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第241話 「体験授業①」

 アドリーヌに肝心の食事会の日にちを聞いてルウは苦笑する。


「ははっ、『近々』って明日の晩か。確かに近々だな」


「す、す、済みませんっ! つい言い出し難くて……」


 アドリーヌにしてみればこのタイミングでも多大な勇気が要る事だったに違いない。

 ひたすら謝る彼女にルウは手を横に振った。


「ははっ、任せろ! 良いって、良いって何とかするよ――アドリーヌと俺は同期じゃないか」


『同期』……それって……


 アドリーヌはルウの言葉を聞いて一瞬がっかりしたが、何とか表情に出さずに気を取り直して無理矢理自分を納得させた。

 ……とりあえずルウに出席の承諾は得たのだから。


 ルウが日時と待ち合わせ場所をもう1度確認する。


「ええと、じゃあ王都の中央広場に明日の午後6時45分……王宮の正門前で待ち合わせ……で良いんだな?」


「はいっ! 店の予約は午後7時からなので……あ、あ、ありがとうございますっ!」


 アドリーヌは余程慌てていたのかルウに礼を言うと、頭を深く下げて踵を返し地上への階段に向かう。

 そしてそのまま駆け上がってしまったのである。


 ……学生食堂の配膳、下膳は基本的にセルフサービスだ。

 アドリーヌの座っていた席には彼女が食べ終わっていない料理がそのまま残っていたのである。


「あいつ……あんなに慌てて」


 ルウはそう呟くとアドリーヌの消えた方角を暫し眺めていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この期間、2年生は専門科目を理解し、授業を選択する為の体験授業を受ける事となっている。

 魔法女子学園の規定で一度に選択できるのは3科目まで……

 卒業するのに必要な単位は3科目の単位で足りるので、2年生から学び始めて3年生の3学期である最後まで好きな科目をとことん極める者も居れば、同じ期間にどんどん新たな科目に挑戦する猛者も居たのだ。


 魔法女子学園の専門科目と主任担当教師(上段)と担当教師は下記の通りである。


 ☆魔法攻撃術:シンディ・ライアン

 カサンドラ・ボワデフル、ルウ・ブランデル、フランシスカ・ドゥメール


 ☆魔法防御術:クロティルド・ボードリエ

 シンディ・ライアン、フランシスカ・ドゥメール、ケルトゥリ・エイルトヴァーラ、オルスタンス・アシャール


 ☆上級召喚術:カサンドラ・ボワデフル

 ルウ・ブランデル、リリアーヌ・ブリュレ、サラ・セザール


 ☆魔道具研究:ルネ・ボワデフル

 クロティルド・ボードリエ、ケルトゥリ・エイルトヴァーラ、ルウ・ブランデル、アドリーヌ・コレット、ベルナール・ビュラン


 ☆錬金術:ケルトゥリ・エイルトヴァーラ

 ルネ・ボワデフル、リリアーヌ・ブリュレ、サラ・セザール、アドリーヌ・コレット、ベルナール・ビュラン


 ☆占術:フランシスカ・ドゥメール

 シンディ・ライアン、オルスタンス・アシャール、リリアーヌ・ブリュレ、アドリーヌ・コレット


 基本的には科目ごとの主任担当教師が担当クラスを持ち、授業を行う。

 それを担当教師が補佐して行く形になる。

 今回アデライドの理事長としての判断で個人クラスが置かれたのはルウの魔法攻撃術と上級召喚術、そして魔道具研究となる。


 魔法とは実力の世界である。

 魔法女子学園で言えば年齢や勤務年数ではなく実績で序列が決まるのだ。

 比較的勤務年数の浅いフランやケルトゥリが校長や教頭に昇格しているのも決してアデライドの身贔屓ではない。

 ルウに関して魔法攻撃術は魔法武道部での副顧問としての指導実績、召喚術は火蜥蜴を召喚して見せた事、そして魔道具研究は自身の収納の腕輪の付呪の実績を評価されての事だ。

 ルウはこのように学園内で充分に実績を示しているので他の教師からも異論は無かったし、アデライドから担当クラスと『研究室』を与えられるのも当然と言えたのである。


 また主任担当教師が多忙であったり、教師に人気があると希望者が多かったりする場合がある。

 そうなると代理の先生で代替授業を行ったり、希望者が多過ぎて希望したクラスには入れない場合は同じ学科で先生違いのクラスが増える場合もあるのだ。


 今回のルウの場合も2年C組の生徒を中心に希望が殺到している。

 中には3年生での転籍を希望した生徒も居たが、さすがにそれは叶わなかった。

 また学園の規定では希望者が多い場合は抽選ではなく、実力優先で入室試験を行なう事になっているので生徒達はとても真剣であったのだ。


 専門科目の授業は別棟である実習棟で行われる。

 この実習棟は4階建てであり、通常の形態の教室の他に様々な設備を備えた教室が設置されていた。


 本日の午後、ルウの行う体験授業は1時からは魔法攻撃術、2時からは上級召喚術という事になっている。

 ルウが使う実習棟の教室の定員は50名となっていた。

 1時少し前に教室に入ったルウはその盛況振りに少し驚く。

 50名の席は当然の如く埋まり、後ろには立ち見の生徒が約20名程待機していたのだ。


 このような場合を想定して実習棟の倉庫には木製の長椅子が備えてある。

 ルウがそれを運び出そうとした所、声を掛けて来た者が居た。


「ルウ先生、手伝うよ」


 金髪に切れ長の碧眼、そして肉厚の唇が愛嬌を感じさせる1年C組の担任教師サラ・セザールである。


「ふふふ、あれから体調が良いんだよ。あんたのお陰さ、ルウ先生」


 サラは嬉しそうに礼を言う。

 以前体調を悪そうにしていたサラをルウが回復の魔法で治療した事があるのだ。

 ※第70話参照


「この後、2時からの上級召喚術の授業であんたの『補佐』に就くのがあたしなんだ。この時間はたまたま空いていたのでルウ先生……あんたがどのような授業をするかを見に来たって訳」


「ははっ、悪いな。サラ先生」


「お安い御用さ、こんな事。でもあんた色々な所で話を聞くよ。魔法使いとしても相当なもんだね」


「良い評判なら歓迎だがな。まあ悪口でもサラ先生だけが信じてくれればいいさ」


2人が軽口を叩いていると教室に居た生徒達が駆け寄って来た。

その中にはオレリーとジョゼフィーヌ、そしてリーリャも居る。


「ルウ先生、サラ先生。手伝いま~す」


 それを聞いたルウとサラの顔に笑みが浮かぶ。


「おう、助かるよ。頼むな」


 返事をしたルウに椅子を持つ手伝いをする生徒の1人が口を開いた。


「その代わり入室試験に手心を加えてくださいね!」


そう言った生徒は悪戯っぽく笑うとぺろりと舌を出した。


「おいおい、教頭に聞こえたら大変だぞ」


 サラがその生徒を軽くぶつ真似をすると彼女は大袈裟に痛がる素振りをする。


 それを見た他の生徒からは、どっと笑い声があがり、皆が和やかな雰囲気でルウの授業を受けようとしていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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