第284話 「魔道具研究」
リーリャの存在を失念しておりました。
第283話の設定を一部変えて改稿してあります、ご容赦下さい。
午後1時……
ルウの担当する専門科目『魔道具研究』の体験授業が始まろうとしていた。
教壇にルウが立ち、その傍らには副担当としてアドリーヌが立っている。
新人同士でいきなり専門科目のクラスを任される事自体が前代未聞であり、その話題性だけで受けに来た生徒も居るくらいだ。
ルウがいつものように穏やかな表情で口を開く。
「今日はこの体験授業を受けに来てありがとう、俺が担当のルウ・ブランデルだ」
「副担当のアドリーヌ・コレットです、宜しくお願いします」
2人は挨拶すると直ぐに授業が始まった。
「この魔道具研究は他の魔法以上に商品に対する深い知識が必要となる。商品の種類、出自を識別して真贋を含めた価値を見極める、それが鑑定だ。更に上級になると付呪を発動して商品に魔法効果を加えて魔道具を作り上げる……これが魔道具製作となる」
ルウは教室を見渡した。
生徒達は黙ってルウを見詰めている。
「魔道具に出来る商品はありとあらゆるものが巷に溢れている。それを全て追いかけようとすると無理が生じる。最初は自分の好きな物に絞って行くのが得策だ」
ここで1人の生徒が手を挙げる。
2年A組の学級委員長であるマノン・カルリエだ。
「好きな物と言っても私のように漠然としている者もいます。何かアドバイスをお願いします」
そんなマノンの問い掛けにルウはにっこりと笑う。
「ははっ、分った。需要があるのは素材なら、まず金属、そして宝石だな。素材以外ならやはり良く使われる魔道具がお勧めだ。具体的に挙げれば魔法使いが使う武器としては杖、それに短剣だ。装飾品で言えば指輪、またはペンタグラムなどの護符、タリスマンを始めとしたアミュレットも良いだろう」
「あ、ありがとうございます! 早速、図書館で色々な本を読んでみます」
マノンは嬉しそうに答えるとお辞儀をして着席する。
他のクラスの生徒なんかに負けられない。
それを見たオレリー達3人が顔を見合わせると大きく頷いた。
「はいっ!」
オレリーが先程のマノンより一段と大きな声で質問を求める。
「オレリー、何だ?」
「商品の絞込みは先程の質問を聞いて良く分りました。鑑定魔法の有効な練習方法はありますか?」
オレリーはジュルジュの事を知っていてこの質問を投げ掛けたのだ。
「ははっ、鑑定魔法自体の練習方法は他の魔法とそんなに変わらない。呼吸法で魔力を高めた上で魔法式をしっかり詠唱する、そして少しでも多くの鑑定の経験を積むのが上達への1番の近道だ」
「はいっ! ありがとうございます、良く分りました」
「はいっ! 先生!」
続いてジョゼフィーヌが素早く挙手をする。
ルウが質問を許可すると元気良く立ち上がった。
「付呪の魔法って難しそうですね。でも挑戦してみたいです。何か今から準備しておく事はありますか?」
ルウはジョゼフィーヌの質問を聞いて大きく頷いた。
付呪の魔法……それは対象物に特別な能力を付加する魔法である。
通常、付呪された魔道具を使用する時は魔力を使わないで済む。
つまり魔法を行使出来ない戦士やシーフなどが使うと戦闘力を格段にアップする事が出来る。
その為、付呪の魔法を行使出来る術者はとても重宝されるのだ。
魔法鑑定士の試験には付呪の魔法の項目は無い筈だから、試験官達は知らないでしょうけど……
旦那様が付呪の魔法も行使出来ると分ったら、今のS級魔法鑑定士がどんな免許に変わるのかしら?
超S級? それとも……
ジョゼフィーヌはそう考えると笑いを堪えるのに必死である。
「ジョゼ、付呪の魔法は召喚魔法と同様に天賦の才が大きい。敢えて厳しい事を言わせて貰えば適性の有無は直ぐにはっきりするんだ」
「分りました! 才能があれば幸運という事で私、挑戦してみますわ」
あくまで前向きなジョゼフィーヌ。
彼女はルウに答えてくれたお礼を言って着席したのだ。
ひと呼吸置いて最後に挙手をしたのはリーリャである。
「はいっ、ルウ先生!」
質問が許されるとリーリャは満面の笑みを浮かべて立ち上がった。
ロドニアの王女である彼女はやはり目立つ存在なのだ。
「鑑定品の中には危険な物もあると聞きます。その危険を回避する為にはどうしたら良いのでしょうか?」
最もな質問である。
血塗られた古代文明の遺物や呪いのかかった宝物など鑑定品の危険なものは枚挙に暇が無い。
基本的には関わらないのが一番だが、プロの魔法鑑定士としてその出自や素性を解明する為には避けて通れない時もあるのだ。
「ははっ、危なそうな対象物は関わらないのが一番だが、どうしてもやらなければならない時は解呪の魔法を覚えるか、行使出来る術者に同席して貰ってから鑑定するのが安全だ。
「解呪?」
思わず聞き直すリーリャ。
「ああ、解呪だ。魔法使いよりは司祭や僧侶が良く行使する魔法だが覚えておいて損は無い。俺の授業では当然、必須の魔法にするつもりだ」
「はいっ! 私もぜひ覚えたいです。宜しくお願いします」
目をうるうるしながら返事をするリーリャにルウも笑顔で応え、励ました。
「頑張れよ」
「はいっ!」
更に大きな声で返事をしたリーリャを見て、オレリーとジョゼフィーヌは2年C組の存在感を示したと密かに喝采を叫んだのであった。
その後、数人の生徒達の質問に答えたルウ。
改めて開始された授業はまず鑑定魔法の言霊を覚え、詠唱出来る事を徹底させる。
当然全員が直ぐに習得出来る筈もなく次回の授業への課題として指示されたのだ。
―――40分後
そんなこんなで50分間の授業はあっという間に終了した。
受講した生徒達は満足した顔で教室を出て行く。
「お疲れ様です、ルウ先生。やはり貴方は素晴らしいです」
アドリーヌがルウを労わり、うっとりと見詰めている。
「先生~!」
オレリー達が嬉しそうに駆けて来た。
3人共、この教科にとても興味を持ってくれたようである。
手応えを感じたルウにも満足そうな笑顔が溢れたのであった。
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