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第246話 「覚醒①」

 木曜日の夜……


 ここはルウ・ブランデルが高貴なる4界王に命じて作り上げた異界。

 昼間の約束通り、早速リーリャがやって来たのである。

 彼女はルウと2人でこの異界に来た事はあるが、他の妻達と一緒になるのは初めてだ。


 ルウに連れられてリーリャがやって来た時にフラン以下妻達は拍手をして迎えた。

 それを見たリーリャは少し緊張していたが、ルウが促すと妻達の輪の中に入って歓談し始める。

 直ぐに緊張が消え、楽しそうに話しているリーリャを見て微笑んだルウは輪の中に居たモーラルを呼んで今日の訓練の打合せをする事にした。


「今日の訓練は魔導拳と各自の魔法のレベルアップ及び熟練化―――以上でどうだろう」


 モーラルはルウの話に頷きながら更に思い切った提案をする。


「はい、旦那様は気付いてらっしゃると思いますが、フラン姉はいくつかの魔法で大きく覚醒する気配があります。以前旦那様が見抜いた彼女の伸び代ですね。ですから今夜は魔法の才能を大きく覚醒させる指導を行う為に彼女についてあげて下さい。次にジゼル姉はもう少しで魔導拳のコツが掴めそうですから、こちらと上位回復魔法の習得を頑張って貰います……こちらは私が指導をしますのでお任せください」


 モーラルの魔法の教師としての注意力、判断力はさすがである。

 妻達の状況をしっかりと見抜いていたのだ。


「ふむ。お前の言う通り確かにフランにはまだまだ覚醒する伸び代がある。すなわち眠っている素質が多々あるからな。ナディア達はどうする?」


 ルウが尋ねると「私と分担でお願いします」とモーラルは頭を下げた。


「ナディア姉はフラン姉と一緒で眠っている特別な素質がありそうですから旦那様が指導をお願いします。オレリーとジョゼ、そしてリーリャはジゼル姉と一緒に私が魔導拳の基礎指導をしましょう」


「そうだな、フランに覚醒して貰えば彼女も指導側に回って貰えるし、その次はジゼルも同様だ」


 2人は頷き合うとまだ歓談しているフラン達に声を掛けたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「今夜はいつもと訓練のやり方が違いますね。私とナディアには旦那様がついて……そして他の子達にはモーラルちゃん。これは何かが起こる気がするのですが……」


 先程ルウとモーラルが決めた組み分けにフランとナディアは緊張した面持ちだ。

 そんな彼女達に対してルウは、はっきりと指導の趣旨を告げたのである。


「ああ、今夜はフラン……魔法使いとしてお前に一皮むけて貰う為の指導だよ。俺とモーラルが感じたが、少し前からお前の魔力の質がとても上がって来ている。俺が以前指摘したお前の伸び代を引き出せるかもしれない。そしてナディア……お前もそうだ」


 フランが緊張した面持ちで頷くとナディアも真面目な表情で頭を下げた。


「旦那様……何か厳しい限界への圧力プレッシャーを感じるけどそれを破れば凄い事が起こりそうな予感がする。ボク一生懸命頑張るから……宜しくお願いします」


 ルウが2人と向き合うといつもの訓練とは違うと感じたのであろう。

 フランもナディアも未知の部分に不安を持ちながら、とても気合が入っている。


「まずはフラン、お前の魔法適性は火属性、最終的にはこの属性魔法を極めて貰うぞ。今お前が使える最大の火属性魔法は何だ?」


「爆炎です」


「ではその爆炎を発動してみてくれ。フランは魔法式を短縮して発動出来るのだな」


 ルウの教え方には多分にこのような部分がある。

 手取り、足取り教えて唯、知識を与えるというよりも、このようにまず実践させようとする方が自分で考える事にも繋がるのだ。


「はい、通常の魔法式の1/3程度には……」


「ナディアもフランがやるのを良く見ているんだ、いいな?」


「はい、旦那様」


 フランはルウに返事をすると両手を前に差し出して魔法式を詠唱し魔力を高め始める。

 当然、通常の魔法式を極端に短く省略したフラン独自のものだ。


「偉大なる使徒よ! 浄化の炎で敵を焼き尽くせ! ウーリエル・カフ」


 そして魔力をぎりぎりまで溜めて一気に解き放ったのだ。

 フランの両手から放出された魔力波オーラは彼女の頭上に向い直径3mほどの燃え盛る巨大な火球に変わる。

 

 それを見たナディアが「ほう」と感嘆の声を洩らす。

 普段、余り大きな魔法をこのように行使しないフランの実力に触れたからである。

 

 一瞬の間があり、フランは裂帛の気合と共に火球を誰も居ない空間に撃ち出した。

 火球は不気味な音と共に飛んで行き、約300m先くらいの場所に着弾して、大きく飛び散り燃え盛る。


「ふう、こんな所です……」


「よし! 今のは大天使の力を一部再現したものだが、今度は火の精霊サラマンダーの加護をイメージしてやって貰う。当然お前の行使した事のない精霊魔法への挑戦だ。言霊ことだまはお前と初めて出会った時に俺が使ったものを基本にやってみてくれ、覚えているか?」


「はいっ、忘れようにも忘れるわけがありません。あの言霊で私を救って頂いたのですから!」


 フランは襲われたという辛い記憶をルウに出会えた記憶に書き換える事が出来たのであろう。

 晴々とした表情をして大きな声で返事をしたのである。


「お前の魔力枯渇は異界の中では全く心配しなくて良い。俺は勿論、火の王パイモンの加護もあるのだ。フラン、安心して未知の精霊魔法にどんどん挑戦してみろ」


「ふふふ、頑張ります!」


 こぼれるようなフランの笑顔。

 フランはルウと会ってから未だ3ヶ月くらいしか経っていないのに何故自分がここに居るか、運命という不思議な感覚を感じるのであった。

 そんな思いを持ってフランはかつて彼が使った言霊を詠唱しだしたのだ。


「火蜥蜴よ! この大地の血脈にして偉大なる火の精霊よ! 人々に生きる力と恵みを与える神の使いよ! 我は欲する、そなたの力を! さあ我が前に現れよ!」


 フランの身体から大量の魔力波オーラが放出される。

 しかしそのエネルギー波動に応える者は居なかった。


「めげるな! 次々行け」


「は、はいっ!」


 ルウの叱咤激励にフランは腕で汗を拭いながら先程より大きな声で返事をする。

 そして間をおかず言霊を詠唱し出したのだ。


「火蜥蜴よ! この大地の血脈にして偉大なる火の精霊よ! 人々に生きる力と恵みを与える神の使いよ! 我は欲する、そなたの力を! さあ我が前に現れよ!」


 ……しかし今回も精霊の反応は無い。

 虚しく魔力波が放出されただけである。


「まだまだ!」


 再度ルウの厳しい声が上がる。


 その後―――言霊の詠唱をもう10数回以上繰り返したであろうか。

 詠唱が終わった後、異界の空気が突然異音を立てたのだ。

 それは木が燃えて爆ぜる音に似た、何かが弾けるような軽い音である。


「だ、旦那様!」


 思わず声を出し、はやるフランをルウがなだめた。


「良いぞ! もう1回やってみよう!」


 ルウの声に励まされてフランの朗々とした声が異界に響く。


「火蜥蜴よ! この大地の血脈にして偉大なる火の精霊よ! 人々に生きる力と恵みを与える神の使いよ! 我は欲する、そなたの力を! さあ我が前に現れよ!」


 今度も音が鳴ったがたった1回では無い。

 何度も鳴り響き、膨大な魔力波が何者かに変換されて行く。

 もうフランは確信を込めてその名を呼んだ。


「偉大なる精霊、火蜥蜴サラマンダー! 我が前に現れよ!」


 かあああああああああ!


 魔力波から変換された精神体アストラルがフランの呼びかけに応えて吼えた。


 確かに力強く咆哮したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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