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第322話 「再出発」

申し訳ありませんが、鉄刃団の首領の名前変更しました。

ジュリアン・アルディーニ

⇒リベルト・アルディーニ

 ルウは旧鉄刃団アイエンブレイドすなわち新生、カリュプス商会のメンバー全員を見渡した。

 皆、緊張の面持ちである。

 昨夜、全員掛りでも倒せなかったルウをはっきり言って畏怖しているのだ。


「これから俺が話す事を良く聞いておけよ。カリュプス商会が行っているシノギの現状確認と取捨選択、そして新たな提案をさせて貰う……」


 ルウは背後の壁に貼られている王都の地図のある領域を指差した。


「旧鉄刃団アイエンブレイドの縄張りはここだな。縄張りとは言い換えればお前達が安全を守って行く地域と分っているよな。但しこれからのやり方を変えるんだ」


 他の勢力から命懸けで縄張りを守る事なら今迄の鉄刃団アイエンブレイドは当然やって来た事だ。

 しかしルウによるとやり方を変えるという。

 一体どうするのであろうか?


「やり方を変える?」「どうするのですか!?」


 あちこちで当惑するような声があがる。

 その声に答えるようにルウから衝撃の言葉が発せられる。


「まずは『みかじめ料』の撤廃だ。こんな物は無しで街の安全を守る、そうやって人々を安心させてやるのだ」


「みかじめ料無し……だと!?」「ええっ!? そんな!」


 戸惑うメンバー達に対してルウはにやりと笑いながら話を続けた。


「そうだ。今後はみかじめ料など取るな! お前達はこれから感謝されて生きて行くのだから。同じ地区に鋼商会の経営している店が3軒あるな。今迄は周囲の店は腫れ物に触るような付き合いらしいが、これを機に仲良くするんだ。そして何かトラブルがあったら相談に乗ってやれば良い」


 ここで手を挙げたのはニーノである。


「でもよぉ……タダでそんな事して何の得になるんだよぉ」


 ニーノの疑問は当然であろう。

 これでは単なるボランティアだからだ。

 しかしルウの笑顔は変わらない。


「将来必ず役に立つのだよ……俺はそれも考えている」


 ルウはそう答えると不思議そうな表情のニーノをじっと見詰めた。


「お前達が誠意を持って仕事をすれば街の人は必ず見ててくれる筈さ。そして次回はあちらから守ってくれと必ず頼んでくるさ」


「あちらから頼んでくる? まさか!」


 商店主達から相談や保護を頼んでくると言われても信じられないという顔付きのニーノだ。


「いやいや間違い無い。これがお前達の大事な『商売』のひとつとなるのだから」


「えええっ!?」


 商売のひとつと聞いて大きな声を上げたのはルウの傍らに立つリベルトだ。

 彼は彼でルウの話を聞きながら新生『鋼商会』の行く末を真剣にずっと考えていたのである。

 ルウはリベルトに向き直った。


「お前達の商売……すなわちこれからの大きなシノギは客商売に加えて、この『警備』になるのだよ」


「警備?」


 警備と言われてもリベルトは未だピンと来ないようなのでルウは更に説明する。


「お前達が良く知っているように王都の治安は余り良くない。騎士や衛兵は公僕で数が少ないし、庶民の些細な揉め事には出張でばって来ない。旧鉄刃団アイエンブレイドの時もそうだったが、そこに鋼商会の仕事があるのさ」


「た、例えば!? どうやって?」


「貴族以上の身分には騎士隊の護衛がついてもそれ以外の民はどうか? 護衛を特別に頼みたい場合は冒険者ギルドに依頼をするのが普通だろう。しかしそれをより安く、手続きも簡単で早く手配出来ればどうだ? 警備の仕事は王都や人だけに限定されない。遠くの街や商隊を護衛する仕事などもいずれは出て来る筈さ」


 それを聞いたリベルトはだんだん表情が明るくなって行く。


「兄貴! 商隊警護とは山賊や野盗相手に戦う訳ですね?」


「そういう事になる。確かに危険は伴うが、ただその分の実入りは格段に良くなるぞ。この仕事の実績が浸透すれば、強くて優しい鋼商会として皆がお前達に感謝する筈さ」


 おおおっ!


 実入りが格段に良くなり、感謝される。

 その言葉の効果は絶大であった。

 メンバーが皆、嬉しそうに喚声をあげているのだ。

 ルウは頷くと未だ話の続きがあると言い放つ。


「もうひとつは客商売だ。他の所は知らないが、鋼商会が経営する売春宿に関しては一切廃止し、女達には退職金を払って仕事替えして貰う」


「仕事替え? あの商売は儲かるんだが……」


 今度はラニエロが不満そうに言う。

 しかしルウはそんな意見を認めない。


「売春は駄目だ。それに加えて中央広場に3つある居酒屋ビストロは、それもぼったくりと言われている店だそうだな。こんな店は論外だ! 即閉店、廃業決定とする。そんな店じゃなく真っ当なやり方で美味い料理と酒を綺麗で可愛い女達と一緒に楽しめる店を作るんだ。つまり売春宿を退職させた女達をその店で雇うのさ。ただ勤めたくない女性に対しては無理強いしなくて良い」


「綺麗で可愛い女と楽しく飲み食いする店!? そりゃ楽しそうだ!」


 ルウの話を聞いたリベルトの食いつきが異常にいい。

 そんなリベルトにルウは片目を瞑る。


「そうさ。リベルトみたいな、一見硬派を気取った、女にもてない男が良く通いそうだ。きっと儲かるぞ……さっきの警備担当もこの店に詰める。万が一の時のトラブル処理は勿論、警備の仕事に慣れる為にな」


「なっ! もてない男って!? 兄貴、ひでぇや! 確かに兄貴に隠れて俺なら絶対行くけどな」


 リベルトの台詞にどっと笑う鋼商会のメンバー達。


「料理と酒が不味いのも駄目だ。金をけちらず優れた料理人を雇い、上質の食材、酒を仕入れるんだ。逆に料金はコストと利益をじっくり考えて出来るだけリーズナブルに設定する。そうすれば皆、感謝してくれて、俺達は健全に儲かるって寸法さ」


 今度はルウの言葉に全員が頷いている。

 全員がやる気満々のようだ。

 そしてルウは最後に敵対勢力に関して話す。


「お前達が大人しくなれば、今迄争っていた奴等が必ず騒ぎ出すだろう。『縄張り』を奪おうとしてな。……もしちょっかいを出して来たら、とりあえず上手くあしらっておけ。それ以上しつこくして来たら俺やアーモンが上手く処理しよう」


「兄貴……まさか!?」


 ルウの言い方にリベルトは唐突に蠍団消滅の噂を思い出したのだ。

 確か黒髪、黒い瞳の男に全員があっさり始末されてしまったと裏社会では一時騒然となった記憶がある。

 ……まさか目の前の男が犯人なのか?

 恐怖で小刻みに身体を震わすリベルトを見てルウは曖昧に笑って首を横に振った。


「ははっ、リベルト。そのような時にこそ騎士隊や衛兵隊を使うんだ。愚連隊同士の争いでは無い『正当な理由』で街の治安が脅かされればそれを解決するのが彼等の仕事だからな」


 騎士隊や衛兵隊に処理して貰うと言われてホッとしたリベルトであったが、自分達が完膚なきまでに叩きのめされた事も思い出して黙って頷く。


「ざっとそんな所だ。で、商会の責任者だが今迄通り会頭……いわば首領ボスはリベルト、相談役はこのアーモンに務めて貰う」


 ルウからリーダーに再任すると事前に聞いていたリベルト。

 

 彼はある程度覚悟をしていたのだが、改めて部下達を守って行く事を考えて今度は緊張の武者震いを催したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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