第264話 「全員集合」
ルウ・ブランデル邸大広間、土曜日午後8時……
ルウ達は食事を終えた後、真剣な表情で話し合っていた。
明日の日曜日、ルウが本格的に『泥の池』の浄化に乗り出す事になったのである。
ジゼルには学園に一旦戻ったルウが昼間のうちに事情を伝えていたので話は最初から具体的にどうするかという方法に関して指示がされたのだ。
「今回の目的は2つ。まずオレリーの悪夢の原因を解決する事、具体的には池の浄化だ。ひいてはそれがあの妖精を救う事になる。次に彼女の背後に居る者が誰なのかを突き止め、事情を聞いた上で対処する事」
ルウの宣言にフランは頷き、他の妻達を見回した。
「私達には異存が無いわ。というより戦いに関しては半人前の私達は下手をすれば足手纏い……旦那様の指示通りに動きます。……ジゼル、異存は無いわね?」
「了解だ! また怖ろしい悪魔が出現するかもしれないし、私達が旦那様の迷惑になったら元も子もない」
ジゼルが真面目な顔をして頷く。
フランが複雑な表情をしてルウに尋ねた。
「後はリーリャですが……彼女をどうします?」
「フランはどうだ?」
ルウの問いにフランは迷わず答える。
「私は連れて行くべきだと思います。人は疎外されると魂に傷を負います。彼女はもう貴方の妻であり私達の大事な家族なのですから全員で赴くべきです……もし何かあっても皆で彼女を守ります」
フランの意見を聞いた妻達は概ね彼女に賛成だ。
もし自分が黙って外されたら……そうなった場合、妻達はリーリャの悲しみが良く分かるからである。
「分かった。皆にそう言って貰えて嬉しい。俺は最初から連れて行くつもりだったから」
ルウの言葉を聞いて安心したナディアが手を軽く叩く。
彼女は何か思いついたようだ。
「うふふ、旦那様。ボク良い事考えたよ。こんな時こそ新たに旦那様の弟子になったラウラさんに協力して貰えば宜しいかと」
「ナディア、良い考えが浮かんだようだな? 後でゆっくり聞こう」
「やったぁ! 褒められたよ、旦那様に! ボク嬉しいな」
ルウに褒められてナディアは得意満面な笑みを浮かべている。
「そういう悪知恵は直ぐ思いつく女だからな、お前は」
ナディアの得意そうな様子を見て嫌味を言うジゼル。
そんなジゼルにナディアが負けじと反撃した。
「脳迄、筋肉の君より悪知恵の方が全然ましだよ、ジゼル」
「にゃ、にゃにおう! お前より学園の成績の良い私が何故脳筋なのだ。おかしいだろう?」
ぱんぱんぱん!
フランがいつものように手を叩き、事態を収拾する。
「こらっ! 喧嘩なんかしている暇はないでしょう。早く私達の役目を決めて貰って準備をしないといけません。リーリャに明日の話もしないといけないし」
「わ、分かった。フラン姉、大人しく旦那様の話を聞こう」
「ボ、ボクも早く指示が欲しいな」
フランの一喝に思わず縮み上がった2人。
火蜥蜴を召喚出来るようになってから、フランは一段と凄味が増した。
ジゼルもナディアもそんなフランが本気で怒ると怖いと分かっているのである。
ルウは妻達のそんなやりとりを微笑みながら見守った。
そしてフランに再度説明を促されると明日の妻達の配置と役割について話し始めたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルウ・ブランデル邸正門前、日曜日午前9時……
ロドニア王国王女リーリャ・アレフィエフを乗せた馬車が今、ルウの屋敷の正門前に到着する。
馬車の周りにはロドニア騎士団副騎士団長マリアナ・ドレジェルを含めたロドニアの女性騎士達数人が騎馬により護衛につき、併走していた。
やがて馬車が停まり、ひと足先に降りた御者の手により馬車のドアが開くと、華奢なリーリャの身体が弾けるように地に降り立った。
それを迎えるのはルウとフラン、そして妻達一同である。
昨夜ルウが急遽念話でリーリャに伝えた所、彼女はラウラと共に快諾したので表向き本日は1日中、ルウとフランの屋敷にて補習という形の勉強会になっているのである。
「お早うございます! フランシスカ先生、だん……いいえっ! ルウ先生!」
開口一番、大声で挨拶をしたリーリャは思わずルウを旦那様と呼びそうになり、慌てて訂正する。
「本日は師ラウラと共にお招き頂きありがとうございます! 私は魔法女子学園での勉強の補習、ラウラは魔法大学留学の為の勉強……この機会を生かしてしっかり勉強させて頂きます」
続いてロドニアの王宮魔法使いラウラ・ハンゼルカもにっこりと笑いお辞儀をする。
「王女の仰る通り、お招き頂きありがとうございます。頑張って勉強しますので宜しくお願いします」
傍らで聞いていたマリアナが吃驚して目を見張った。
招かれて勉強する事は聞いていたが丁寧にお辞儀をするラウラのルウに対する態度は、師に対する弟子……そのものだったからである。
「ラウラ、お前……」
思わず何故? と言い掛けるマリアナに対してラウラはきっぱりと言う。
「ふふふ、マリアナ。リーリャ様が勉強し易い環境を作るのは私達の務め……そのような事ならこの屋敷は最高の環境だ。担任の教師2人、そして先輩と同級生も居る。そのうえ私も魔法大学にスムーズに編入する為に学ぶ機会としてはとても良い。急な話で迷っていたが言うなれば渡りに船というものだ」
それにと……ラウラはルウの妻達の後ろに控えている男達に視線を移した。
バルバことバルバトスとヴィーネンことヴィネの偉丈夫2人である。
「あの2人が屋敷の警護についてくれる。彼等の強さは充分知っている筈だ。お前達騎士にもたまには休暇をというルウ殿のご配慮だ」
「な、何!?」
いきなりの話にマリアナ達は驚いている。
「ホテルに戻って着替えてから外出でもして、たまにはこのヴァレンタインの王都で羽を伸ばして来い。何か素敵な化粧品でも買えば良い。私達はこれでも女性なのだから」
ラウラはそう言うとマリアナに向って花の咲くように微笑んだのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
30分後……ルウ・ブランデル邸中庭。
マリアナ達が漸く説得されて屋敷を後にしてからルウ達は慌しく『泥の池』に向う準備を整える。
今回モーラルを除いた妻達は初めての本格的な実戦となる為、大袈裟かもと言えるような陣容だ。
随行する悪魔はバルバトスとヴィネの他にアンドラスとオセ、そしてアスモデウスまでが呼ばれたからである。
バルバトス以外の見知らぬ戦士が控えているのを見てラウラは驚嘆する。
「あの3人もルウ様が呼んだ者達なのか?」
「ああ、そうだ。たまには召喚してやらないと彼等も不満が溜まるのさ」
事もなげに言うルウであるが、普通召喚とは術者1人につき1体の魔族が常識だ。
召喚魔法の経験が無いラウラでもその事は認識している。
それをルウは一度にこんなに大人数の魔族を召喚し、この現世に留めて置く事が出来るのだからラウラが驚くのも当然であった。
「もしや彼等もですか……」
ラウラの視線の先には自分達を見送る老齢の男と逞しい犬が居る。
ルウは穏やかな表情で頷く。
「ああ、1人は地の妖精で犬はケルベロスだ。屋敷の留守は彼等に任せれば安心だろう」
「ケルベロスですって!? あ、貴方は何という人だ」
伝説の魔犬まで従えているとはもうこれ以上ラウラに何も言う事はない。
「師よ、本日の戦いではこのラウラ。微力ながら出来る限り助力させて頂きます」
「分かった。期待しているぞ、ラウラ。ただ泥の池にどのような異界が繋がっていて何が出てくるのか未だ全く分からない。盾役はバルバトス達が務めるから、リーリャやフラン達同様、危険は冒さずにまず自分の身を守る事を考えるんだ」
ルウはそう言うと同じ内容の事をフラン達にも再度伝えて徹底させたのである。
やがてルウは言霊を唱え出した。
これだけの人数を一度に転移させるとなるといつもの地の精霊の力だけでは足りないからである。
「高貴なる地の王アマイモンよ。我の声を聞き、その意思に従え!」
その瞬間であった。
ルウ達の身体が眩く輝いたかと思うと全員がその場から消えていたのであった。
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