第328話 「妻達の意地」
魔法女子学園職員室水曜日午後4時……
今、2年生の専門科目の受講申し込み状況が集計され、担当の教師達が目の当たりにしている所である。
一覧表には分り易いように現時点での申し込み人数が記載されていた。
☆魔法攻撃術(各定員35名)
A組:シンディ・ライアン(カサンドラ・ボワデフル):22名
B組: ルウ・ブランデル(フランシスカ・ドゥメール):35名
C組:ルウ・ブランデル
(フランシスカ・ドゥメール、カサンドラ・ボワデフル):27名
☆魔法防御術(各定員35名)
A組:ケルトゥリ・エイルトヴァーラ (シンディ・ライアン):22名
B組:クロティルド・ボードリエ(オルスタンス・アシャール):24名
☆上級召喚術(各定員35名)
A組:ルウ・ブランデル(カサンドラ・ボワデフル):26名
B組:ルウ・ブランデル
(リリアーヌ・ブリュレ、サラ・セザール):28名
☆魔道具研究(各定員35名)
A組:ルネ・ボワデフル(クロティルド・ボードリエ):22名
B組:ルウ・ブランデル(アドリーヌ・コレット):41名
☆錬金術(各定員35名)
A組:ケルトゥリ・エイルトヴァーラ(アドリーヌ・コレット):15名
B組:ルネ・ボワデフル(サラ・セザール):13名
☆占術(各定員35名)
A組:フランシスカ・ドゥメール(アドリーヌ・コレット):17名
B組:オルスタンス・アシャール(リリアーヌ・ブリュレ):8名
2年生の3クラスの総数が100名なので1人に付き3科目の申し込みの規定から人数は延べ300名となる。
当初は集中して、満枠のクラス多く出たが1クラス当りの定員を増やして、ルウのクラスも増えた所、ルウの魔法攻撃術のB組が満枠、同じく魔道具研究が定員オーバーくらいで他のクラスは何と定員内に収まったのだ。
これは予想外の結果だが、生徒達はほぼ希望した授業を受講出来る事になったのでルウは満足していた。
しかしそんなルウの気持ちをよそに職員室は微妙な空気に包まれていた。
そこそこの申し込み人数があって『成立する』クラスは未だ良い。
定員増とルウのクラス増加の割を食った教師の表情は悲喜こもごもなのだ。
中でも錬金術と占術は2クラス合わせて1クラスの定員に満たないのでこれらもルウとカサンドラのクラスのように統合するという話が出るのは必至である。
このようなやり方は担当教師の希望ありきで申し込む生徒の意向を無視するようだが、学園にも都合があった。
効率を考えて、今までこのような場合はクラスを統合し、申し込みの多いのクラスの担当が新クラスの担当に、少ないクラスの担当が副担当となるのである。
占術A組の担当であるフランは一覧表を見て思わず苦笑した。
「……私が学生の頃は皆、女子は占い大好きだったけど、今は将来就職するのに有利な科目がとても人気なのね」
「……フランシスカ先生、私副担当をやらせて頂きます」
消え入りそうな声でフランに話し掛けたのは占術B組担当のオルスタンス・アシャールである。
定員オーバーはルウの魔道具研究B組の6名だが、その生徒がどこに入るか?
オルスタンスの発言は万が一自分のクラスにその6名が回っても独立したクラスとして成立するのが難しい事は明白だからだ。
占術と同じ様な状況の専門科目が練金術である。
フランとオルスタンスの会話を傍らで聞いていた教頭のケルトゥリ・エイルトヴァーラは無表情で何も発しない。
ケルトゥリが何も言わないのでルネ・ボワデフルが苦い顔をして口を開く。
「ふふふ、校長。錬金術も同じ様なものです。とりあえず金曜日の結果如何ですが、私はケルトゥリ教頭の副担当をするとほぼ決めました」
ルネの言葉に対してケルトゥリはゆっくりと首を横に振った。。
「科目の不人気? 果たしてそうでしょうか? 今回は、それより個人の名前に対して申し込みがあったと私は考えています」
それを聞いていたフラン達はハッとした表情をする。
そんなフラン達を見ながらケルトゥリはきっぱりと言い切った。
やはり苦虫を噛み潰したような表情だ。
「はっきり言って我々の努力不足……悔しいですがそれ以外の何ものでもないでしょう。もしルウ先生が錬金術や占術の授業を担当していたら我々より申し込みがあったと私は思っていますから」
今迄のケルトゥリを考えるとこのように言う事自体が珍しい。
大変な負けず嫌いで自分の負けを認める事など殆どせず、まして他人を称えるなど皆無と言っていい彼女だからだ。
「やはり魅力のある授業をすれば生徒達は必ずついて来てくれます。私達は一層の切磋琢磨をして行かなくてはなりません」
そのような中、渦中のルウはというと……
「何か、話をややこしくしたようで悪い。でも俺は授業を頑張るしかないよな」
「大丈夫よ、貴方を責めているわけではないの。私達こそ努力をしなければいけないのだから」
頭を掻き、済まなそうに話すルウにフランは穏やかな表情で返したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園2年C組教室、水曜日午前9時……
今朝も挨拶が済んだ後、フランが軽く手を叩いた後に話は始まっている。
「皆さんに昨日一杯の期限で申し込んで貰った専門科目のクラスの確定発表をします。まずは朗報です。皆さんはほぼ希望通りのクラスを受講できます」
おおっ!
フランがそう言うと生徒達の間からは歓喜の声が上がる。
ぱんぱんぱん!
そこでまたフランの手が打ち鳴らされる。
「喜ぶのは未だ早いですよ。やはり定員を超えたクラスはありましたし、一部のクラスは統合されてしまいましたから」
フランが合図を送るとルウはまた一覧表を貼り出した。
魔法女子学園専門科目1次確定
☆魔法攻撃術
A組:シンディ・ライアン(カサンドラ・ボワデフル)
B組: ルウ・ブランデル(フランシスカ・ドゥメール、)※満枠確定
C組:ルウ・ブランデル
(フランシスカ・ドゥメール、カサンドラ・ボワデフル)
☆魔法防御術
A組:ケルトゥリ・エイルトヴァーラ (シンディ・ライアン)
B組:クロティルド・ボードリエ(オルスタンス・アシャール)
☆上級召喚術
A組:ルウ・ブランデル(カサンドラ・ボワデフル)
B組:ルウ・ブランデル
(リリアーヌ・ブリュレ、サラ・セザール)
☆魔道具研究
A組:ルネ・ボワデフル(クロティルド・ボードリエ)
B組:ルウ・ブランデル(アドリーヌ・コレット)※木曜日入室試験
☆錬金術
A組:ケルトゥリ・エイルトヴァーラ(ルネ・ボワデフル)
☆占術
A組:フランシスカ・ドゥメール(オルスタンス・アシャール)
ルウが表を貼り終えるのを確かめてからフランがにっこりと笑う。
「満枠はルウ先生の魔法攻撃術B組、そして定員オーバーで入室試験を行う同じくルウ先生の魔道具研究B組、こちらの2クラスが申し込み締め切りの上、確定となります。そして錬金術と占術のクラスは残念ながら統合されました」
ここでフランはコホンとひとつ咳払いをする。
「唯一の定員を超えたクラスである魔道具研究B組の希望の方は試験を受けて頂きます。その結果、残念ながら受講が叶わなかった場合でも満枠では無い他のクラスに試験無しで申し込めますよ」
それを聞いた一部の生徒達に安堵の表情が漂う。
多分一般的な魔道具研究希望の者達であろう。
ルウのクラスに入れなくてもルネのA組を受講する事は出来るのだから。
しかしそんな表情にならない者達も……居たのである。
その者とはやはりルウの妻達だ。
彼女達の表情は一様に厳しい。
「魔法攻撃術と上級召喚術の授業が取れたのは朗報です。しかし魔道具研究の授業が取れなければ大問題です。今日は空いている時間、例えば昼休みもしっかりと勉強。授業が終わっても直ぐ帰って気合を入れて更に勉強ですね。 私達の立場上、意地でも落ちるわけにはいきません!」
オレリーの言葉にジョゼフィーヌとリーリャは大きく頷いていたのであった。
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