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第289話 「ラウラの葛藤」

 ホテルセントヘレナ、スイートルーム、リーリャ私室

 木曜日午後7時……


 現在部屋の中にはロドニア王国王女リーリャ・アレフィエフと彼女の師匠であるロドニア王宮魔法使いラウラ・ハンゼルカの2人が居る。

 魔法の勉強という名目で部屋に篭もった2人。

 両名共、最近手配したばかりの頑丈そうな革鎧をばっちり着込んでいた。

 今夜はルウから『お招き』があって準備をして待っているのだ。

 珍しく緊張して固くなっているラウラをリーリャがなだめている。


「そろそろモーラル姉がお迎えに来ますよ、ラウラ」


「リーリャ様、このように抜け出して本当にマリアナやブランカ殿には発覚しないのでしょうか?」


 ラウラは相変わらず不安そうだ。


「大丈夫ですよ、我々が異界に跳ぶと同時に私達の泊まっているこの部屋は本来の世界、すなわち現世うつしよの時間の流れから遮断され、外部からは干渉出来なくなりますから」


 そんなラウラに対してリーリャは自信たっぷりに答える。


「え!? 遮断され? 干渉出来なく……なるのですか?」


「ふふふ、時間の流れも全く変わりますから……それは全部旦那様からの受け売りなんですけどね……もう直ぐ分りますよ」


 ばちん!


 いきなり部屋の中に異音が生じた。

 空間に何らかの干渉が生じている音であろう。

 いきなり部屋の中に眩い光体が発生した。

 光体はみるみるうちに人の輪郭を持つと、あっという間にシルバープラチナの少女の姿になる。

 それを見たリーリャが嬉しそうに叫んだ。


「ああっ、モーラル姉様! ありがとうございます、迎えにいらして頂いて」


 モーラルは空中からすとんと部屋に降り立つと軽くお辞儀をする。

 美しい髪がさわっと揺れた。


「リーリャ、そしてラウラ殿。お待たせしました、さあお支度は大丈夫ですか?」


「大丈夫よ、お姉様」


「わざわざ迎えに来て頂いて、ありがとうございます。こちらの準備は既に出来ています」


 リーリャとラウラが同行可能であるとの返事をするとモーラルは頷くと瞬時に魔力を高めて言霊を詠唱する。


「我が分身たる異界よ。恐れ多くも『高貴なる4界王』が作りし偉大なる異界への扉となれ。何人もそれを干渉する事、能ざるものなり!」


 あっという間の神速の詠唱と言えるであろう。

 モーラルは詠唱し終わると更に気合を入れて決めの言霊を言い放つ。


ポルタ!」


 すると空間に淡い光の輪郭を持つ『扉』が出現した。

 自分の作り出した異界と他者の異界を繋いでしまうというモーラルが使いこなす高度な空間魔法のひとつである。

 言霊の通り、ルウが作り出した『高貴なる4界王』の異界へモーラルが異界化したこのホテルの部屋を繋いだのだ。

 その凄まじさにラウラは声も出ない。


「…………」


「ふふふ、さあどうぞ」


「ありがとうございます、お姉様」


 笑顔で促すモーラルにリーリャは礼を言うとラウラを扉の方に行くよう促すのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リーリャとラウラが向うと扉は音も無く開き、一気に身体が浮く。

 魔法により新たな異界へ一瞬のうちに転移したのである。


「あ!」「え!?」


 2人の目の前にいきなり新たな世界が現れた。

 ルウと『高貴なる4界王』の力で作られた見渡す限りの広大な草原である。


「こちらですよ」


 呆然としている2人にいつの間にか傍に居たモーラルが手招きをした。

 見ると彼女の導こうとしている方向に大きなテーブルと何人もの人間が居るのが見えたのである。


「おお~い。2人共こっちだ、早く来い」


 その中で大きな声で呼ぶ若い長身の男が居た。

 ルウである。


「だ、旦那様~っ!」


 彼の姿を見た途端、リーリャはモーラルやラウラと一緒の事もすっかり忘れて転がるように走り出した。

 そして思い切り勢いをつけてルウの胸に飛び込んだのである。


「旦那様~、旦那様~!」


 甘えまくるリーリャを見てルウの傍らに居たフランは慈悲深い表情で微笑んだ。

 今でこそ『第一夫人』として落ち着きと貫禄が身について来たフランではあったがルウと知り合った頃はあのように後先も考えずに甘えまくっていたものである。

 リーリャの姿はそのような以前の自分を見るようで感慨深いと感じていたのだ。

 

 そのようなリーリャの姿を慈愛の目で見詰める者がもう1人……

 たった今、一緒に異界に赴いたラウラである。


 あの喜ばれよう……もうリーリャ様ったら……本当にルウ様の事を愛していらっしゃるのですね。


 最近ラウラは更に詳しい話をリーリャから聞いていた。


 リーリャが闇に落とされる危機一髪の所をルウが救った話。

 ロドニアが国王以下、敵の悪魔に取り込まれる所を逆にルウの配下である悪魔達が阻止した事。


 よくよく考えてみればロドニアからこのヴァレンタインに来る時もルウの差配で強力な護衛が手配され、その上両国が現在の良好な関係を保てるような配慮までしてくれたのである。

 全てを知った今、ラウラにとってもルウは命の恩人とも言える存在であった。

 そして既に自分は彼に弟子入りを申し入れて了承されている。

 正式な魔法の師について修行した事のない自分にとってもそれは本当に楽しみであった。


 しかし……

 今夜は『訓練のお招き』の筈だ。


 訓練に不似合いな大きなテーブルの周りではメイド服姿をしたラウラの知らない金髪の少女も混じっていて妻達と共に忙しく、しかし楽しそうに立ち働いていたのである。

 大きなテーブルには妻達により素朴だが美味しそうな料理が並んでいた。


「ふふふ、これはオレリー姉の自慢の手料理なのよ。だから今夜はホテルの夕食を軽くしておいてくれって事だったの」


 聞き覚えのある声が傍でする。

 声がした方を見ると甘えていた筈のリーリャがにこにこしてラウラを見詰めていた。


「私もそのうち完全に教授して頂いて美味しい料理を作ってみせるわ。まずはデザートに挑戦しようと思っているの。ホテルでも作れるような物をね」


 そう言い放つリーリャは本当に幸せそうだ。


 そのような主の姿を見てラウラは少し胸が痛んだ。

 

 確かに魔法は自分の『生きがい』だ……

 だが魔法ひと筋の人生を送って来た自分は果たして幸せと言えるのだろうか? 

 これは王女様に対して妬ましいと思っている私の卑しい心の痛みなのか?


 リーリャを見詰めるラウラの美しい表情が一瞬曇ったのはそのような理由からであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


新作始めました。

こちらもご一読の上、宜しければお引き立てお願い致します。


『異世界中二病ブローカー、俺は世界を駆け巡る』※タイトル変更しました。


http://ncode.syosetu.com/n6316cp/

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