノン・カルリエは1番前に陣取っていた。
マノンを見てオレリーは思わず苦笑したが、マノンの方はオレリーなど眼中に無いという感じでルウをじっと見詰めている。
「そして副担当のアドリーヌ先生だ」
「副担当のアドリーヌ・コレットです。皆さん、宜しくお願いします」
体験授業と入室試験により、このクラスの生徒達はルウに対して気安い.
また緊張感はあるが、期待感の方が大きいという顔付きでもある。
それはルウがS級の魔法鑑定士だという事も大きな理由なのだ。
「先程の魔法攻撃術を受講していた生徒も多く居るようだから、またか! と言わないで欲しいがこのクラスも3班に分ける事とする」
「先生、またですか?」
ここで笑顔を浮かべて突っ込んだのが、意外にもマノンであった。
その瞬間、教室は静まり返った。
貴族という家柄で誇り高く秀才のマノンの事は2年生の生徒の殆どが知っている。
冗談も滅多に言わない普段はクールなキャラの彼女では通常絶対に無い事なのだ。
「あら……受けませんでした? 失礼しました」
静まり返った教室の皆へ謝罪したマノンだが、彼女は堪えた様子も無く相変わらずの笑顔である。
「ははっ、マノン。悪いな、『また』なんだよ」
「ふふふ、先生ありがとうございます!」
ルウがさりげなくマノンをフォローしてやると彼女は本当に嬉しそうに笑う。
その様子を吃驚して見ていたアドリーヌはルウに促されると苦笑して用意していた申告用紙を配り始めたのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!




