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第275話 「合格基準」

 ルウは改めてテーブルに置かれた2つの柘榴石ガーネットをじっと見詰めた。

 放たれた魔力波で2つの紅い宝石は淡く光っている。 


「まずは向って右側に置かれた物から……こちらの柘榴石ガーネットはヴァレンタイン産のものだ。先程伝えた効能効果のうち、僅かだが疾病を撥ね退ける効果を強化する付呪エンチャントがなされている」


 付呪エンチャントされた宝石だと言うルウの言葉に対してクラウスの表情に驚きの色が浮かぶ。

 そんなクラウスを見ながらルウは話を続けた。


「銀製の指輪か、ペンダントにすれば尚更効果が増すだろう。価値はこの大きさだと宝石自体で金貨1枚。しかし付呪エンチャントの分を加味すればプラス金貨20枚、都合金貨21枚の価値だな」


「む、むうう!」


 産地と価値のみならず、適切な製品化への助言。

 更には宝石に付呪エンチャントされた内容とその価値まで言い切ったルウ。

 それに対してクラウスは完全に言葉に詰まってしまう。


 ルウは軽く息を吐くと向って左側の宝石を見詰めて一気に言い放つ。


「次は向って左側に置かれた物だ……こちらの柘榴石ガーネットはロドニア産のものだ。先程伝えた効能効果のうち、人の不安を打ち消して落ち着かせ、逆境に耐え抜く強靭な精神になる効果が強い力で付呪エンチャントされている」


 ルウはそう言うと少し考え込んだが僅かに頷いた。


「こちらとの組み合わせは銀製でも悪くはないが……出来れば最も魔力を伝導するミスリル製の指輪か、ペンダントにすれば尚更効果が増すだろう。価値はこの大きさだと宝石自体で金貨1枚と言いたいが……残念ながら僅かな傷が数箇所にあるので、銀貨3枚といった所だ。しかし付呪エンチャントが強力な分を加味すればプラス金貨100枚、都合金貨100枚と銀貨3枚の価値だ」


「…………」


 ルウの説明を聞いてクラウスは腕組みをして完全に沈黙する。


「ははっ、どうかな。こんな鑑定で?」


「ぐうう……お前、何故そこまで完璧に言い当てられる! こ、このB級の合格ラインは宝石自体の基本的な効能効果と大まかな価値だけ言えば良いのだぞ! それを……付呪エンチャントされた物とまで見抜き、その内容まで……間違い無い、お前はA級、いやS級の魔法鑑定士じゃろう!」


 目を吊り上げたクラウスに断言されたルウは人懐こい笑顔を見せながら首を横に振った。


「ははっ、買い被って貰って光栄だが、俺はC級さえ持っていない受験生だ。という事はB級は合格で良いのかな?」


 ルウの言葉がとぼけた印象を与えたのであろう。

 クラウスは益々怒り狂う。


「う、嘘をつけ! お前のその能力、そんな訳である筈がない。それに合否の判定は儂1人で決める物ではない、最後はギルドマスターの判断によるものだ」


「じゃあ、試験はとりあえず終わりで俺は失礼して控え室に戻れば良いのかな?」


 立ち上がろうとするルウを見たクラウスが慌てて止めようとする。


「ま、待て! 待つのじゃ!」


「そうですよ、待って下さい」


 クラウスの制止に合わせる様に涼やかな声が部屋に響き、隣の席に居た豊かな栗色の髪を持つ長身の女性がルウに近付いて来た。

 年齢は30歳を少し越えたくらいであろうか。

 鼻筋の通った整った顔立ちは美しく、深い鳶色の瞳は見る者に理性を感じさせ、いかにも仕事が出来る切れ者の女性といった雰囲気だ。


「私達はギルドマスターから命じられて貴方の試験を受け持つよう言われた者です。私は、ソフィ・ブイクス。この商業ギルドのサブマスターです」


 ソフィの言葉を受けてクラウスも自分の名と身分を明かす。


「うぬぬ、儂はさっきも言ったがクラウス。クラウス・シュマンじゃ。ソフィと同様にこのギルドのサブマスターじゃよ」


 その場に居た他の試験官達もルウ達のやりとりをじっと見詰めている。


「うふふ、この場に居る10人の試験官達はずっと貴方の実地試験を見ていたわ。あれだけの鑑定をしたのですから筆記は特別に免除という事で文句無く一気にA級の魔法鑑定士合格よ。おめでとう!」


 ソフィの言葉を聞いた他の8人も一斉に拍手する。

 ただ1人クラウスが拍手をしない。

 腕組みをしたたま、ルウを睨んでいるのだ。


「あれ、クラウスさん。どうしたの? 直接試験をした貴方が彼を認めてあげないのですか?」


 ソフィが訝しげに聞くがクラウスは不機嫌そうな表情を浮かべて手を横に振った。


「いいや、こやつはA級の魔法鑑定士などでは決してない」


「ええっ、未だ反対なのですか?」


「……A級でなどあるものか、こやつは文句無く儂達などより遥かに凄いS級の実力の持ち主だからよ」


 クラウスがルウをS級の魔法鑑定士だと太鼓判を押した瞬間、ソフィはにっこりと笑い、大きな拍手をする。

 2人の会話を聞いていた他の試験官達も文句無く賛成し、一層強い拍手をしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 10分後――商業ギルド内を歩く3人。


 ルウとソフィ、そしてクラウスである。

 あれから2人に連れられてルウはこの商業ギルドのギルドマスター室に向っているのだ。

 ソフィは笑顔、対するクラウスは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 その真ん中のルウは相変わらずいつものように穏やかな表情だ。


「最初にマスターから話を聞いた時はああ、訳ありだなと思いましたけど……別の意味で訳ありだったのですね」


 ふふふと含み笑いをするソフィは納得したという雰囲気である。


「そうじゃよ。ギルドマスターからはちょっと変わった受験生だけどよろしくなどと軽く言われたが、とんでもない。刺激が強過ぎて老人の心臓には負担がかかるわ」


 その上と、クラウスは忌々しげに吐き捨てる。


「聞けばこやつの専門は魔法攻撃術と上級召喚術だと!? はっ、笑ってしまうわ」


 クラウスの言葉を聞いたソフィは面白そうにクラウスに問う。


「うふふ、彼の才能が羨ましいのですか?」


「とんでもない! そこまでの才があれば国が……すなわち王家が黙っておらん。そうなったら雁字搦めで国の為に働かなきゃならん。儂はそんなの、真っ平御免じゃよ」


 そう言うと初めて笑顔を見せ、お前は大変じゃなと軽くルウの肩を叩いたのである。


「でも彼の事は一切厳秘というお達しがマスターから来ていますからね。私達も先程の試験官達も口外は絶対に許されませんよ」


 ソフィがクラウスに釘を刺す。

 これはルウを安心させる意味合いもあるのだろう。


「分かっておるわい。ルウよ、お前みたいな奴に怨まれたくないものじゃて。それにしても先程のように老人を苛めてくれるなよ」


 クラウスは試験の時に驚かされた時の事を言っているのであろう。

 ルウの顔を見て苦笑いをしたのである。


「ははっ。クラウスさん、頼みますよ」


 ルウがクラウスから差し出された手をがっちりと握った時である。

 3人は丁度、ギルドマスター室の前に着いたのである。

 早速、ソフィがドアを軽くノックした。

 先に使いが行き、ルウ達が部屋を訪れる事は既に報されている。


「お入りなさい」


 落ち着いた女性の声がしてソフィはギルドマスター室のドアを開けたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


新連載始めました。

こちらもご一読の上、お引き立て宜しくお願いします。


『異世界お宝ブローカー、俺は世界を駆け巡る』


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