第243話 「体験授業③」
魔法女子学園祭儀教室、午後2時……
本日2つ目に行うルウの専門科目の授業は上級召喚術である。
この授業はまず2年生の課題で『使い魔』と呼ばれる下僕を呼び出した者に受講資格がある特殊な授業である。
その為、先程の魔法攻撃術の授業より対象者は絞られる筈であったが、相変わらず50人程がこの祭儀教室に押しかけていた。
召喚する対象が未知である上、相手によっては危険も伴う為に指導する教師もある程度の経験と実績がなければならなかった。
その点、ルウは魔法女子学園から上級指導官として認められており、その実力は申し分ない。
何せ伝説化した火の精霊である火蜥蜴を皆の目の前で召喚して見せたのだ。
生徒は勿論、他の教師達もその実力を認めざるを得なかったのである。
時間になったのでルウは早速授業を開始した。
ルウは魔法攻撃術同様、召喚魔法とは何ぞや?という問いで切り出す。
これは先日異界にてフラン、リーリャ、ラウラに対して話したのと同じ考え方である。
今度は生徒達から直ぐ答えがなかったのでルウは軽く頷き、話し始めた。
「召喚魔法とは一体何だ? 大抵の術者はあまり理解していない。まずはそれから説明しよう」
ルウが一体何を言うのか教室の生徒達はじっと聞き耳をたてている。
「世の殆どの召喚魔法の術者達は大体『使い魔』レベルを使役するに止まっている。身の回りの用事や伝言――いわゆる雑務だな。まあ使い魔クラスの者達ではそれ以上を望むのは厳しいが……」
ここでルウはエステルとルイーズの顔を認めると破顔した。
2人は課題で『アンノウン』の召喚に成功した者達である。
「少ない例外がアンノウンだ。工務省で土木工事などに使っている古代魔法の遺物であるゴーレム、一般的にも使われる自動人形に人格を持たせる際に使う。彼等が一体何者なのか謎ではあるが、長年の事例で術者に従順であるとの確認が取れているから忠実な下僕として使役する事が出来るんだ」
ルウはコホンと咳払いをするとここからが本題だと生徒達に告げた。
「上級召喚術とは使い魔など及びもしない実力の上級魔族を呼ぶ為の魔法だ。上級の魔族を呼ぶにはかなりの実力が必要なんだ。油断したり、一歩間違えば呼んだ魔族に害される危険があるからな。分相応で自分のレベル以上の上級魔族はみだりに召喚しない事。そして訓練を行なう際には俺のような経験者の立会いが必須、これが基本だ」
しかしと、ルウは話を続ける。
「万が一、上級魔族を召喚してしまった場合、立ち会った教官役の者が術者をその脅威から護るのは勿論だが、自らの力で護る為にはペンタグラムが必要となる。これは魔族の制御に有効な魔法が込められた護符なのさ」
教室の生徒達は全員がペンタグラムを身につけていた。
ルウの話を聞いて大半の生徒達が改めて触ってその手触りと存在を再確認している。
「魔族を宥めて退去を命ずる魔法『帰還』は上級召喚術では必須だ。俺の授業ではこの魔法から教えて行く」
ルウは教室を見回すと話を戻すと言い放った。
「召喚魔法の真髄について説明しよう。アンノウンのように土木など公共的な仕事に加えて自分の身を守る、相手を攻撃するなどの役割が一般的に良く言われるがそれは表面的な事に過ぎない。召喚魔法の真髄……すなわち意義とは召喚した人智を超える存在より様々な知識を得る事にあるんだ」
先日の異界でのラウラ同様、今度はエステルが不思議そうにルウを見て問う。
「様々な知識ですか?」
「ああ、俺達、人間の寿命の問題だな。せいぜい80年から100年、この僅かな一生に学べる事は限られているし、余りにも少ない。何故そう思うか? 俺達魔法使いは好奇心と探究心の塊だからだ。未知の魔法や不可思議な魔道具、難病も完治させる究極の魔法薬は学びたいと思って当然だろう」
ルウが嬉しそうに語り始めるとリーリャはくすっと笑う。
別にルウを馬鹿にするとかそんな理由ではない。
ラウラに対して熱弁を振るった時と全く一緒であり、リーリャもその考えに全く同感だからである
ルウの熱弁は更に続いていた。
「魔法だけではなく美しい調べの音楽、人の心を打つ詩など数限り無い素晴らしい知識を彼等は所持している。それを教授して貰う、そう考えただけでわくわくするとは思わないか」
陶酔したように喋り終わるとルウはまた厳しい顔付きになった。
「素晴らしい知識を持つ魔族はかなり上位の連中だ。当然危険も生じる。だから再度念を押しておくが術者の実力に応じた召喚が望ましいといえるし、訓練には俺のような者の立会いが必要なのさ」
ルウは話し終わると早速実践で『帰還』の魔法の見本を見せると宣言したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここに居る生徒全員がこの祭儀教室において『使い魔』以上を呼び出している。
当然、教室の仕組みは理解しているとは思いながらもルウは一応念を押した。
「この教室は知っての通り、魔法陣が描かれていて術者のエリアと魔族を呼び出すエリアに分れている。術者の安全を確保する為と異界への通路を確保し易くする為の処置だ」
ルウが生徒達を見渡すと大きく頷いた。
「では始めよう、サラ先生、魔法障壁の起動を頼む」
サラが了解と返事をして、この祭儀教室の後ろにある魔法障壁の起動装置に手を触れて魔力を込める。
すると低い音が発生して教室の一部を除いて様々な魔法障壁が全員を保護したのだ。
魔法障壁が掛っていない場所とは召喚エリアである魔法陣の部分である。
障壁が発動したのを確かめてからルウは言霊の詠唱を始めた。
「現世と常世を繋ぐ異界の門よ、我が願いにてその鍵を開錠し、見栄え良く大きく開き給え! 異界に棲む者よ、聞け! 門は今、開いた! 忠実さをもって我が下へ馳せ参じ給え!」
ルウは言霊を詠唱しながら魔力を一気に高めて行く。
大量に放出されたルウの魔力波が魔法陣に吸収され、魔法陣が眩く輝き出した。
「召喚!」
すると輝き出した光が凝縮し、1つの影に固まって行く。
出現したのは輝く革鎧を纏い、背中までの金髪を靡かせた美貌の女戦士である。
意思の強そうな碧眼がルウを睨む。
「私を永久の眠りから起したのはそなたか?」
「ああ、俺の声を聞いてこの現世に赴いたならばそれはお前の運命であろうよ」
ルウは真正面から女戦士の視線を受け止めると淡々と答えた。
生徒達は背後で息を呑んで見守っている。
「まず名乗れ、召喚者よ。それがこの私をこの現世に招いた義務である」
女戦士の口角が僅かにあがる。
ルウに興味を持ったようであった。
「ははっ、俺はルウ・ブランデル。どんな魔法使いかは、お前が見て直ぐ分かるだろう」
「ふむ……ルウと申すか、何と!? お前は私以外にも様々な異界の者を従えておる。それなのに私がここに来たという事は成る程……」
そう言われた女戦士はルウを値踏みするように見詰めている。
「そうさ……お前が必要だという事だ、さあ今度はお前が名乗る番だ」
ルウの言葉をじっと聞いていた女戦士は面白そうに笑う。
「分かった、名乗ろう! 私は戦乙女アルヴィトル……古に滅んだ北の大神に仕えていた者だ。後ろのうら若き乙女達はお前の弟子か、ふむ才能に溢れた者が多々居るようだ」
「アルヴィトル、お前の知識と武技を俺は望む。また呼ぶ時に教えを乞いたい」
ルウがそう言って、一礼するとアルヴィトルは少し驚いたようだ。
「私の見る所、お前は賢者と呼ばれても良い知識を持っておる。そしてその強さは計り知れず……それなのに更に……か」
「そうさ……俺は学ぶ事に貪欲な魔法使いだからな」
ルウの返した言葉を聞いて毅然としていたアルヴィトルがとうとう大声で笑い出した。
「ははははは! 面白い! こんな面白い人間は初めてだ」
生徒達は美しさと気高さに満ち溢れた女戦士の彼女が、突然相好を崩して笑い出したのに対してただただ驚くしかなかったのだ。
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