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第3話 「飛翔」

とりあえず3話投下!

2人が学園に着くまでもう暫し見守りお願いします。

 翌朝……

 朝日が暖かい日差しを送ってくるのを感じて、フランは目を覚ました。

 

 ええっ!? 私、私……昨夜、彼に何を話したんだろう。


 フランは思い出した……

 ルウへ思い切り言いたい事を告げた後、疲れが出てそのまま眠ってしまったのだ。

 一瞬、本能的に着衣の乱れを気にしたフランではあったが、見た所、何の異常も見られなかった。

 それどころか、最初に目を覚ました時と同様に薄汚れた外套マントが身体に掛けられていたのである。 


「おおっ、フラン、起きたか?」


 見上げると真上にルウの屈託の無い笑顔があり、フランは何故かホッとする。


「腹減っているだろう? よかったら朝飯、食うか? 俺の旅の携行食だから大したものは無いというか、貴族の口にはまるで合わないかもだぞ」


 フランは元気良く起きると、ルウが汲んでくれていた冷たい沢の水で顔を洗う。


「えへへ……」


 ルウの横に座り、彼の横顔を見つめると、自然と笑みがこぼれてしまうのが不思議だ。


「食事は兎の乾し肉に、アールヴの作ったハーヴティーだけど……」


「た、食べる!、食べる! あ、お茶が美味しいっ! お肉も美味しいっ!」


「アールヴってのは何でも知っているんだな、俺の爺ちゃんは天寿を全うしたってさ」


 フランが兎肉をぱくつく中、ルウもハーヴティーを啜りながら、しみじみと呟いている。

 彼の知識は約10年間に渡り、育て親であるアールヴの老人から叩き込まれたという。

 

 何となく気になったフランが聞いてみたくなった。

 ちょっとした好奇心からである。


「ねぇ……あくまでも参考レベルで聞いても良い?」


「何だい? フラン」


「ルウがお世話になったアールヴのお爺ちゃんって、一体おいくつで亡くなられたの?」


 フランはだんだん緊張して来た。

 もしかしてとんでもない話になるのでは、と。


「う~ん、確か7千歳くらいだったって、皆言ってたな」


「ななななな、7千歳!?」


「う~ん、この大陸の神代かみよの時代と言われた頃から生きていたって」


 やっぱり! とんでもない話だ。

 神代から生きていた7千歳のアールヴって?

 ……もしかして凄く偉い人じゃないのだろうか? 

 

 フランは恐る恐る聞いてみた。


「あ、あの……特別な称号とか……その方についていなかった?」


「うん! アールヴの部族全部を束ねる『ソウェル』って言ってたぞ」


「ソウェルって……あ!?」


 ああ、思い出した!

 ソウェルってアールヴ達の言葉で太陽って意味だ。

 それだけじゃない、部族をまとめる総指導者、アールヴ族の頂点に立つ人じゃない!

 

 フランは話の大きさに驚いて口を「ぱくぱく」してしまった。


「で、さ。爺ちゃんが死ぬ前に俺の跡を継げって言ったんだけど、俺、人間でアールヴとは寿命も全然違うし、他にやりたい事もあるし―――」


 ソウェルの跡を継げって、何? 

 人間がアールヴ族の指導者になるって、とんでもない話じゃない。

 でもアールヴ族は平均数千年生きるとして、私達人間は精々生きて100年。

 いくらソウェルを継げと言われても、困ってしまうだろうな……


 フランはふと、そんな事を考えながら、ルウにその後の話を聞いてみた。


 爺ちゃんと呼ばれる人、すなわちソウェルが亡くなってから、遺言通りルウを新たなソウェルに推そうとするアールヴ達も居たらしい。

 だが、多くの長老達が大反対したという。


 ルウはそんなお家騒動が嫌で、アールヴの里を出て来たのであった。


「貴方って……凄い人なんだね」


 フランは感心したように呟いた。

 基本的にアールヴは排他的で、他種族が嫌いなのだから……


「ははっ、俺が凄いって? そんな事はないよ、凄かったら、俺はもう素晴らしい魔法使いになっている」


 フランはルウの言葉を聞いて思わず微笑む。


 でも……君はその凄いアールヴのソウェルに10年間も徹底的に鍛えられたんだ。

 人間なのにソウェルの跡を継げだなんて、余程気に入られていたんだろうね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、襲撃地点に行ってみようか?」


 ルウが事も無げに言うので、フランは耳を疑ってしまった。

 急に襲われたから、戦いながら滅茶苦茶に逃げて、ここからでは襲撃地点がどこかも分からない。

 それに……ルウが居るとはいえ、奴らの残党が居たらとても危険だ。


「でもさ、その騎士さん達の遺品を回収しないとまずくないか? それにフランの荷物もあるだろう?」


「確かに遺品を回収した方が良いし、私の荷物も回収したいのはやまやまだけど……」


「だったら決まり! 飛翔魔法を使えばすぐ行けるよ」


「ふ、ふへえっ!?」

 

 フランは思わず、変な声を出してしまった。

 年頃の乙女として2度とは出したくない声だ。


「もうっ! 吃驚して思わず変な声が出ちゃったじゃない、ルウのせいだよ!」


「お、俺のせいか?」


 頭を掻くルウを見て、フランは可笑しくなって来た。

 本当は違う、ルウのせいじゃなく八つ当たりなのだから。

 しかしこの人は、とんでもない事を言う。 

 飛翔魔法なんて、軽く言うほど簡単に使えるものじゃない。

 だって風の精霊と心を通じて、自在に動かすなんて……そんなの無理。


 フランの表情が曇って行く。

 ルウは腕組みをして首を傾げる。


「そうか、フランは飛翔出来ないのか?」


 ぐさっ!

 

 ルウの言葉が音を立ててフランの心に突き刺さる。


 そんなにがっかりな声で言わないで!

 止め刺されちゃうし!


「じゃあさ、こうしよう。アールヴの里じゃあ皆やっているぞ」


 ルウは何と! 両手を広げておいでおいでをしている。


「俺にしっかり抱き付いて欲しい、そのまま飛翔するから」


 えええっ!? ルウに……男性に抱きつくの?

 だって!?


「アールヴの里では飛翔魔法を覚えるために、飛べる大人に子供が摑まるんだ。まあ全員が習得出来るとは限らないけど、な」


「あの……私は子供と同じ……ですか?」


 フランはすねた目で睨んだが、ルウはおかまいなしに説明する。


 ルウの説明によると……

 抱き合えば、術者が飛翔魔法を発動する際に放出する魔力波オーラを体感し易くなり、アールヴの子供達はより飛翔魔法を覚えやすくなるのだそうだ。


 ルウの言っている事は正しい! 

 これは魔法の勉強だ!

 仕方が無いのよ! 貴重な魔法を体験する為だからお母様も許してくださるわ。


 フランは無理矢理、理由を作った。

 そして躊躇せず、ルウにしっかりと抱きついたのである。


「…………」


「…………」


 暫し沈黙が、その場を支配する。

 フランを抱いているルウが何故か動かないのだ。

 

 あれ?


 不思議に思ったフランであったが、唐突にルウから言葉が投げ掛けられる。


「フラン、お前って、いい香りがするな……それに」


「それに何?」


 フランはじっとルウを見詰めた。

 続きが絶対に聞きたかった。


「可愛くて……その……美人だ」


 フランは黙ってルウの胸に顔を埋めた。

 身体が……熱くなって行く。

 

 もう! 何を言い出すのかと思ったら!

 でもルウの心臓かしら? 凄くどきどきしているみたい?


「よ、よし、始めるぞ! ああ、フラン、硬くならずにリラックスしてくれよな」


 人の事が言えないじゃない、貴方?


 フランは、甘えた顔が見られたくなくて、ルウの胸に顔を埋めたままだ。

 鼻を鳴らして甘えるフランをしっかり抱き締めると、ルウは真顔に戻り言霊ことだまの詠唱を始めた。


「大地の息吹である風よ、その揺蕩たゆたう思いを我は理解しよう!」


 ルウの詠唱を聞きながら、フランは自分達を見守る不思議な気配を感じた。


 な、何! この感覚は!?

 誰かが私を見ている? この世界の人知を超えた存在達?


颯々(さつさつ)たる、風の精霊(シルフ)よ! 我、汝の美しき思いを受け止めよう! 汝、素晴らしき息吹の力を以って我を摑まえよ! 我、人として母なる大地より旅立つために風の力を欲する!」


 ルウの言霊の詠唱が進むに連れて2人の身体がふっと軽くなる。


 わわわ! これって何!?

 身体が、身体が浮く!


「我へ汝の力を与えよ! 飛翔フライト!」


 ルウが詠唱を終えた瞬間、飛翔魔法の源である風の精霊(シルフ)の力で、ルウとフランはあっという間に大空へ飛ばされていたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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