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第256話 「アドリーヌとの食事会④」

 アドリーヌの友人であるイザベル・ブーケにせがまれたルウは自分の事を話し始めた。

 かと言って事細かに全てを話すつもりではない。

 自分は学校に行っておらず魔法はアールヴに習った事をかいつまんで聞かせたのである。


「へぇ~、凄いですね。でもアールヴの魔法は独特だと聞きます。魔法女子学園の科目を教えるのに不自由はないですか?」


 イザベルも自分達が使っている魔法とアールヴ達の魔法が大きく異なっている事は知っている。

 アールヴの魔法を習得したルウが自分の母校でもある魔法女子学園の教師をやっている事に彼女は更に興味を持った。

 そしてイザベルの心配も杞憂だったようである。


「まあ、何とかな。今の所はほぼ問題なくやっているよ」


 そうなると次に気になるのは彼の行使出来る魔法の種類だ。


「ルウさんのご専門は?」


「ああ、攻撃魔法術と召喚術さ」


 召喚魔法!

 それならば自分の専門分野だ。

 イザベルはにっこりと笑った。


「だったら召喚術はある程度極めていらっしゃるでしょうね。使い魔とかは持っているんですか?」


「ああ、従士にしている者が何人か居るぞ」


「ええっ! 従士級の魔族を使役しているんですか? さすがです」


 従士級の魔族を召喚して従えるには、使い魔などより遥かに高いレベルの召喚技術を必要とする。

 それが本当ならルウは相当力のある魔法使いだ。

 そんな事を考えていたイザベルは逆に謙遜した彼から質問される。


「いや大した事ではないよ。じゃあ、今度はこちらからも聞きたい。アンノウンを使役していると思うが、やはり古代魔法王国時代の遺物であるゴーレム、巨人ギガンテースを寄り代に使用しているのか?」


「ふふふ、やはりお詳しいですね。ええ、そうですよ。私はアンノウンに自我を感じましたので『ゲルズ』と名付けてコンビを組んでいます」


 やはりルウの魔法の造詣は深い。

 イザベルの予感が確信に変わって行く。

 そんなイザベルに対してルウは人懐こい笑顔を見せる。


「そちらこそ凄いじゃあないか。主に城砦の修理や土木工事をしているのかな?」


「ありがとうございます、褒めて頂いて。ええ、そうです。後は河川の堤防の修復とか、普段は結構忙しいんですよ」


「そのような用途が一番だな。巨人は万が一戦闘用に使って暴走したら困るからな」


「はい! それに加えて術者より寄り代である巨人などの遺物の方が数は圧倒的に少ないのをご存知でしょう。その上、一切修理出来ないときていますから、戦闘用になど使って、もし全壊したり破損したら大事おおごとになりますからね」


 イザベルが話す事にルウは納得して大きく頷いた。

 今の人間はいくつもの古代魔法の遺産を引き継いだが、殆どの物はその論理を解明出来ずに単に使うだけにとどまっている。

 そんなに魔法文明の発達した世界が何故滅んでしまったのか、ヴァレンタイン王国でも魔法大学を始めとして多くの教育施設の専門家や研究家が一心に考えいろいろな説を出したのだが解明には到っていないのだ。


 但しこのヴァレンタイン王国の中でルウだけは別である。

 彼はアールヴのソウェルであるシュルヴェステル・エイルトヴァーラから一切を聞いているのだから。


「ははっ、ウチのクラスには工務省志望の生徒も居る。また知り合いにはアンノウンの召喚をもう1度やり直そうという者も居る。知り合いは来年魔法大学に進みたいそうなんだ。イザベル、またお前から話を聞けたら良いな」


「ええ、喜んで……でもまたって?」


イザベルが不思議そうな表情をした瞬間である。


「はい! じゃあそろそろ男性陣は席を隣に移ってくれるかな? 宜しくね」


 場を仕切る幹事役のブレーズ・ベルトンの声が響く。


「え!? 待って! ルウさん、結局は私達魔法の話ばかりしてしまって……貴方って私の事、何も知らないですよね」


 ブレーズの時間切れを報せる言葉を聞いて焦って食い下がるイザベルである。


「私の事?」


「もう! どこに住んでいるかとか、どんな趣味があって食べ物は何が好きかとか、そしてどんな男性がタイプとか、それに私だって貴方の事全然聞けなかったし!」


「ははっ、残念だな。でも多分また会えるさ」


「もう! 今度2人だけで会って下さいよ! 絶対ですよ、約束ですからね!」


 手を振って離れて去って行くルウに対してイザベルは不満の声を張り上げた。

 その瞬間彼女はじっと自分を見詰める視線を感じたのである。


「え?」


 恐る恐る視線の方を見たイザベルの目に入ったのは腕組みをして、じと目で睨むアドリーヌの姿であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お待ちしていたわ。宜しくね、ルウさん」


「ああ、ネリーだったな。こちらこそ、宜しく」


 ネリーは明るい栗毛の髪をショートカットにしたボーイッシュなタイプである。

 深い鳶色の瞳が興味深そうにルウを見詰めた。

 今日のルウはキングスレー商会であつらえた法衣ローブを纏っている。


 服装は結構な値段の法衣か……

 悪くないわね。


 彼女は到って現実的な女性であり、伴侶の条件としてはまず生活力のある男性が好みなのだ。

 それだけでいえば、今回の食事会に参加した男性のうちルウ以外は及第点だといえる。

 

 ルウが魔法女子学園の臨時教師であると話は事前にアドリーヌから聞いていた。

 確かに現在の給料だけでいえば収入は余り期待出来ないであろう。

 ただ能力の高い魔法使いはいろいろな方面で求められる事が多く将来有望である。

 それに加えてルウは若いので条件としてはよりプラスとなるのだ。


 隣で何となくルウとイザベルの話を聞いていたネリーは逆手に出る事にした。

 彼女も魔法使いなので魔法の話が始まれば止まらない事は自覚している。

 普通に話していては彼のペースに巻き込まれてイザベルの二の舞であろう。

 そこでまずプライベートの話を優先してやりとりしようと決めていたのである。


「ルウさん、私、貴方の事色々と知りたいのですけど……聞いていいですか?」


「ああ、構わない。どんどん聞いてくれ」


 ルウが承諾して頷くとネリーはいきなり直球を放り込んで来た。


「ルウさんの好きな女性ってどんなタイプなのですか?」


 そんな質問にもルウは躊躇ちゅうちょ無く答えた。


「ああ、優しい女性が好きなのは勿論だが、好きな事に邁進する女性には魅かれるな」


「成る程! 住んで居る所ってどこですか?」


 頷きながらメモを取るネリー。

 そして続けさまに住所を確認する。


「ああ、セントヘレナの貴族街の屋敷……かな」


 ほうら、まず当たり!


 ネリーは心の中で快哉を叫んだ。

 やっぱり優良条件なんだと彼女は確信を深めたのである。

 ネリーはその後も注意して魔法の話題にならないように、慎重に質問をして行った。

 ただ相手をしたルウもさすがに自分の全てや今迄の事情を話す訳には行かないので肝心な部分それとなく逸らしていたのである。


 そろそろ魔法の話題でも良いと思ったのかネリーはルウの使用可能な魔法を聞きたがった。

 ルウは巧く切り返して自分も鑑定魔法を使うと話したのである。

 案の定ネリーは食いついた。

 ルウは鑑定魔法を修行中の義弟ジョルジュ・ドゥメールの事を脳裏に思い浮かべながらさりげなく聞いてみた。


「鑑定魔法は国家免許制なんだよな。試験はいつどこでやっているんだい?」


「ええ、毎月冒険者ギルドと商業ギルドの両方で行っているわ。何せ色々な所から引き合いが多くて皆が好条件を提示してくるでしょう? 私も他に財務省と冒険者ギルドからも誘いがあったけど最終的に1番条件の良かった商業ギルドに決めたのよ」


 誇らしげに語るネリーにルウは困ったような顔を見せる。


「俺、実は免許を持っていないんだ。受験の内容、段取りや対策に関して教えてくれるかな?」


 いずれは、彼って魔法鑑定士の資格も取れるのかしら!

 や、やっぱり超優良物件だわ!


 ルウの言葉を聞いたネリーの心の中ではビンゴの声が鳴り響き、顔には満面の笑みを浮かべていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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