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第273話 「受験志願」

 魔法女子学園理事長室、火曜日午後12時……


「じゃあお母様。宜しくお願いします」


 フランがアデライドに対して頭を下げるとにこりと笑った。


「ふふふ、任せて。ルウを商業ギルドにアテンドして魔法鑑定士の試験を受けさせれば良いのでしょう?」


「その通りです、お母様。午後は1時と3時の都合2回行われますので間に合うように行って下さいね」


 今日のルウは午後の授業を入れないで国家資格である魔法鑑定士の試験を受けに行く事になっていた。

 魔法女子学園の専門科目魔道具研究の授業の際に資格を所持していた方が良いと周囲に勧められたせいであるのと先日、同僚教師アドリーヌ・コレットの友人であるネリー・バレニエに話を聞いた事も後押しとなって試験を受ける事を決めたのである。


 平日受け持ちの授業をやりくりして試験を受けたいとルウが申し入れるとアデライドは快諾した。

 便宜上、資格があった方が魔法女子学園にとってはずっと良いと考えたからだ。

 ここでアデライドは意外な提案をした。

 ルウが試験を受ける際に自分が同行したいと手を挙げたのだ。


「お母様……業務がお忙しいのではないのですか?」


「ふふふ、このような話であれば別よ。妻である貴女と違って私はルウの魔法を殆ど見ていないのよ。鑑定魔法くらい良いでしょう?」


 このように言われるとフランも返す言葉が無い。

 逆にルウからは何か話があるという。


「話って?」


 思わず聞くアデライド。


「ジョルジュの事です。彼が目指しているのも実は魔法鑑定士なのです。俺が見る限りでは間違いなく才能がありますから」


「ええっ、本当!?」


 アデライドは息子のジョルジュが1人前の魔法使いを目指して努力している事は本人から聞かされていたが何を勉強しているかは教えて貰っていなかった。

 最近はルウが忙しくなったのと、自ら訓練のコツや方法を覚えたのか教授を受ける頻度は少なくなったのだが、相変わらずルウの義弟にあたるこの少年は頑張っていたのである。


「でも魔法鑑定士なら私だってA級の資格を持っているし、私に頼めば良かったのに……」


 実の息子が自分に殆ど相談しなかったのがアデライドには少し不満のようだ。

 笑顔のフランがそのような母を諭す。


「ジョルジュは自分を見出してくれた旦那様の顔を立てたかったのとお母様を驚かせたかったのですよ。義理堅いし良い所があるじゃないですか?」


 最近は弟の事を見直して冷静に見ているフランにそう言われるとアデライドもやっと納得したようだ。


「そうよね……あの子も私から離れて一歩一歩大人への階段を登っているのね。ちょっと寂しいけど……仕方が無いか」


 そう呟くアデライドの横顔は本人が言う通り少し寂しげに見えたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドゥメール家専用馬車車中、午後12時20分…


 ルウとアデライドは魔法女子学園を後にして商業ギルドへ向う馬車にゆられている。

 馬車に乗り込むとアデライドはやはり息子の事が気になるらしくルウに根掘り葉掘り聞いて来たのだ。


「ありがたいわね……実戦をこなすと言う意味でキングスレー商会が協力してくれているんだ」


「ええ、最初に俺と買い物に行った時にお願いして簡単な商品の鑑定をやらせて貰ったのですが、それ以降はジョルジュが自ら頼み込んで、最低でも毎週1日数時間は実地訓練をやらせて貰っているらしいですよ」


「そうだったの……どうりで最近は家に来ない筈よね……でもそこまであの子が熱心に……嬉しい……」


 鑑定魔法を修める為にキングスレー商会での実地訓練と、ルウに教授を受けるのに時間が割かれると週末の殆どの時間はそれらに取られてしまい、実家の母アデライドの元には余り顔を出さなくなっていたらしい。

 更にもうひとつ理由がある事はルウは知っていたがアデライドには黙っていた。


 それはジョルジュに『彼女』が出来たらしいという事だ。

 具体的な相手の名前を本人が言わないのでルウもそれ以上は突っ込まないが、その人の為にも頑張るというのがジョルジュの口癖にもなっており、ルウも頑張れとエールを送っていたのである。


「じゃあ、御礼という事でマルコからまたいろいろ買ってあげないとね」


 アデライドの呟きにルウは考え事から引き戻された。

 ルウは軽く頷くとアデライドに向って穏やかに微笑んだのである。


 10分後――馬車は商業ギルドの前に横付けされた。

 御者が先に降りてさっとドアを開けるとまずアデライドが、そしてルウが降り立ったのである。


「そうね……ここの用事が済むのが午後5時くらいだから、また迎えに来てくれるかしら?」


「かしこまりました、奥様」


 長年勤めている実直そうな老人の御者に命じたアデライドはルウを促すと早速商業ギルドの中に入って行った。

 ルウは初めて見る商業ギルドが珍しいらしくあちこちを見回している。


 ヴァレンタイン王国の商業ギルドは地球の中世西洋社会にあったギルドと性格は近いがもっと大規模である。

 商人組合といって良いこの団体はこの王都の表通りで商売を始めようとする者は必ず届けをしなければならない監督・管理をする組織でもあった。

  逆にいうと裏通りやスラムなどで店を構えたりしている者は無届業者で非合法な存在として市民からは認知されていたのである。

 ただ地球のギルドと決定的に違うのは直接政治への参加をしない点である。

 この王都の運営に不満があるからといって政策を打ち出したりはしないのだ。


 そうは言ってもギルド長はこの王都で大きな権限を持たされており、この巨大な街の商業のほぼ全てを取り仕切っていた。


 ギルドの中はいくつかのエリアに分かれている。

 新規の開店と廃業の届けが最も多いので場所も人も割かれていた。

 また業種や区画ごとに大小の組合があるので、新規開店をする者はそちらとの折り合いをつけるように厳しく指導されるのだ。

 または税金支払いの指導も徹底している。

 王家にとっても貴重な収入源を確保してくれるこの組織には宰相フィリップも蔑ろにはしておけず希望がある場合には接見も許可しているのだ。


 ギルドの運営では今あげた以外に大事な業務が2つほどある。

 2つとも冒険者ギルドと密に連携して行っているものだ。

 両ギルドにとってはとても大事な人材である、価値を見極める魔法鑑定士の管理、育成がひとつ。

 もうひとつはそのようにして鑑定された持主不在の商品や現在の持ち主が売却して利益を出す為のオークション運営なのだ。

 依頼料の約5%~10%を手数料として回収する事で莫大な利益を得ている冒険者ギルドと違って、組合員から会費を取らない商業ギルドにとってはこのオークションから出る利益がギルド運営の為の唯一の資金源だからである。


「ここよ!」


 アデライドに案内されて着いた先は魔法鑑定士の受験会場だ。

 普段はオークション会場に使用されている魔法女子学園の教室の3倍程ある広々とした部屋では机がたくさん並んでいた。

 先に席に着いた受験者達が熱心に参考書を読み込んでいる。

 午後1時の試験はB級の試験だ。

 アデライドが掛け合ってルウはC級の試験を免除して貰ったのだ。


「じゃあ、頑張ってね。私はギルド長室に居るから」


 どうやらアデライドと商業ギルドの長は旧知の仲らしかった。


 アデライドが手を振りながら行ってしまうとルウは空いた席に座って試験時間が来るまでじっくりと待つのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


新連載始めました。

こちらもご一読の上、お引き立て宜しくお願いします。


『異世界お宝ブローカー、俺は世界を駆け巡る』


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