第282話 「友として」
ルウ・ブランデル邸大広間、水曜日午前6時30分……
「ジェローム様はゆっくりなさって下さい。今日も休暇でいらっしゃるんでしょう?」
「お、おう!」
使用人のアルフレッドとアリスに対して、てきぱきと指示を与えながら朝の出勤前の支度を仕切るモーラル。
モーラルはその傍らジェロームへのケアも忘れず声を掛けたのだ。
その様子を見たフランも朝はモーラルに頼りっぱなしだとジェロームに言う。
「朝はモーラルちゃんに仕切って貰うのが1番良いんですよ」
「成る程!」
ジェロームは納得して頷いた。
そんなジェロームにまたもやモーラルの声が飛ぶ。
「ジェローム様、7時30分に皆が一度に学園に出発しますから、慌しいですが、ご容赦願いますね」
「いや、こちらこそ悪いな。お構いなく」
未だ起きて来ない妻が居ると直ぐに起しに行く。
その間、食事の配膳の指示や妻達が出掛ける際の支度のアドバイスや持ち物の確認をし、更に自身は皆を魔法女子学園に送った後に市場へ買出しに行くという。
ジェロームは身を粉にして働くモーラルの事を素晴らしいと思った。
また妻達に関しても感心して眺めている。
何を感心しているかというと彼女達の順序がしっかりと決められている事だ。
夫1人に妻が6人……悪意に満ちた人から見れば乱れきった背徳の館と言われかねない。
※ジェロームは未だリーリャの事を知りません。
ジェローム自身もルウ達と話して誤解を解く前はそう思い込んでいた口であった。
それがどうであろう。
ともに暮らしてみれば妻達は各所で各自が自分の役割を確り担っているし、しっかりと順序が出来ていた。
妻達の中ではフランを中心に裏からモーラルが支える形でしっかりと秩序と順番が決められているのだ。
夫のルウは6人の妻達を平等に愛していて不満も出ないせいもあろう。
その妻達の献身とお互いへの思い遣りがこの順序と相まって見事な調和を作り出していたのである。
大したものだな。
妻達が皆、自分の役割と分を弁えている。
かつて我の強かった末っ子の妹でさえ自分の事より姉や妹の事を思いやるように成長している。
「料理のお味はいかがですかぁ?」
いきなり可愛い声が背後から掛かり、ついジェロームは後ろを振り向く。
声の主は金髪を可愛く束ねたメイド服姿の妖精アリスであった。
満面の笑みを浮かべている。
「ああ、美味しいですよ。アリス殿」
ジェロームがそう答えるとアリスは彼をじっと見詰めた。
「ジェローム様は亡くなった私の前の旦那様に良く似ているのです。ぜひ幸せになって下さい」
「ええっ、以前にご主人がいらしたのですか?」
ジェロームは驚く。
彼女は未だ20歳そこそこにしか見えなかったからだ。
この若さで夫と死別とは……気の毒に。
そんな事を思ったがジェロームだったが、何気ない内容の質問に切り替えた。
「アリス殿はここに勤めて長いのですか?」
「いいえ、こちらには来たばかりです。先日、『苦界』に落とされた私を救ってくださいましたから、お礼にご主人様にお仕えしようと決心しまして」
「ええっ!? 貴女は、その……」
アリスを人間と思っているジェロームは『苦界』と言う意味をつい誤解してしまう。
彼女の素性をかつては遊郭辺りで春をひさいでいた女として受け止めてしまったのである。
「たくさんの人間が私を穢しました。そんな中、泥を被って私を引き上げてくれたのはご主人様だけですから」
「た、大変だったのですね……そしてご苦労されたのですね」
「はい、ご主人様は未だ私を娶ると仰っていませんが私はいつまでも待っております」
「そう……ですか。貴女もルウの事が好きなのですね?」
実は話の内容が全く違うのに何となく噛み合って2人の会話は成立してしまう。
ジェロームはそんなルウの優しさに感動してしまったのである。
そんな中、ルウはジェロームに出掛ける旨を告げた。
「じゃあ、兄上。俺はもう出勤しますので、時間があればどうぞごゆっくりしていって下さい」
「いや、俺も騎士隊の宿舎に帰る。それにルウ、お前には色々な意味で感動した。凄いよ、お前は……俺の自慢の弟だ」
そう語るジェロームを、ルウは穏やかな表情で見詰めている。
そしてジェロームは意外なお願いをして来たのだ。
「実はな、お前に『兄上』などと呼ばれると、俺はとてもこそばゆいのだ。お前は一応弟だがそれよりはぜひ良き友として付き合いたい。これからは気のおけない友人としてジェロームと呼び捨てにしてくれないか……いや! これは兄としての最後の命令だ、そうするように!」
笑顔で頼むジェロームにルウも快諾する。
「ははっ、分りました。じゃあジェロームも気をつけて帰ってくれ」
2人はがっちりと握手した。
その様子を見ていたジゼルの目にはまた涙が浮かんでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園4階会議室、水曜日午前8時……
毎朝職員会議を行い、業務連絡を行っているルウ達。
今朝もケルトゥリの進行でそれが行われていた。
「では職員会議を始めます。今日の議題は月曜日にお話した2年生の専門科目選択の件です。現在授業受講の希望を受け付けていると思いますが、今週で締め切ります。その上で科目毎のクラス編成と担当教師を最終確定します。心得ておいて下さい」
ケルトゥリはそこでひと息つくと、次の連絡事項に入る。
それはたった今、理事長のアデライドから聞いたばかりである彼女自身も驚きの事実だ。
「そして当学園にとって喜ばしいニュースです。臨時職員のルウ・ブランデル先生が昨日受験した魔法鑑定士の何とS級に特別合格致しました。なお理事長によると商業ギルドのギルドマスター含めた試験官11人の全員一致の判断で特例中の特例だそうです。おめでとうございます、ルウ先生」
ケルトゥリの発表と同時にその事実を知っているフラン以外には職員全員に驚きの表情が浮かび、大きな拍手が鳴り響く。
「皆さんもご存知でしょうが、この魔法鑑定士S級の国家資格はこのヴァレンタイン王国でも数名しか所持しておりません。それほど貴重な資格なのです」
ルウの資格の事を聞いた職員の反応は様々である。
アドリーヌを始めとして純粋に凄いと感じて拍手をしている者が殆どであったが、中には何か思惑がありそうな表情の者が2人居た。
カサンドラとルネのボワデフル姉妹である。
「ぜひ私達の仲間に入って貰いましょうよ、ルネ」
「ふふふ、当然ね。姉さん……」
双子である彼女達のオッドアイはその会話同様、妖しい光を帯びていたのであった。
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『異世界お宝ブローカー、俺は世界を駆け巡る』
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