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第269話 「救済と復活そして活力」

 ルウは呆然としているネビロスを見据えて言う。


「どうする? お前にまだ手駒はあるだろうが無為な戦いを続けるか?」


 ルウの問いにネビロスは悔しそうに顔を歪める。


「……お前の正体が掴めない。この場は退かせて貰おう、妖精王と共にお前には必ず借りを返す」


 しかしルウはゆっくりと首を横に振った。


「甘いな、俺がお前達を逃がすと思うか? 妖精王とやらも自分の異界という事で油断し過ぎだ」


 ネビロスはルウの言葉に返事をせず、いきなり現れた時と同様に転移の魔法を使い、逃げようとした。

 しかし魔法が発動しない。


「な、何故だ!」


 慌てふためくネビロスにルウは当然とばかりに言い渡す。


「簡単さ。俺はお前達の異界に入る前にお前達の異界の周りを俺が作り出した異界で囲んだ。実は外部と遮断された籠の鳥はお前達の方なのさ……という事で妖精王とやら出て来い。まあその魔力波で正体は分かっているがな……ベリアル」


 ルウが何も無い空間に向って言い放つと王族の身なりをした小柄な男がいきなり空間から現れる。

 身長は約1m程度しかない。

 確かに見た目は妖精王オベロンにしか見えない。

 しかし王であるオベロンにはない卑しさがその目付きから窺えた。

 ルウにあっさりと正体を言い当てられたベリアルはいかにも苦々しげな表情をする。

 そしては気合を発すると本来の姿に戻ったのだ。


 ルシフェルの次に造られたというベリアル。

 彼も元は熾天使と言われるだけあって気品があり、『光に満ちる』『輝かしい』と賞賛された通りとても美しい姿と声を持っていた。

 だが今、ルウの前に現れたベリアルはその美しい顔を歪ませて愛用の火の戦車内で怪訝な表情をするばかりだ。


「貴様は一体何者だ? そのような力があるなら何故世界を統べようとしないのだ?」 


 ベリアルの問いに対してルウは穏やかな表情を見せている。

 そして引導を渡すべく降伏を呼び掛けたのだ。


「さあな。その質問に答える筋合いはあるのかな。それよりお前達はもう逃げられない。大人しく降参しろ」


 だがルウの通告にベリアルは動じる様子が無い。


「ははは、確かに貴様の魔法は強力で異界を破るのは難しい。だが私は真の力とは智略と言った筈だ。この魔法水晶を見ろ!」


 最後は智略!

 それを強調するベリアルの持つ魔法水晶をルウが見ると何と1人の妖精が閉じ込められている。

 水晶を見たルウの表情が一瞬冷たくなった。


「……それが本物の妖精王オベロンか?」


「その通り、お前が異界に出口を設けて私達を解放しないならこの水晶を握り潰す、そうなればいくら不死とはいえ、一旦妖精王は消滅する。そうなれば彼の復活には膨大な時間がかかり、お前は妖精女王ティターニアを始めとして全ての妖精に怨まれるであろう」


 ベリアルは大逆転だとも言うようににやりと笑った。

 美しい顔に似合わない下品な笑顔である。


「成る程……それがお前の『智略』か? それでは単に人質を取るだけの薄汚い智略だな」

 

「何とでも言え。手段など些細な事に過ぎぬからな……さあ、どうするのだ?」


 ルウの挑発にもベリアルは乗らない。

 逆にルウに答えを求めて来る。


「仕方が無いな……しかし、お前は欺瞞に満ちた悪魔だ。どう信じれば良い?」


「ははは、ここはルシフェル様と違うお前の真面目な性格を逆手に取るとしよう」


「そうか、さすがだ。俺の性格をそう使うか?」


 ベリアルは異界の床に水晶をそっと置くと、引き寄せなどの魔法を使わせないようネビロスに見張らせる。

 そして「さあ」とルウに異界の外部への出口を要求したのだ。


 ルウは苦笑して頷くと何事かを呟く。

 言霊を聞いたベリアルの顔に笑みが浮かぶ。

 どうやらルウの作り出した異界の壁に出口が出来て外界に繋がったようだ。


「ふふふ、お前はやはり律儀な奴だ。では失礼させて貰おう、さらばだ!」


そういうとベリアルの姿はかき消すように見えなくなった。


「では儂も失礼させて貰おう。また力比べをするのを楽しみにしておるよ」


 続いてネビロスも消えてしまう。

 しかし彼等も後難を怖れてかルウとの約束を守った。

 その場には妖精王オベロンが封じ込められた魔法水晶が残されたのである。


 ――ルウは水晶を手に取り解放の魔法を発動する。

 すると水晶の牢獄は崩壊し、妖精王オベロンがその場に現れた。


「王よ、ご無事で何よりだ」


 ルウが深く一礼すると、妖精王は慌ててルウの足元に跪いた。

 彼はルウの戦いや悪魔達とのやりとりを一切見ていたらしい。


「何を仰せになる。先程から貴方様の戦い振りを見ていれば貴方が神に選ばれた存在とは一目瞭然……」


 しかしルウは苦笑して首を横に振った。


「いや俺は結局自分が何者かも分からないんだ。所詮はただの人間でアールヴに育てられた魔法使いさ」


「貴方が何者にしろ今回は私どころか妖精の同胞まで救って頂いた。お礼の言い様がない」


「では王よ、ひとつお願いがある。いかがなものだろうか?」


 ルウは戸惑いを見せる妖精王に対して悪戯っぽく笑うと片目を瞑って見せたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その頃……


 泥の池でじっとルウの帰りを待つフラン等妻達……

 なかなか異界から帰還しないルウを心配して彼女達は夫の無事を一心に願っていたのである。

 しかしフラン達にやっと朗報が届いた。

 ずっとルウの事を思っていたフランに対して彼から念話が送られたのである。


『フラン、今終った。安心して待っていてくれ』


 このように簡単な内容ではあったが安堵の余り、フランの目には大粒の涙が浮かんでいた。

 フランの様子を見た妖精グウレイグはつい俯いてしまう。

 妖精の身でありながら、かつて人間を愛した事のある彼女は喪失感が甦って来たらしい。


「モーラル、オレリー……済まなかった。お前達は私の為に命を懸ける覚悟で助けに来てくれたのだな」


「当り前だ、さっきからそう言っている」「気付くのが遅いですよ」


 モーラルから軽くこづかれながらもそれが親愛の情だと知るとグウレイグの顔にも漸く笑顔が戻る。

 やがてルウが泥の池から1人の小柄な男を連れて現れる。

 帰還した場所のせいか2人共全身が酷く汚れていた。

 彼の姿を確認したフラン達から歓声があがる。


 ルウが岸まで戻ると妻達が顔や革鎧が汚れるのにも構わず抱きついた。

 ナディアやジョゼフィーヌはわんわんと泣いている。

 その様子をぼんやりと見ていたグウレイグは肩をぽんと叩かれた。

 彼女の肩を叩いたのは妖精王オベロンである。


「妖精王様!」


「ああ、私が本物・・さ。彼の言う通り私は死霊術など使わないよ」


 やがて妻達との抱擁が一段落つくとルウが笑顔でオベロンとグウレイグの元にやって来た。

 これから最後の仕上げを行うという。


「2人にも協力して欲しいんだ」


 ルウによればこれから『泥の池』に対して魔法を発動するという。

 異界でオベロンには話を通してあるので問題無いが、初めてそれを聞いたグウレイグは戸惑いを隠せない。


「彼の言う通りにしよう」


 しかしオベロンがそっと囁くと漸く頷いたのである。


 ルウはフラン達妻と、ラウラを属性別に分けお互いに手を繋ぐように申し付けた。

 ちなみに水属性はモーラルとオレリー、そしてジゼルがグウレイグと手を繋いだ。

 火の属性はフラン、風属性はナディア、ジョゼフィーヌ、リーリャである。

 土属性はラウラだけなので、魔力のバランスを考えて、ルウが急遽召喚した赤帽子アルフレッドと地の精霊ノーミードがフォローする事となったのだ。

 ちなみに魔力を多く使用するのでバルバトス等悪魔達には魔力提供役を担って貰う事になった。


 発動の準備が整うとルウが飛翔魔法で池の中心に浮かび、傍らに妖精王が控えたのである。

 暫くして魔法発動の合図を念話で送り皆が頷くとルウは息を吸い込んだ。


「我は『高貴なる4界王』の偉大な力を欲する者なり! ――風の王オリエンス、水の王アリトン、火の王パイモン、そして土の王アマイモン。さあ我にこの世の真理を説き、この地の穢れを払い、聖なる水の地としての活力を与えよ!」


 ルウが右手を挙げるとまず膨大な数のゴミが一瞬にして消え失せた。

 そして左手を挙げると今度は悪魔達がルウに向かって魔力を送ったのである。

 ルウの身体は魔力を受けて眩く輝くと彼の口からそれぞれの聖域の王の名が次々と呼ばれて行く。

 朗々とした声が響く中、フラン等妻達は軽いトランス状態に入りつつあった。

 ルウの魔法が段階を踏んで言霊が詠唱される。


救済サルヴェイシェン!」


ルウから妻達へ魔力が流れて彼女達から膨大な魔力波オーラが放出される

『救済』の魔法で池に漂っていた瘴気が一切払われて、池の水や土壌より毒素が除かれたのだ。


復活レザレックシェン!」


 同じく『復活』の魔法では放たれた魔力波により池の水が更に浄化され、綺麗になる。

 また元々今日は好天であり、爽やかな陽の光と涼しげな風も後押しをするかのようだ。

 何とそれにつられたのか新たな草木迄が芽吹き始めたのである。


 そしてとうとうルウが唱えるのは最後の言霊だ。

 傍らの妖精王に効果を増幅して貰う為に彼に向って発動するのである。


活力ヴァイタリティ!」


 ルウから放たれた魔力波は妖精王オベロンの全身をまともに見えないほど眩く輝かせている。

 妖精王は今迄にない魔力の高まりを感じ、両手を思い切り掲げて全ての魔力波を放出した。


 その瞬間辺りは太陽の光に負けないくらいの煌きに包まれたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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