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第343話 「嬉しい悩み」

 魔道具店『メモリア』が開店して30分……


 入り口の美しい花と華やかな雰囲気のルウの妻達が一生懸命呼び込みをしたせいか、様々な種族、老若男女の客が訪れ、陳列してある魔道具に見入っていた。

 この店では客が商品を手に取ってじっくりと見たい場合、店主や店員に声を掛けて許可を得る事になっている。


 そのようなわけでバルバトスは勿論、アデライドやマルグリットにも客から頻繁に声が掛かり、皆が汗を拭きながら接客を行っていた。

 客達は置いてある様々な商品が上質の物ばかりだと直ぐに見抜いたようだ。

 

 商品は我先にと店側の設定価格にもかかわらず飛ぶ様に売れて行ったのである。


 そして1時間後……12時30分


 ここでジョルジュ・ドゥメールが姿を見せた。

 今日は午後1時から手伝いに入る事になっていたのだが、念の為にと、30分も早くやって来たのである。

 彼の目に入った店の喧騒……驚いた彼はスタッフ達の余りの多忙さに驚き、直ぐに手伝いに入ったのだ。


 実はキングスレー商会にて普段、鑑定魔法の訓練をさせて貰っているのと引き換えにジョルジュは商会のスタッフとして働く事を申し出て、実務経験を積んでいた。

 それが幸運にも接客経験として今、この場で活きる事になったのである。


 更に1時間後―――

 

 店内に居る唯一の客が出て、客足が途切れた瞬間にバルバトスが、疲れの見えたアデライド達、スタッフに声を掛ける。

 皆の中で平気な顔をしているのはバルバトス以外にはルウだけであった。

 

 残りの者は慣れない仕事のせいか、だいぶ疲れが溜まっているようだ。

 昔、この仕事をしていたマルグリットさえ、このような盛況さは経験した事が無い。


「ははは、皆様。商品の入れ替えという事で少し食事を兼ねた休憩と致しましょう。アデライド様、準備中インプレパレーションの札を!」


「わ、分ったわ……」


 アデライドがよろめきながら何とか札を差し替える。


 ドアを閉めて鍵を掛けたマルグリットも疲れの為か、がっくりと膝を突いた。


 2人の様子を見たルウが穏やかな表情で口を開く。


「ははっ、アデライド母さんに婆ちゃん、そしてフラン達、皆もさすがに疲れたみたいだな……ほらっ!」


 そして指を鳴らすと店一面の床が輝き、その場に居た人間に力と気力が再びみなぎったのだ。無詠唱、それも神速で発動されたルウの全体回復魔法『慈悲ミセリコルディア』である。


「ル、ルウ!? お前!?」「ルウ様!」


 アデライドとマルグリットの驚きに端を発し、妻達も驚愕の表情だ。

 何せ、疲れが一編に吹き飛び、気力も満ち溢れて来たのだから。


 その様子を見たバルバトスは当然といった顔付きである。

 ルウはバルバトスに対して苦笑し、ある提案をした。


「バルバ、こんなに客が来るとはな。少しやり方を考えてみるか」


「はい……ルウ様、申し訳ありません。いささか私の読みが甘かったようで……」


 今日来た客が口コミでこの店の事を広めれば客はもっと増えるであろう。

 もし、そんな客が殺到すれば、そのような客の捌きに慣れていないアデライド達は疲弊する一方なのは間違い無い。


「ははっ、それは俺も同じだ。お前だけの責ではない。よしっ、仕方無い。……入店制限を掛けようか」


「「「入店制限?」」」


 ルウの言葉に対して店に居る皆の声が思わず重なった。


「ああ、1度に入店するお客様の数を決めるんだ。基本的には3名と決めておいて、先に入店したお客さんのうち誰かが1人出たら1人入店させるのだ」


 ルウの言葉にアデライドが頷いた。


「確かにそうすればゆっくりと接客が出来るし、いらっしゃるお客さんにとっても良いかもしれない。ただ外で待って頂いているお客様は?」


 ルウの言葉に納得したアデライドだが、外で入店を待っている客の対応が気になるようだ。


「ああ、本来は失礼な話だとは思う。だからベンチでも設置して座ってお待ち頂いた上で、希望者にはお茶でも出しますよ。当然の事ながら事前に店のシステムを説明して納得して頂いた上で、ですが」


 そしてと……ルウは呟いた。

 ルウのその呟きと同時に1人の偉丈夫が店の奥の部屋から現れたのである。


「おう、ヴィーネンか!」


 バルバトスがその巨躯を見てにやりと笑う。

 ヴィーネンは穏やかな表情で辺りを見回すと深く頭を下げた。

 より誠実に振舞っているのは彼がかつてルウに敵対し、ここに居る者を害そうとしたからである。


 ヴィーネンこと、悪魔ヴィネ。

 彼の事を初めて見る者も居るのでルウは改めて紹介する。


「俺の従士で剛なる者、ヴィーネンだ。この店の警護と店の外での交通整理をして貰う」


「ルウ様の忠実なる従士、ヴィーネンです。以後お見知りおきを!」


 ルウがヴィネを紹介して彼の役割を改めて説明した。


「ヴィーネンには店の入り口で客達の対応、つまり接客と整理に当って貰う。店のシステムを説明した後に一旦並んで頂くのだ。このシステムに納得しなかったり、無視して暴れる者は排除して構わない。万が一どこかの貴族が屁理屈を主張するようであれば俺に知らせてくれ。対応させて貰う」


 ルウの指示を聞き、ヴィーネンことヴィネは左腕を胸につけ、うやうやしく、一礼する。


「分りました。粉骨砕身務めさせて頂きます」


 その時である。

 店のドアが軽くノックされた。


「アリスで~す! モーラル様と一緒に弁当を持って来ましたよぉ!」


 マルグリットがドアを開けると一杯の荷物をモーラルとアリスが抱えている。


「ああっ!? もしかしてボクの大好きな『英雄亭』の弁当かな?」


 目敏いナディアが思わず大声をあげる。

 それを聞いたアリスが悪戯っぽく笑う。


「当り~! でもナディア様、言っておくけど、お屋敷の料理だって凄~く美味しいからね!」


「い、いや! ボクはそんなつもりじゃあ! ……だ、だってお屋敷でも出された料理は残さず食べているじゃあないか!」


 アリスに突っ込まれたナディアはしどろもどろになってしまう。

 今、この場にジゼルが居たら親友の様子を見て、思い切り彼女をいじっていたに違いない。

 元々ナディアは極端な偏食で好き嫌いが多く、実は小食だったのである。


 だが、それが今は!

 猛烈な食欲を示し、彼女の言う通り屋敷で出された料理は一切残さないのだ。

 そんなナディアを見たアリスがくすりと笑う。


「うふふ! 分っていますよ。ナディア様ったら本当に可愛いですね!」


「こ、こら! アリス! ボクをからかうんじゃあない!」


 むきになって怒るナディアを見たアリスは何かピンと来たようだ。


「うふふ、ナディア様ったら、その怒った顔がジゼル様そっくりですよぉ!」


「は、はぁっ!? 何だって! そ、それだけは! い、言わないでくれ~!」


 よりによってジゼルに似ているとは……


 ナディアは本当に困った顔をして皆の前で俯いてしまったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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