第274話 「試験開始」
やがて時間が来て試験監督官とその補助をするスタッフ数名が試験会場に入って来る。
試験監督官は財務省の事務方が務め、スタッフはこの商業ギルドの魔法鑑定士だ。
試験は筆記と実地の2種類……
何せ受験者が多い為に試験に決められた時間はあるものの筆記試験が早く終われば実地試験を直ぐに受ける事が出来るのだ。
今回まずルウが受けるのはB級の資格であり、彼の実力があればほぼ合格出来る内容だ。
ちなみに通常は皆B級の資格を取るのに四苦八苦する。
この試験のスタッフを務める魔法鑑定士達の資格も大半がB級だ。
C級の資格ならば曖昧で大まかな商品の判定くらしか鑑定出来なくても取得可能な資格であり、反面資格を持っている者が多数居る為に就職には殆ど役立たない。
今、会場に居る受験者もルウのように無資格な者は殆ど居らず大体がC級保持者である。
監督官の指示でスタッフが答案用紙を配布して行く。
その中にアドリーヌの友人であるネリー・バルニエが混ざっていた。
あの食事会の日にルウから魔法鑑定士の試験について熱心に聞かれたネリーは近いうちにルウが受験すると睨み、ここ最近はずっとスタッフに志願していたのである。
あ、居た!
やっとビンゴ!
黒髪であるルウはこのような集団の中では良く目立つ。
ネリーは配布の担当をルウが居る区画でやる事をいち早く宣言すると直ぐに配布を始めたのであった。
会場では何か特別な用が無い限り、筆記試験開始後の受験生の私語は固く禁じられている。
またトイレに行く事も答案提出までは禁止という厳しさだ。
それは受験生同士のみならずスタッフも同様だ。
私語は筆記に関してはカンニング等不正行為の可能性もあるからだ。
会話だけではなく、監督官やスタッフとあまり視線を交わす事さえも好ましくないという。
その辺はネリーも理解していてルウに試験用紙を配布する際もあからさまに笑いかけたりはしなかった。
ただでさえスタッフの中ではネリーの可愛らしさ、美しさは際立っていたのだから。
しかしルウも直ぐにネリーには気付いたようで視線を一瞬合わせると僅かに口角を上げて笑顔を見せたのである。
あ、覚えてくれていた。
彼の表情を逃さないように気をつけていたネリーにはその変化が直ぐに分かった。
ルウのこの対応は規則内での精一杯のものであり、それだけでネリーは満足してしまったのである。
試験終了後に彼とゆっくり話そう
ネリーはそう心に固く決めていたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時間が来て魔法鑑定士B級の試験が開始される。
試験時間はきっちり60分。
50問からなる3択の問題をきっちり解いて9割以上の正解率が求められるのだ。
但し筆記試験の内容は事前に見た参考書の内容をある程度把握していれば容易に分かる難易度の低い物である。
その分重きを置いている実地試験の難易度が高いのは言うまでも無い。
ルウは答案用紙が配られてから10分程度で解答を書き上げると手を挙げた。
筆記試験が終わったとスタッフに報せる為である。
やって来たのはネリーであった。
伏せられた答案用紙を指し示すと彼女は答案を受け取りほうと息を吐く。
そして身振りで退出を促したのである。
周りの受験生達はルウの解答の早さに対してさすがに驚いていた。
例年ではいくら早い解答をして途中退席する受験生が居ても解答まで精々30分はかかるからである
ルウがネリーに案内されて次に向ったのが実地試験の受験会場である商業ギルドの会議室である。
当然、会議室に行く間も2人は私語を交わさない。
試験が終了するまではそのような事も徹底されていたのである。
2人が暫し歩くと廊下に待機用の椅子が置かれた会議室の前に着いた。
ここで外に待機した職員から整理券を受け取り、番号順に実地試験を受けるのだ。
ネリーはその待機していた若い女性の職員に短く言葉を発する。
ルウの名と筆記試験が終わった旨であろう。
女性職員は頷くとルウを会議室の中に案内したのである。
女性職員に導かれて入った会議室の中は複数の受験生が同時進行で実地試験を受けられるように10程の机が置かれ試験官が待機していた。
その中で1番手前の机にルウを案内すると女性職員は一礼をして会議室の外に去って行った。
ルウが受ける席の試験官は気難しそうな老齢の男である。
彼はぶっきらぼうにルウに問い掛けた。
「……筆記試験がやけに早いな。ふん、まあ良いわい。儂は試験官のクラウス、お前の氏名と職業があるのなら言え」
そんなクラウスの態度にもルウはいつも通り穏やかな表情を浮かべている。
一礼をしたルウは氏名を名乗り、職業を伝えた。
「ルウ・ブランデル……職業は魔法女子学園の教師だ」
「むう! 試験官には敬語くらい使え! 減点10!」
眉を顰めるクラウスにもルウは動じない。
「座っていいですか? クラウスさん」
「何じゃい! 敬語をちゃんと使えるではないか? 意図的な物を感じるな、減点更に10!」
ぶつぶつ言いながらクラウスが出して来たのが2つの宝石であった。
宝石は両方とも小さな柘榴石である。
「ルウとやら、この宝石の持つ効能、効果を説明し、そして2つの価値を鑑定してみせろ」
「ははっ、宝石は両方とも柘榴石だ。ガーネットは1月の誕生石で権力、勝利の保証、上品、貞潔、友愛などを宝石言葉として表す石だ。効果、効能は心臓を強くし、生半可な疾病を寄せつけず、逆境に耐え抜く強靭な精神も培うといわれている」
ルウの言葉を聞いたクラウスはにやりと笑う。
「はっ、さすが教師だけあって教科書通りの模範解答じゃわい。さて、では価値はどうだ?」
クラウスが意地悪く返すのに対してルウは目を閉じ、深呼吸すると魔力を軽く高めた。
これから鑑定魔法を発動する為である。
「叡智を司る御使いよ! 知らしめよ、我に真理を! もたらせよ、我が手に栄光を! ビナー・エメト・ヨド・ホド・ラージエール!」
ルウの全身を一瞬眩い光が纏い、宝石は勿論、その机ごとクラウスを包み込んだ。
「う、うわぁ! 何をする!? この小僧が!」
「ははっ、鑑定魔法ですが、何か?」
しれっと答えるルウにクラウスは怒鳴り返す。
「ううう、嘘をつけ! 魔法式は全く同じでもこのような派手な鑑定魔法は見た事が無いわぁ!」
「ははっ、仕方が無い。俺はいつもそうですから……それより宝石の価値について答えて良いですか?」
穏やかに答えるルウに毒気を抜かれたのかクラウスは大きく息を吐くと僅かに頷いた。
「では説明します、この宝石は……」
ルウが改めて説明する為に口を開く。
そんな2人を遠くから見詰める視線がある事にルウは気付いていたのであった。
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