第272話 「副担当希望」
魔法女子学園4階会議室、月曜日午前8時……
「では職員会議を始めます。今日の議題は2年生の専門科目選択の件です。現在体験授業を行っていますが、今週から生徒達の授業受講の希望をとり始めます。生徒からの信頼と人気も反映されますから主任担当教師の方もうかうかしていられませんよ」
進行役のケルトゥリがそう言うのには意味があった。
1年生から3年生までのクラスごとを受け持つ担任制と違って専門科目の授業は受講希望を取る選択制である。
2週間余りの体験授業の結果、生徒に受講の申し込みをさせるが人気のある教師と不人気の教師の授業がはっきりと分かれるのだ。
就職や進学と関係のある科目の人気度のせいもあるが、理事長のアデライドとしてはそのような事も教師の人事考課に反映させている。
ケルトゥリは生徒達の受講申し込みの手順を説明して行く。
ルウが聞いていると科目ごとに所定の申し込み用紙に記入させて今週一杯の締め切りで提出させるらしい。
また担当教師の他に副担当が補佐する事も伝えられる。
「2年生の担任の方は生徒達に申し込みの手順をしっかりと説明してください。希望者多数の場合は試験で決定しますので……また専門科目の副担当希望の方は直接担当の先生と相談して下さい。ではこれで終わりますが、何か質問のある方はいらっしゃいますか?」
ケルトゥリは教師達を見回した。
挙手をする者は居ない。
特に質問は無い様だ。
「ではこれで職員会議を終わります」
一同が礼をすると、アドリーヌがルウの元に駆け寄って来た。
ルウは丁度フランと話をしている。
それを見たアドリーヌはルウに話し掛けるのを躊躇した。
ルウがフランと結婚していると聞いて2人が話している中に入るのは何となく憚れるのだ。
しかしアドリーヌに気付いたルウが彼女を呼んだのである。
「お~い、アドリーヌ。金曜日はありがとう、楽しかったよ」
御礼を言われたアドリーヌは漸くルウに話し掛ける事が出来た。
「は、はい! 私も凄く楽しかったです」
そこにフランが悪戯っぽく笑いながらアドリーヌに問う。
「コレット先生、自由お見合い……だったらしいわね?」
「え、あううう……ご、御免なさい。私、全然知らなくて……単なるお食事会としか聞いていなくて……」
うろたえて答えるアドリーヌにフランは手を横に振って今度は優しく笑う。
「良いのよ、別に。そもそもこの国は一夫多妻制を認めているし、ここで誰とは言わないけど彼には私の他にも妻が居ますから。折り合いがつけば彼はまた新しい妻を迎える事もあるでしょうしね」
「あ、新しい妻!? 奥さん?」
真っ赤になって俯くアドリーヌにルウが微笑んだ。
「アドリーヌ、それよりお前、何か俺に相談したい事があるんじゃないのか?」
「は、はい! 実は……あ、あのう……」
言葉に詰まるアドリーヌにフランが助け舟を出した。
「ふふふ、もしかして副担当希望の件かしら?」
フランが言った事が図星だったらしくアドリーヌは真っ赤になったままの頬を両手で押えてしまう。
「私も今、彼に魔法攻撃術の授業で副担当の申し入れをした所よ。もし希望があるのなら早く話した方が良いわよ」
フランの言葉を聞いて愚図愚図していると不味いと感じたのであろう。
ごくりと唾を飲み込んだアドリーヌは更に大きく深呼吸をした。
「ははっ、落ち着いて話してくれればいいさ」
ルウに励まされてアドリーヌは覚悟を決めたようである。
「は、はいっ! 校長の仰る通りです。魔道具研究の授業でぜひ私を副担当にして下さい」
「ははっ、良いよ」
ルウはあっさりとOKするがその返事は緊張しきったアドリーヌの耳に届いていなかった。
「や、やっぱり私じゃあ駄目ですよね……って、良いんですか?」
ルウがにっこり笑っているので途中からOKの返事を貰った事に気付いたアドリーヌは一瞬驚いたように口を押えた。
ルウは改めて承諾の返事を送る。
「ああ、ぜひ頼むよ」
「や、やったぁ!」
嬉しそうに喜ぶアドリーヌをルウもフランも温かく見守っていたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園2年C組教室、月曜日午前9時……
「起立! 礼!」
「「「お早うございます!」」」
学級委員のエステル・ルジュヌの掛け声で生徒達は大きな声で挨拶をする。
「お早うございます、皆さん」「お早う!」
ルウとフランが続けて挨拶をすると生徒達は2人に注目した。
学校のカリキュラムを生徒達も当然知っており、これから専門科目の受講申し込みの説明がある事を知っているからだ。
「皆さんもよく分かっているようね。じゃあ早速説明するわ」
フランが改めて選択科目の意味から始め、科目の種類と就職、進学との兼ね合いも説明する。
そして最後には話したのが申し込み方法と締め切りだ。
説明が終わったのでルウが科目の担当表と申込用紙を配布し始める。
「ざっと説明するとこのような事だけど何か質問がある人は居ますか?」
ここでオレリーが挙手をして質問の許可を求めた。
「フランシスカ先生とルウ先生が組む授業はありますか?」
「ふふふ、未だ決定ではないけれどある……としか言えないわ。基本的には担当教師ありきだから副担当はあえて発表しないのが原則なのよ」
ここからは何人もの生徒が矢継ぎ早に質問を投げ掛ける。
その殆どがルウとフランが担当する科目の件であった。
皆の質問を聞きながら、オレリーはほぼ、どの科目を選択するのか決めている。
そうこうしているうちにあっという間に1時間目の授業が終わった。
ルウとフランが職員室方面に引き上げると、教室に自分を呼ぶ声が響く。
「オレリー、ちょっと!」
見るとジョゼフィーヌが真剣な表情で手招きしてオレリーを呼んでいる。
何か相談があるようだが、オレリーには当然彼女の話は当然予想出来ていた。
「なあに? ジョゼ!」
オレリーはにっこりと笑い、彼女の元に駆け寄ったのであった。
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