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第281話 「驚きの朝」

 ルウ・ブランデル邸、水曜日早朝……


「うううう、いててて……」


 ジェローム・カルパンティエはとても重い頭を押えながら、ベッドの上に起き上がった。

 何故か酷く頭が痛むのだ。


「おお、ここはどこだ?」


 一瞬、自分がどこに居るか分からなくなるジェローム。

 と同時にまたもや鈍痛が彼を襲う。


「おおう……くくく」


 痛む頭を押えながら見渡すとここは騎士隊の宿舎の自室ではなく、どうやらどこかの屋敷らしい。

 自分はベッドに寝ており、部屋には机、クローゼットが置かれているそこそこ広い個室であった。


「ああ、そうか、そうだった……」


 思わず独り言ちるジェローム。

 漸く記憶が甦って来たのである。

 ここは義弟ルウ・ブランデルの屋敷で自分は彼の家族と昨夜夕食を摂ってそのまま泊ったという事を。


 それにしても……こんなに飲んだのは生まれて初めてだ、ははは。


 今の自分の恰好は見覚えのない寝巻きを着た姿だ。

 多分、ルウの寝巻きに違いない。

 ジェロームは頭痛に耐えながら、起き出してクローゼットを開けると自分が着ていた服があった。

 皺を伸ばされ、ブラシをかけられたしっかりと手入れをされた状態で仕舞われている。

 それを見て嬉しくなったジェロームは今の時間が気になった。

 窓から差し込む朝日はまだそんなに高い所からではない。


 ええと今は何時だ?


 机上に置かれていた魔道時計を見ると針は午前5時を指している。 


 そうか……いつもの習慣通りなのだな。


 ジェロームは休暇でもいつものように起きた自分に対して苦笑した。

 

 ジェロームの所属する王都騎士隊の朝は早い。

 午前5時起床、5時30分食事というスケジュールで始まり、各隊員が様々な任務に着く為に各所に向うのだ。


 このまま、また寝るのもちょっとな。

 もう起きて、軽く汗でもかき残っている酒を抜くか……その後に部屋の風呂を借りよう。


 ジェロームは自分の服に着替えると部屋のドアを開ける。

 上り下り両方の階段が見えるので、どうやらここは屋敷の2階か3階のようだ。


「お早うございます!」


 凜と響き渡る女性の声。


「お、おおお、痛たたたた!」


 ジェロームは思わず頭を押えた。

 彼女の声が頭の中をかき回すように苦痛を与えたからである。


「これは……失礼致しました。どうやら二日酔いでございますね」


 今度は一転してゆっくりとした静かな声で話し掛ける女性。

 ジェロームが見ると美しいプラチナシルバーの髪を持つ小柄な少女が柔和な笑みを浮かべながらジェロームを見詰めていた。


「おお、確か……」


 ジェロームは彼女が誰だか思い出した。

 確かルウの妻で名は……


「はい。ルウの妻、モーラルでございます。起床されたご様子ですのでここでお待ちしておりました。もし宜しければ解毒デトックスの魔法をお掛けいたしますが……いかがでしょう?」


 え、俺が起きたのが分かった?

 それに解毒の魔法?


 ?マークを浮かべてきょとんとするジェロームだがモーラルは構わず魔力を高め、魔法を発動する。


「では失礼します、解毒デトックス!」


 モーラルの両手に淡い光が満ち、その光が放たれてジェロームを包み込んだ。

 その瞬間心地良い感覚がジェロームを包み込み、彼を苦しめていた二日酔い特有の頭痛と倦怠感が一掃されたのである。


「お、おおお! 頭が軽い! 身体が楽になった!」


 思わず叫ぶジェロームを見てにっこりと笑うモーラル。


「それはようございました。当家の使用人はもう起きて朝の準備をしております。お泊りになった部屋にはお風呂もありますし、大広間で食事も出来ます。勿論未だお休みになって頂いても構いません。いかがいたしましょう?」


「それはありがたいが……この屋敷の主人は? ルウはどうしている? さすがに未だ寝ているだろうな?」


 昨夜の記憶がはっきりと甦って来たジェローム。

 誤解が解け嬉しくなった自分はルウに散々エールを勧めたのだ。

 確か、あの気のいい弟は自分の勧めたエールを拒まず全て飲み干してくれた。

 今から思い起こせば自分が飲んだ倍以上、少なくとも大マグカップ20杯相当は飲ませた筈だったからだ。


「悪い事をした、彼に飲ませ過ぎてしまったな」


 しかしモーラルの返事は意外なものであった。


「いいえ、問題はございません。それに旦那様は既に起きられ、いつものように中庭で朝の鍛錬をされております。ジゼル姉も一緒ですね」


 はあ?

 あ、朝の鍛錬?


 ジェロームは思わず目を丸くして驚きの余り口を開けてしまう。

 あんなにエールを飲んだのに平気で早朝から身体を鍛えるというのだろうか。

 余りにも規格外な弟の行動である。


「モ、モーラル殿、俺を中庭に連れて行ってくれないか? ルウに昨夜の礼を言いたい」


 ジェロームはそんなルウの様子が見たくなり、自分を歓待してくれた礼も言いたくなったのであろう。

 頭を下げてモーラルに案内を頼んだのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸中庭、午前5時30分……


「たっ! とうっ!」


 鋭い気合と共にジゼルの拳が鋭く突き出され、同時に蹴りが相手を襲う。

 その技のキレや速度スピードは最早、常人のものではない。

 はっきり言って達人の腕前である。

 しかし相手をしているルウはそれ以上の動きで難無くその拳をいなし、蹴りも腕で弾く。


「どうしたっ! 未だ甘いぞ!」


「はいっ!」


 ルウの叱咤激励に応えるようにジゼルは更に鋭い攻撃を繰り出して行った。

 その様子をモーラルに案内されたジェロームは中庭の片隅で呆然と見詰めている。


 何なんだ!?

 これは一体何なんだ!?


 今、目の前で繰り広げられている光景に対して彼は現実のものとは思えない感覚に囚われていた。

 ジェロームの所属する王都騎士隊も剣や槍だけではなく、当然体術の鍛錬も行っている。

 相当にハードで技術も高いものだ。

 しかし!


 あんな訓練など、これ・・に比べれば子供のお遊びだ。

 ルウ……よく分かったよ。

 この桁外れの強さであれば、あの従士達がお前に従っているのも当然だな……


「はぁ……」


 ジェロームは底知れないルウの実力に触れ、驚きと感嘆の溜息を吐いたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


新連載始めました。

こちらもご一読の上、お引き立て宜しくお願いします。


『異世界お宝ブローカー、俺は世界を駆け巡る』


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