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第332話 「入室試験①」

 魔法女子学園実習棟教室、木曜日10時……


 専門科目では唯一定員オーバーのクラス、それがルウの魔導具研究B組である。

 今からその受講者を決める為の入室試験が行われようとしていた。

 実習教室は45名分の席があるので試験は何とか1つの教室で行う事が出来る。

 教壇の傍らに立つルウは法衣ローブを身に纏い、腕組みをして生徒達を眺めていた。


 今迄学んだ事のない科目の試験に対して生徒は何を学び、どのように勉強して良いか大抵は迷うものだ。

 今ここに居る生徒達は魔法鑑定士志望の者が殆どである。

 そうなるとまず勉強の基本になるのが魔法鑑定士の受験用の参考書だ。

 C級魔法鑑定士の受験用参考書を熟読する者は多かった。

 加えてルウが体験授業で話した事をしっかり頭の中に叩き込んでおけば良い。


 そんな生徒達の予想は良い意味で裏切られた。

 まず1枚目の答案用紙を渡された生徒達は内容を見て面食らう。


 問題(1)


 これから見せる魔導具を鑑定魔法を使わず、外見から知識と感性で鑑定し、価格も付けよ。


 やがて移動式のテーブルに載せられた魔導具が隣の控え室からルウと同じく法衣姿の副担当アドリーヌ・コレットによって運ばれて来た。

 生徒達は思わずテーブルの上に注目する。

 それは赤い絹糸のようなものを何本も撚って作った様な何の変哲も無い紐であった。


 これが魔導具?


 生徒達の戸惑いの視線が注がれる中、アドリーヌはゆっくりと『紐』を見せながら周回する。


 ふふふ……

 皆、これが分るかしら?


 彼女が含み笑いするのも無理はない。

 ぱっと見る限りは単なる絹製の紐で彼女自身直ぐには分からず鑑定には苦労したからだ。


 アドリーヌは生徒達の間を3回周回する。

 その後、台車は白布を被せて生徒の眼に入らないように教室の隅に置かれたのだ。


 恨めしそうな顔をする生徒達も居たが、ルウは穏やかな表情で言う。


「ははっ、俺はひねくれているからな。通常はまず筆記試験を行うが、それじゃあ普通過ぎて面白くない、それでこうなった」


 アドリーヌが目で合図を送り、ルウが頷いた。

 彼女に対して続きを説明するようにとの指示である。

 アドリーヌは微笑みながら生徒達を見渡した。


「はい、今のルウ先生の説明を補足しますよ。これから実技試験を行います」


 ごくり……

 誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

 アドリーヌは軽く頷いて話を続ける。


「今、皆さんに見せたのはある魔導具のレプリカです。そのいわれをきちんと記載し、自分なりの使い道と価格を設定して下さい。ちなみに皆さんに観察して貰う時間は今の周回だけでもう見る事は出来ません。これは常に注意力を働かせるようにとのルウ先生の要望です、良いですね?」


 それを聞いた生徒達の間には露骨に不満そうな表情をしている者も居る。

 ルウが見るとそんな生徒はやはりルウの事を知らないA組、B組の生徒が大半だ。


「制限時間は30分です。では開始して下さい」


 いきなりの実技試験でこのやり方は珍しい。

 しかし2年C組の生徒達の大半は、これもルウらしいと納得をしていた。


 当然の事ながらオレリー、ジョゼフィーヌ、リーリャの3人はもう魔導ペンを軽快に走らせていたし、学級委員長のエステル・ルジュヌに商家の娘であるアンナ・ブシェとルイーズ・ベルチェもを捻りながら答案用紙に答えを書き入れている。

 C組の生徒の中にはかつてジョゼフィーヌの取り巻きの1人であったセリア・ビゴーにモニク・アゼマ、そしてメラニー・バラボーの真剣な顔も見えた。


 また受験者の中には以前にルウの召喚魔法を目の当たりにしたA組の生徒も多く混ざっている。

 中でもA組の学級委員長であるマノン・カルリエの必死な表情はいかにこの授業を受講したいという気持ちの表れでもあった。


「あ~もう! 無理です、こんなの!」


 お手上げといった雰囲気で1人の生徒が教室を出て行った。

 さっきルウが話した時に不満そうな表情をしていたB組の生徒である。

 しかし……他の生徒達は彼女に見向きもしない。

 そんな暇は無いとばかりに一心不乱に解答を書いているのだ。


 ――やがて30分が経過する。


「はい! そこまで! ペンを放して答案用紙を伏せて下さい」


 アドリーヌの掛け声がかかり、生徒達は彼女に言われた通りにした。

 伏せられた答案用紙はルウとアドリーヌにより回収されて代わりにルウにより次の解答用紙が配られる。


「次は筆記試験だ。制限時間は今が午前10時50分少し前だから……丁度午前11時開始で所要時間30分間とし午前11時30分までにしよう。いつもの授業とは違って変則だからな」


 ルウはそう言うと更に説明を続けた。


「午前11時30分になったら問題用紙を伏せて控え室である隣の実習教室に入り待機していてくれ。筆記試験の解答が制限時間前に終わった者は用紙を伏せて退出しても構わない」


 ルウが筆記試験の時間の説明を完了するとアドリーヌが補足説明をする。


「こちらの準備が終わったら最後に5名1組での面接を順次行います。それが終わればこの魔導具研究B組受講の入室試験は終了です。この結果は明日金曜日の12時に職員室前の掲示板で発表します」


 2人が説明をした所で午前11時となり、筆記試験の開始となった。


 問題(2)

 

 魔導具研究の意義や意味を答えよ。


 問題(3)


 魔導具研究に必要とされる物を答えよ。


 問題(4)


 魔道具鑑定と魔導具製作について概要を答えよ。

 また魔導具を製作するとしたら素材と商品及び製品名を述べよ。


 問題(5)


 解呪魔法の必要性と意味を答えよ


 筆記試験の問題はこのような内容だ。

 ルウがアドリーヌに言っていた通り、魔法鑑定士の資格試験とルウの体験授業を受けていた者なら容易に解答出来るような問題の構成になっている。

 しかし問題が簡単であればあるほど、そこには解答の妙が求められるのは世の常だ。


 ルウはありきたりの答えではなく生徒各個の考え方や思いを合格者の基準にすると考えていたのだから。


 ふふふ!

 確り勉強していたから、この内容なら楽勝ですわ。

 でも旦那様の事だから一般常識だけでなく私達の考えも書かないといけませんね。


 ジョゼフィーヌはそう考えて、すらすらと魔導ペンを走らせる。

 不安一杯だった様子は微塵も感じさせない落ち着きぶりだ。


 その姿を見てルウは穏やかに微笑む。

 公平を期す為にジョゼフィーヌに試験の内容は当然伝えてなどいないが、昨夜の励ましはどうやら功を奏したようだ。 


 オレリー、リーリャも落ち着いてペンを走らせているので問題は無さそうである。


 時間内に解答が出来た者は退出の許可を与えてはいたが、誰もそうせずにペンを熱心に走らせているのを見てルウとアドリーヌは満足げに頷いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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