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第306話 「カサンドラの提案」

 リリアーヌに続いて暗い表情で話をするのはサラ・セザールである。


「リリアーヌ先輩も大概ですが……私の方もとても酷いものです」


 遠い目をして語るサラはカサンドラと決して目を合せようとしない。


「…………」


 それに対してカサンドラの方も相変わらず俯いたまま黙って何も語らなかった。


「私の方は昨年ですが彼女の魔法訓練には散々付き合わされました」


「魔法訓練?」


 訝しげに尋ねるフランに対してサラはきっぱりと言い放つ。


「はい! 彼女の魔法攻撃術、召喚術の訓練の為という名目で冒険者クランのメンバーにされて様々な場所に駆り出されました。狩場の森などは未だ良い方で王国管理の公営墓場での不死者退治、様々な遺跡や多くの迷宮での探索など……副担当をしていた週末は彼女と一緒に殆ど冒険者の真似事ばかりをしていました」


「まあ!」


「内容も※公務員活動優遇制度を遥かに逸脱するものです。見つけた戦利品を派手に売り捌きましたから……いくら私が魔法使いでももうあんな休み無しの日々は御免です。挙句の果てに体調も悪くなって春先に困っていたら、ルウ先生に治癒魔法で助けて貰ったという次第です」 ※公務員活動優遇制度=第285話参照 


「……リリアーヌ先生とサラ先生はこう仰っているけど……カサンドラ先生はどうなのですか? 何か仰りたい事、すなわち申し開きはありますか」


 フランはリリアーヌとサラの話を聞いた上で今度はカサンドラに問い質した。

 いつもは冷静なフランの口調にもさすがに怒りの雰囲気が現れている。

 

「申し開き? あ、ある! あるぞ!」


「何があると言うのです」


 カサンドラのした非常識な内容に対してフランの言葉もついきつくなる。

 しかし彼女の口から出た申し開きの言葉は驚くべきものであった。


「ご、合意の上だ! 2人共お互いに私とは納得の上で行ったのだ」


「合意? 納得?」


 意外な答えについく気持ちが高ぶり、効きなおすフラン。

 しかしカサンドラは真偽を2人に問い質して確認して欲しいと言う。


「う、嘘だと思うのならばこの2人に聞いてくれ! 直ぐ分る筈だ」


 それを受けて今度は怒りを押し殺すような口調でフランが2人に問う。


「リリアーヌ先生、サラ先生……カサンドラ先生はああ仰っていますが、如何ですか?」


「…………」「…………」


 今度はリリアーヌとサラが黙ってしまう。

 一応合意は間違い無いらしいが……何か裏がありそうだ。

 ここでフランのトーンが一気に変わる。

 今迄に無い冷えびえとした迫力のあるものだ。


「2人共、いえ3人全員正直に仰らないと学園から処罰の対象になりかねないですよ。まあ良いです、カサンドラ先生からお話下さい」


 余りにも迫力のある口調に圧倒されたようにカサンドラがあっさりと素直になる。


「分った……話す、話します! 実は2人にはアルバイトと言う形で私の事をいろいろと助けて貰っていたんだ」


「アルバイト? 魔法訓練や冒険者的な活動はともかく、自由お見合いも……ですか?」


 3人は魔法女子学園の先輩と後輩の教師という間柄なだけである。

 なのにそこまで頼むかというフランの問い掛けにカサンドラは気色ばんだ。


「自由お見合いはリリアーヌ先輩達女性陣の食事代を一旦もった上で、毎回好きなワインを会の終了後にお土産で買うという約束を取り交わして私の参加を了解して貰ったのだ。ま、まあ上手く行った女性からは私とリリアーヌ先輩は謝礼を貰う様にはしたけどな。だけど良いじゃあないか、学園には全く出会いは無いし……校長はそんな素敵な夫と結婚出来て幸せなんだから」


 そんなカサンドラの自己弁護は止まらない。


「サラだって売りさばいたお宝の分け前を結構渡していたんだ。アルバイト代とは別にな。だから学園の給料より余程稼いでいる筈だ」


 ここで堰を切ったようにリリアーヌからも反撃が行われる。


「こんなに頑張っても私なんか身体目当ての男ばっかり寄ってくるのですよ、校長!」


「ええっ!」


「ううう、私だって! 私だって校長みたいに素敵な伴侶を見つけて幸せになりたいんです……」


 リリアーヌはそう言うと半泣きで顔を伏せてしまう。

 これはいろいろと根が深そうだ。

 そんなリリアーヌを見て今度はサラが自分の胸の内を吐露した。


「私も生活があるし、魔法使いとして実力をつけてこの学園で出世したいですもの! 理事長や校長、教頭、そしてルウ先生なんかと違って天才じゃあないですから! 努力して実戦経験を積むしかないですから!」


 こちらも辛そうに唇を噛み締める。

 フランは最後にカサンドラを見た。


「わ、私も2人と一緒なんだ。金を稼ぎたいのは勿論だが、魔法の才能があって男性にもてる妹には決して負けたくない! 絶対に負けたくないと思って頑張っただけなのだ!」


 聞くと魔法鑑定士A級の資格を持つ妹のルネの元には縁談の話がひっきりなしに来るそうだ。

 仲が良い双子の間でもそのような葛藤があったのである。


「3人の気持ちは良く分ったわ。ただ、そうは言っても……どうしたものかしら……」


 腕組みをして考え込むフラン。

 教師間のやりとりに止まらず、一般人から謝礼まで貰う。

 このような行為は無届けのアルバイト・副業禁止に加えて生徒の模範たる教師の資格に反するという学園の職員就業規定には引っかかるものだし、冒険者の真似事は無届の上、公務員活動優遇制度を遥かに逸脱しているという事でこれも違反材料となる。

 悩む妻の姿を見てルウが助け舟を出す。


「ははっ、フランにここまで正直に本音を言ってくれた事で厳しい処罰は無しにしてあげられないかな。学園からしたら倫理的な問題だけで特に犯罪も犯していないだろう」


 ルウがそう言ってもフランは考え込んだままだ。


「フラン……規則や秩序は皆を守り幸せにしていく為にあるとしたら常にそれが時勢や事情に適合しているか考えるべきだと俺は思う。今回は再度行わない約束をして厳重注意という事にしてくれないか、俺からも理事長に頼むから……それに課題も見えたじゃないか」


「そうね……教員の給与体系は勿論、精神的カウンセリングや技術研修に関してもっと考えないといけないわね。ルウ先生の意見を前向きに考えて理事長に報告してみるわ」


「で、でも一切を理事長には話すのですよね……大丈夫でしょうか?」


 リリアーヌはとても心配そうである。

 無理もない。

 この魔法女子学園での最終的な意思決定は理事長のアデライドなのだから。

 ここでフォローしたのがルウである。

 彼はいつもの穏やかな表情でリリアーヌを安心させるような口調で話した。


「フラン、いや校長が約束してくれたから大丈夫さ。娘だからという意味ではなく、筋が通ってさえいれば理事長はちゃんと話を聞いて対応してくれる筈だ。俺からも一緒に説明するよ」


 後はと……ルウは片目を瞑った。


「副担当の件だよな」


 ルウの言う通りこの問題を解決した上でアデライドにあげた方が確かに良いに違いない。


「リリアーヌ先生とサラ先生の2人は副担当として俺が引き受けるよ。その代わり、俺がカサンドラ先生の2つのクラスの副担当をやるのさ」


「「「ええっ!」」」


「そうすれば丸く収まらないかな?」


 只でさえ忙しいルウが……それも副担当を引き受けるという提案にカサンドラは特に驚いたようであり、じっと考え込んだのである。


「それなら私にも提案があるんだが……良いかな?」


 暫し考えた後に口を開いたカサンドラに他の4人の注目が集まった。


「コホン! ええと……提案というのはだな。私のクラスを廃止してルウ先生のクラスに統合するというのはどうだろう? これは上級召喚術だけでなく魔法攻撃術に関してもだ。ちなみに私をルウ先生の副担当にさせて欲しい」


「「「えええっ!!」」」


 この意外過ぎるカサンドラの提案にはさすがにその場の4人は驚いたのである。

 そんな4人を見てカサンドラの話は続く。


「恥ずかしいが私のクラスの申込者数が惨憺たるものなんだ。それ以上に巷の話を聞いて、身近で私も学びたいんだ、ルウ先生の魔法を……」


 これは思い切った決断である。


 しかしカサンドラは考えていて気付いたのだ。

 ルウが自分のクラスの副担当をやる事で全てを丸く収める事を。

 今回の件を一切解決するどころか、彼のクラスに入りたいが試験に落ちた生徒をケアした上でカサンドラの顔をも立てる事になるのである。


「ありがとう、ルウ先生」


「ははっ、とんでもない! それより良いのか? 俺は喜んでカサンドラ先生の副担当をやらせて貰うけど」


 そんなルウの笑顔に対してカサンドラもゆっくりと横に首を振ると、にっこり笑っていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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