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第252話 「博愛」

 湯船にゆったりと浸かるルウは異界で話したように今日の訓練の成果を聞く事にした。

 傍らでフランがその内容を綿密にチェックしようとスタンバイしている。

 第一夫人として、または教師として自分の成果は勿論の事、妻達の成長を確認して行くのは自分の役目だと自覚しているようだ。

 ルウはまずジゼルから声を掛ける。

 先程、報告は受けているが、他にも何かあれば聞くのと改めて彼女をねぎらう為である。


「よし、ジゼル。今日の訓練で魔導拳の初歩の組み手を覚えたのと魔力波読みも上達した。そして回復魔法の発動も学べたように得た物は多そうだな、本当に良くやったぞ」


「ははは、旦那様には何度褒められても良い気分だ。言っておくがまだまだ私は強くなるからな」


 胸を張って宣言したジゼルが鼻歌を歌いながら湯船の端に行ってリラックスし始めた。

 それを微笑みながら見たルウはオレリーとジョゼに向って手招きする。


「オレリーとジョゼフィーヌはどうだ?」


「はいっ!」「今、そちらに行きますわ」


 身体を洗っていた2人が嬉しそうに返事をしながらやって来ると、モーラルも近付いて来て2人の成果の報告をしたいと言う。


「宜しいですか、旦那様。そしてオレリー、ジョゼ」


 モーラルが発言の許しを得ようと口を開いた。

 それに対してルウは勿論、オレリーとジョゼフィーヌも頷いてOKする。

 大きく頷いたモーラルは今日の訓練の内容を簡単に説明した。


「彼女達には私とジゼル姉の組み手をじっくりと見せた上で、その後は突きと蹴りの反復練習を徹底してやって貰いました」


「2人の表情を見ると順調だったようだな」


「はい、後は2人から聞いて頂けますか?」


 ここでモーラルは報告を2人にバトンタッチした。

 ルウがオレリーから発言をするように促すと彼女は嬉しそうに話し始める。


「旦那様、身体強化の魔法って凄いですね。身体が軽いし、2人の組み手が直ぐに真似られました。まあ所詮形だけですが……」


 続いてジョゼフィーヌも得意そうに言い放つ。


わたくしもオレリーと同じです。まるで自分の身体じゃないみたいですわ」


「ははっ、お前達は基礎体力が無くて、未だ身体強化の魔法に頼る傾向はあるが、それはおいおい鍛える事で解消出来る。それよりモーラルとジゼルの組み手を見て形だけでも遣えるとはだいぶセンスがある。2人共だいぶ魔導拳のイメージを掴めて来たみたいだな」


 ルウの言葉にすかさず賛同する2人。


「はいっ!」「このまま行けば、ばっちりですわ」


 魔導拳の訓練に関しては問題が無さそうなので、ルウはここで話の内容を魔法に変えて問い質した。


「魔法に関しては2人共、既に属性の精霊と交歓をしているからな。但し、焦らないでじっくりと仲よくなれと念を押してあるが、現状はどうだ?」


 ルウの問いにオレリーは少し答え難そうだ。


「私は水の精霊ウンディーネがいろいろな事を教えてくれます。た、例えば買い物に行く時もあの道は………へ、変な……男の人が居るとか……」


「変な?」


 オレリーが口篭った挙句、男に遭遇する云々と洩らしている。

 ルウは思わず聞き直してしまう。

 しかしすかさず説明をしようとしたのはジョゼフィーヌである。


「オレリーはとても、もてるんですわ。変な男っていうのは……」


「あ、駄目! ジョゼ、旦那様に言っちゃ駄目!」


 説明しかけたジョゼフィーヌを必死に止めようとするオレリー。

 しかし彼女に構わずジョゼフィーヌはルウに説明を続けてしまう。


「ラブレター持ってじっと待っている魔法男子学園の生徒とか、強引にデートに誘おうとする若い騎士とか」


「あああ、もう!」


 暴露されて地団太を踏むオレリーがルウには可愛くて仕方が無い。

 穏やかに微笑んでいるルウに対してジョゼフィーヌはさすがに『フォロー』を入れる。


「でも安心して下さい、旦那様。オレリーはしっかり全ての誘いを断っていますわ。自分は結婚していますって」


 悪戯っぽく笑うジョゼフィーヌにオレリーは柳眉を逆立てた。


「当り前です! 私は人妻で旦那様ひと筋なんですから!」


「ははっ、安心したよ。ジョゼはどうだ?」


 ルウはオレリーを抱き締めると今度はジョゼに聞いてみた。


「はい、風の精霊シルフは私の遊び相手になって貰っていますわ。結構仲良くなりましたけど、それ以上のレベルに進む時は旦那様と一緒の時にお願いした方が良さそうですものね」


 ジョゼフィーヌは風の精霊シルフとの間柄をじっくりと深めているらしい。

 まあ魔法を覚える際にルウと一緒が良いとはちゃっかりしていると言えるかも知れない。


 オレリーとジョゼフィーヌが湯船に入ったのでルウは交代で上がり、隅で身体を洗っているリーリャの傍に寄って行く。


「リーリャ」


「ひゃうっ!」 


 ルウから声を掛けられたリーリャは思わず悲鳴をあげてしまう。


「ははっ、御免な。吃驚させてしまったか。今、背中を流してやるからな」


 ルウの申し出にリーリャは吃驚した。

 王族である彼女は風呂に入る際は侍女に身体を洗って貰うのが習慣ではあったが、自分の侍女も居ないこの状況では仕方なく自分で自分の身体を洗おうとしていたのである。

 そこに夫であるルウがそのような事をやると申し出るとは夢にも思っていなかったのだ。

 当然、彼女はルウに対して断りを入れる。


「ええっ、旦那様にそんな事をやって頂くわけにはいきません。身体を洗うなど、侍女がやるような事ですよ」


 そんなリーリャに対してルウは穏やかに微笑んだ。


「リーリャ、そんな感覚は徐々に捨てるんだ。お前は少なくともこの屋敷に居る時はロドニアの王女ではない、俺の妻だ。今日も1日一生懸命に頑張った可愛い妻の背中くらい、俺が流すのは当り前だし、そんな事はお安い御用さ」


「一生懸命頑張った……可愛い妻……だ、旦那様、ありがとう! リーリャは嬉しいです」


 ルウはリーリャが素直に背を向けたのを見るとタオルに石鹸をつけて泡立てて、優しく彼女の背を洗い始めた。

 ルウは背中越しにリーリャに話し掛ける。


「これからは自分の事は自分でやり遂げるのが基本だ。だからと言って何でも1人でやれっていう事ではないぞ。困った時や悩みがあれば直ぐ誰かに相談すればいい。難しい厄介ごとが発生しても家族同士で団結して助け合って行けば何とか解決出来る筈さ」


「家族……リーリャはもう家族の一員なのですね」


「ああ、教師と生徒という理由でお前と出会って助けたのは偶然だろうが、その結果俺と結ばれてお前が家族となり暮らして行くのはもう必然なのさ……俺はそう信じたいね」


「…………」


 ルウがそう言うとリーリャはいきなり黙り込んでしまう。

 その白い小さな肩は小刻みに震えていた。


「どうした?」


「湯気が目にしみたようです。旦那様、お願いですから暫くリーリャの顔を見ないで下さいね」


 もしその時、誰かが正対してリーリャの顔を見たらきっと吃驚したに違いない。

 彼女の目は真っ赤に腫れて涙が一杯たまっていたのだから……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸大広間、午後11時……


 皆で風呂に入った後、ホテル住まいのリーリャを転移魔法で送り屋敷に戻って来たルウ。


 彼が居ない間に今日は飲み物を摂って寝たいという意見が多数出たらしい。

 それに対して温かい紅茶で少量であればという条件付きでフランの許可が下りたのである。

 湯上りで冷たいお茶を飲みたいのはやまやまだが、冷やした紅茶を飲みすぎると目がさえて眠れなくなるのはこの世界でも周知の事実であった。

 そこでひとつの『事件』が起こる。

 皆が温かい紅茶をすすりながらくつろいでいるとルウが伝えておく話があると切り出したのだ。


「明日の晩なんだが……実はアドリーヌにこのように誘われてな」


 それを聞いてまず反応したのがオレリーとジョゼフィーヌであった。


「旦那様、それってきっと『自由お見合い』ですよ」


 オレリーがそう言うとルウは不思議そうに聞き返す。


「自由お見合い?」


「ええ、親にセッティングされたお見合いが嫌で堪らない貴族の若者を中心に今、流行っている自由意志を反映したお見合いですわ」


 今度はジョゼフィーヌがじと目で睨みながらルウに言う。


「でもアドリーヌはそんな事、ひと言も言っていなかったぞ」


「でも内容を聞くとそれしかありえませんわ」


 ジョゼフィーヌの追求は止まらない。


 ぱんっ!


 そこに乾いた音が鳴る。

 フランがいつものように軽く手を叩いたのだ。


「オレリーにジョゼ。旦那様が自分から女性を口説くと思う?」


 フランに言われて暫し考え込んだ2人。

 確かにルウが自分から口説いて妻になった女性はここには居ない。

 皆、自分から愛を告げてルウの胸に飛び込んだ者ばかりである。

 ルウはやたらに自分から女性を口説かない、それに関しては確かに安心は出来るであろう。


「でも……」


 フランは心配そうに言葉を続けた。


「旦那様って……助けてしまった気の毒な境遇の女性には……その押しというか情熱に弱いから……独特な博愛主義っていうか……」


 博愛主義!?


 この言葉に対してそこに居た妻達は全員が反応し納得する。

 何故ならば自分達がルウに救われ、癒されて彼を愛してしまったからである。

 もしナディアやリーリャがこの場に居ても全く否定はしなかったであろう。


 大広間ではルウの性格に対して妻達の大きな溜息が一斉に吐かれたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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