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第298話 「ジゼルの修行」

 他の妻への意地と嫉妬の気持ちを考え直したジゼルの今日の課題は詠唱の迅速化である。

 まずルウはジゼルに指示をして、いつもの魔法式を魔力を込めずに詠唱させた。


「水を司る天使よ! 我等へ加護を! 大いなる水の守り手を遣わせ給え! ビナー・ゲブラー・ケト・サーキエール」


 これは水の魔法使いであるジゼルがいつも水の壁ウォーターウォールを発動する為に詠唱する言霊である。


「これをいかに短縮して詠唱し発動するかが今回の課題だ。これを俺が段階を踏んでやってみよう」


 ルウはそう言うと一気に息を吸い込んでから、呼吸を整えた。

 あっという間に彼の魔力が高まって行く。


「当然の事だが、呼吸法もおろそかにしてはいけない。魔力を高める所からの流れで言えば詠唱のみというわけにはいかないからだ」


 ルウは先程、ジゼルが詠唱したのと同じ様に詠唱する。


「水を司る天使よ! 我等へ加護を! 大いなる水の守り手を遣わせ給え! ビナー・ゲブラー・ケト・サーキエール」


 あっと言う間に20m以上もの巨大な水の壁ウォーターウォールがルウの周囲を覆う。

 桁違いな魔法に対してフランやジゼルは思わず拍手してしまう。

 我が夫ながら見事な発動振りだからである。


消去デリート!」


 ルウが頷いて指を鳴らすと水の壁はかきけすように消え去った。


「よし次は魔法言語だけで詠唱しよう」


 ルウは先程と同様魔力を高め、再度魔法式を詠唱する。


「ビナー・ゲブラー・ケト・サーキエール」


 今回は半分程度の長さの詠唱だ。

 ただ当然ながら同じ様に水の壁が発動する。


 暫し経って魔法発動を消去したルウはにっこり笑うと改めてジゼルに問い質した。


「1回目と2回目の詠唱はどこが違うか、分るか?」


 ルウの質問にジゼルは立て板に水で答えたのである。


「はい、旦那様が仰る通りに魔法言語だけで発動させたのははっきりしていますが、詠唱しなかった部分を魔法言語の中に意識的に盛り込んであると考えられます。つまり感覚的には半無詠唱だという事です」


 ジゼルの答えにルウは満足したようだ。


「正解だ。詠唱の短縮、迅速化というのはより無詠唱に近づく事に他ならない。無詠唱とは自分の内なるこころの世界で言霊や魔法式を詠唱する事だ」


 こころの世界……

 話が核心に入ったと分ってフランとジゼルはしっかり話を聞こうと思わず身を乗り出した。

 ルウはフランとジゼルの態度を見て満足そうに頷く。


「術者が声にして言霊を発しないと魔法が発動しないと言うのは全くの間違いだ。何故か? 声は肉体の一部と言えるが、術者と魔法の源である神や大天使、そして精霊達との契約は肉体で繋がっているのではない。それでは術者が彼等と契約しているのは何か? 精神だ、特にその中枢である魂の核と契約しているのだ」


 魔法の契約を取り結ぶのは魂……

 魂の声での発動が可能になれば、声を出さずに魔法が発動出来る。

 すなわちそれが無詠唱なのだ。


 ルウは2人に説明すると最後の言霊の詠唱に取り掛かる。

 行き着く所は無詠唱なので正確にいうと3番目なのだが……


「サーキエール!」


 今度は水を司る大天使の名前のみだ。

 しかし当然ながら同じ様に水の壁が発動する。


消去デリート! サーキエール!」


 ルウが水の壁を消去して大天使の名を呼ぶと今度は忽然と円形をした巨大な氷柱が現れる。

 長さは15m、直径は5mはそれぞれ余裕で超えていそうだ。


「サーキエール!」


 最後にルウが発動したのはジゼルが最も得意とする超硬質化した水の剣である。


「はああっ!」


 ルウが声を発すると水の剣が一直線に伸びると、先程出現したまま宙に浮く巨大な氷柱を真っ二つに切断した。


「はああああっ!」


 ルウは更に超硬質化させた水の剣で氷柱を切り刻む。

 氷柱はあっという間に粉々になるとばらばらと落ち始めた。


消去デリート!」


 最後にルウが消去の魔法を発動させると粉々になった氷柱はもとより、超硬質化した水の剣も一切が消え失せたのである。


 固唾を呑んで見守っていたフランとジゼルはルウの魔法発動が終わった瞬間、ふうと大きく息を吐いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうだい? ジゼル、これだって少しは派手だろう?」


 ルウが声を掛けるとジゼルは嬉しそうに笑う。


「凄い! 凄~い! 旦那様、凄いぞ!」


 はしゃぐジゼルにルウはアドバイスも忘れない。


「魔力が強くなれば威力も増す。魔力の強化も心がけるのだ」


「はいっ! 早速ですが指導をお願いします」


 ジゼルは先程の気持ちを完全に切り替えられたようだ。


「分った、では……」


 ルウはジゼルの願い通り、直ぐに指導を開始した。

 こんな時はフランも初心に帰る事を心がけている。

 ルウの話に対してジゼルと共にじっと耳を傾けたのだ。


 ―――指導が終わるといよいよ実践である。


 ジゼルはルウが行ったようにまずは詠唱を半分にして、詠唱しなかった部分を魔法言語の中に意識的には盛り込んで詠唱する。

 当然未だ魔力は篭めない。

 それを何回も何回も繰り返す。

 地味で気が遠くなるような作業である。


 片やフランはというとルウが2段階目に発動した形で火の魔法を使っているのでそれを応用した形で使えるように練習していた。

 訓練に使う時間を少しでも無駄にしたくないという気持ちからである。


 そのうちさすがに疲れが見えて来たジゼルであったが、言霊の短縮迅速化では1日の長があるフランが彼女を励ましながら2人は発動の練習を続けたのだ。


 ―――そして本日の訓練も終わりの時間が近付いた。


 ルウがいよいよ2人の成果を見る時だ。


「ジゼル、先攻は譲ってあげるわ」


 フランがにっこりと笑ってジゼルを促す。


「はいっ! ありがとうございます、フラン姉。では行かせて頂きます」


 ジゼルはルウとフランに一礼すると息を吸い込んだ。

 先程のジョゼフィーヌの話ではないが、ルウの妻達は彼と過ごせない夜を自己鍛錬に充てているのであろう。

 ジゼルの呼吸法も相当な訓練を積んだらしく、とても見事なものであった。

 そしてここで、それ以上に見事な言霊が放たれたのである。


「ビナー・ゲブラー・ケト・サーキエール」


 その瞬間、ルウには及ばぬまでも15mもの水の壁ウォーターウォールが出現してジゼルの周りを覆ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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