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第280話 「和解と決意」

 フランを始めとした妻達、そして使用人の2人も加えてルウの家族全員からその狭量さを責められたジェローム。

 全員で血相を変えてルウを弁護する剣幕を見てさすがに小賢しい魔法など介在していないと悟ったのであろう。

 己の間違いに気付いてからは、すっかり意気消沈してしまったのである。


 更に止めを刺されたのがルウの取得している魔法鑑定士のS級資格だ。

 これはヴァレンタイン王国広しといえども数人しか所持していない。

 超一流の魔法鑑定士として王家どころか他国に行っても巨額の給金で召抱えられる程、貴重な資格なのである。

 これでルウの生活力や将来性も抜群という事が判明したと言えるだろう。

 こうなればジェロームにこれ以上ルウを否定する理由は無かった。


「分かった……俺が間違っていたよ。ジゼル、お前が幸せなら兄として俺にはもう何も言う事は無い。素晴らしい家族に恵まれて本当に良かったな」


 しみじみ語るジェローム、

 そんな彼にジゼルが待ったをかける。


「兄上、何を言っている! 私の家族だという事は同時に兄上の家族でもあるのだぞ。旦那様は貴方の弟となるのだ。他人事のように言うな!」


 ジゼルに厳しく叱責されたジェロームは辛そうに笑う。

 散々酷く罵倒したルウが果たしてこんな自分を許してくれるかどうか。


 俺が無実なのにもし同じ事を言われたのであれば相手を絶対に許さないだろう……


 ジェロームが自問自答すると答えは直ぐ出てしまう。

 それだけの事を彼は言ってしまったのだ。


「兄上……ここは素直に謝らないと……」


 ジゼルがジェロームに対して行動を起すように促す。

 さすがの彼もここで自分が何をすべきか充分過ぎる程分かっていたのである。


「ルウ……いや、ルウ殿……この度は申しわ……」


「ジェロームさん、いや兄上、ちょっと待った」


 ルウはジェロームが頭を下げようとしたのを急いで押し止めた。

 ジェロームを兄と呼び、謝罪するのを止める言葉を聞いたフランがにこりと笑い、ジゼルはほうっと安心したように息を吐いた。

 他の妻達も場の雰囲気を察したのであろう、皆が笑顔になっている。


「兄上、俺はいくら罵倒されても構わないさ。妹を心配する貴方の気持ちも良く分かるから……」


 ルウの表情はいつもと変わらない。

 ジェロームを見ながら穏やかに微笑んでいるのである。

 思わずジェロームはルウに聞いてしまう。


「お、俺を許してくれるのか?」


「ははっ、俺を弟と思って頂けるのであれば単なる兄弟喧嘩だろう? 兄上」


「ははは、こんな俺を兄と呼んでくれるのか?」


「不出来な弟だが……宜しくな、兄上」


「ははは、ははははは!」


 ジェロームは笑っていた。

 良く見れば思い切り泣き笑いしている。

 そんな兄を見て思わずジゼルの目にも涙が浮かんでいたのであった。


 ぐうううう!


 その時、誰かのお腹が鳴る。

 皆がその者に注目した。

 お腹が鳴ったのはアリスである。


ご主人様マスター~! アリス、一生懸命喋ったらお腹空いちゃいました、夕食にしませんかぁ?」


 てへっと無邪気に笑うアリスに釣られて皆も笑う。

 こうしてルウに対するジェロームの誤解は解け、改めてルウの家族に『妹思いの愚直な兄』が加わったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸大浴場、火曜日午後6時……


「おお、背中を流して貰うなど……悪いな」


「ははっ、何を言っている。兄上らしくないぞ、遠慮しないでくれ」


 今、ルウとジェロームは2人で大浴場に居た。

 明日が休暇と聞いたルウ達が彼を引き止めたのだ。

 結局ジェロームはルウの屋敷に泊る事になったのである。


 ジェロームの背中を流した後、ルウは離れて自分の身体を洗う。

 その間、ジェロームも自分の身体を洗うと気持ち良さそうに湯船に身体を沈めたのである。

 暫くしてルウが少し離れた所に身体を沈めるとジェロームはそれを見て嬉しそうに笑う。


「この風呂は……最高だな。騎士隊の宿舎も個室で備え付けの風呂はあるが、このように広々とした風呂は無いからな」


 疲れが吹っ飛ぶなと言いつつ、手足を思い切り伸ばすジェローム。


「ルウ、お前が羨ましいよ。残念ながら俺はお前のように女に好かれないのだ」


 しみじみと言うジェロームに対してルウは苦笑した。


「ははっ、兄上。嫌味かもしれないが、俺も女に対し好かれようとして媚びている訳ではない。ただ、必ず自分と対等の相手として話すし、弱ったり困っている時は労わり、助けてやりたいと思っている……ただ、それだけさ」


「ははは、お前のその自然体な所が女に好かれる理由かもな。だが俺は違う……公爵家の長男として生まれた俺は相手の家柄、貴族の妻として求められる立ち居振る舞い、男をしっかりと立てる穏やかな人柄、そして美しく健康で跡継ぎをしっかり生んでくれそうな事……自分が求めている完璧な女じゃないといけない……でないと父や母も許してくれない、そう考えているんだ」


 それを聞いてもルウはあえて否定しない。

 このような事は自分には自分、他の人間にはそれぞれの事情があると理解していたからである。


「兄上、人間にはそれぞれ止むに止まれぬ事情がある。だから俺は相談されない限り、余計な事は言わない。ただ余り自分を追い込まない方が良い」


「自分を追い込まない方が良い……か……成る程な」


 ジェロームは苦笑する。

 しかし女性に関しては余程切実らしい。


「ではルウ、お前が俺に助言するとしたらどのように言ってくれるのだ?」


「ははっ、あえて言うならば、兄上はもっとたくさんの女性と話して生身の女性を知ると良い。悪いが兄上の考えている理想の女性は単なる幻想の産物だ。兄上が生身の女性を理解する事が出来れば、相手も貴方の事をきっと分ってくれる筈だ」


 ルウの言葉を黙ってじっと聞いていたジェロームはまた湯船の中で手足を伸ばすと納得したように頷く。


「成る程な……ようするに俺は頭でっかちな子供なんだな。……今日の事で良く分かったよ。ははは、逆に子供だ、子供だと思っていたあのジゼルが夫であるお前の事をしっかりと理解して自分の言葉で俺に伝えていた。今のお前の言葉が身にみるよ」


 ジェロームはそう言うと恥ずかしそうに頭を掻いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こうやって黙祷すれば……良いのだな」


 今夜は夕食の席にジェロームが加わっている。

 彼は普段、慣れないルウ家名物である食事前の黙祷を行っていた。

 それが終わるといよいよ乾杯となる。


 今日の流れからして乾杯の音頭はジゼルが取る事になった。


「ははは、兄上の誤解が解けて晴れて私は家族全員から結婚を祝福して貰える事になった。これも旦那様を始めとして家族皆の助けがあっての事だ。とても感謝している。ありがとう、では乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 陶器製のマグカップが軽くぶつかり合う乾いた音があちこちで鳴り響く。


「よかったな、ジゼル」


 ルウが言葉を掛けるとジゼルは心の底から嬉しそうに頷いた。

 そこにフランとナディアもマグを持ち、近寄って来る。


「ジゼル、おめでとう!」


「よかったな、ボクも嬉しいよ。あの人、融通が利かない所があるけど本当は良い人なんだもの」


「あ、ありがとう! 私はこれからも家族皆の為に頑張るぞ!」


 マグカップを持つ手を握り締め、祝福に応えようとするジゼル。


 片や……ここにも誓いを立てる者が居た。


「さあ、飲んで飲んで、ジェロームお兄様!」


「遠慮しちゃいけませんわ、ジェローム様」


 オレリーとジョゼフィーヌに勧められ、しこたまエールを飲まされたジェローム。

 彼の顔は大量のエールのせいで既に真っ赤となっていたが、実に楽しそうに酒を飲んでいた。


 ううう、凄く楽しい……そしてルウが羨ましい……

 俺もこんな生活をしてみたい!

 ようし、俺も可愛い彼女を作って結婚するぞ!


 内容は全く違うが、やはり兄妹。

 ジゼルとジェロームの2人は固い決意を胸にしていたのである。


 そんな2人を優しく見守るかのように月が優しく屋敷を照らしていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


新連載始めました。

こちらもご一読の上、お引き立て宜しくお願いします。


『異世界お宝ブローカー、俺は世界を駆け巡る』


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