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第240話 「リーリャ編入」

 魔法女子学園2年C組、木曜日午前8時50分……


 今日はいよいよリーリャが2年C組に編入する日である。

 昨日の異界でのルウとの訓練は防御魔法の風壁ウインドウォールも完璧に発動させた事でリーリャにとってはとても有意義なものとなった。


 やがて教室の扉が開きフランとルウに挟まれてリーリャが教室に入って来た。

 既にオレリーとジョゼフィーヌは面識があるが、他の生徒達は食堂等でその姿を見かけた程度なので一斉に歓声があがった。


 ぱんぱんぱん!


 途端にフランの手が軽やかに叩かれ、教室に小気味の良い音が響き渡る。


みんな! 静かに! リーリャが挨拶しますよ」


 えっ、リーリャ?

 王女である彼女を呼び捨て?


 生徒達はオレリーやジョゼフィーヌを除いて驚きの表情だ。

 歓迎の式典では他の生徒と同じ様に平等に接するとの訓示がアデライドから確かにあった。

 しかし実際に目の前で見て聞いてみると大違いである。

 フランがリーリャを違和感無く呼び捨てで呼ぶとそれをやっと現実のものとして受け止めたのだ。

 フランが目で合図をするとリーリャは「はい!」と大きく返事をしてC組生徒全員の前に立つ。


「お早うございます、皆さん。私はリーリャ・アレフィエフ、ロドニア王国出身の16歳です。今日から皆さんの級友として一緒にこのヴァレンタイン魔法女子学園で勉強して行きます。何卒宜しくお願い致します」


 凛とした声ではきはきと挨拶をするリーリャを皆は呆気に取られたように見詰めている。

 やがてオレリーが立ち上がり「宜しく、リーリャ」と叫ぶと、続いてジョゼフィーヌも同様に「宜しくお願いしますわ」と立ち上がり、軽く頭を下げた。

 そこから先は堰を切ったように教室中が歓迎の言葉で埋め尽くされたのである。


 魔法女子学園、祭儀室午前9時45分……


 リーリャが朝の挨拶をしてから、たった45分後、生徒達は再度驚きに包まれていた。

 彼女が2年生に課せられた2つの課題を難なく両方ともこなして見せたからである。

 2年生のその課題とは魔力のコントロールをしっかり行って戦闘でも防御でもどちらか1つ、属性魔法を習得する事。

 もうひとつは使い魔を呼び出して下僕とする事の計2つだ。

 生徒全員が固唾を呑んでリーリャに注目する。


「風を司る天使よ! 我等へ加護を! 大いなる風の守り手を遣わせ給え! ビナー・ゲブラー・ケト・ルーヒエル」


 まずリーリャは屋外闘技場において彼女の背丈の倍以上もある大きな風壁ウインドウォールを容易く発動させる。

 魔法風に美しい金髪を靡かせる可憐な少女の姿に圧倒された級友達。

 そして祭儀室に移動して直ぐの出来事であった。


「創世神の御使いであらせられる大天使の加護により、我に忠実なる下僕を賜れたし! 御使いの加護により御国に力と栄光あれ! マルクト・ゲブラー・ホド! 永遠とわに滅ぶ事のない……来たれ、我が下僕よ」


 そして召喚の魔法式を詠唱するリーリャに呼び出されたのは小さな『栗鼠』のような使い魔である。

 今度はホッとした級友達が呼び出した可愛い使い魔と戯れる彼女の姿に癒されたのは言うまでも無かった。


 ―――リーリャは楽々と2年生の課題をクリア、文句無く実力を認められ基本科目の学習は勿論、専門科目の選択も認められた。

 そんなリーリャに刺激されたのか、C組で未だ召喚魔法の課題をクリアしていない生徒達が居残り特訓を申し出た。

 ここは召喚魔法の上級指導官でもあるルウが引き続き指導する事になり、既に課題をクリアした生徒達は一旦2年C組の教室に戻ってから、専門科目の選択状況を聞かれる事になったのである。

 ルウと別れる事になったリーリャは少し寂しそうな表情を見せたが、級友達に促されて教室に戻って行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園職員室、午後12時過ぎ……


 ルウは祭儀室での召喚魔法の指導を終えて職員室に戻っている。

 あれから何人かが見事に『使い魔』を呼び出し、課題をクリアする事が出来たのだ。

 ルウが自分の席で寛いでいるとおずおずと話し掛けて来る声がした。


「ル、ルウさん……いつかの私との約束はどうなったのでしょうか?」


「おう、アドリーヌか。そう言えばお互い忙しくてゆっくりと話していなかったな」


 ルウに話し掛けて来たのはルウと同じく今年魔法女子学園に赴任した新人教師のアドリーヌ・コレットである。

 かつてアドリーヌがこの学園に来たばかりの頃、教師という職業に馴染めず悩んでいた時にルウの助言がきっかけで立ち直る事が出来た。

 彼女はそれを感謝してルウを食事に誘ったのである。


 ※第59話参照


「もう! ずっと放置するなんて酷いですよ。私の方は校長が一緒でも構いませんし、何日でも良いと思っていたのに」


 口を尖らせて抗議するアドリーヌであったが、ふいに上目遣いになってルウに問う。


「あ、あのルウさんって……やはり校長先生……フランシスカ様と結婚したのですか?」


 だんだんと声のトーンが落ちるアドリーヌである。

 職員の間では何となく噂になっているのではあるが、アドリーヌはその真偽を確かめたくて思い切って聞いてみたのである。

 そしてルウの返事はあっさりとアドリーヌの仄かな期待を裏切るものであった。


「ああ、結婚した。今ではもう正式な夫婦さ、あまり公にはしていないが」


「そう……ですか。分かりました、おめでとうございます」


 落ち込むアドリーヌに対してルウは表情を変えずに、昼食を学生食堂で一緒に摂らないかと誘う。

 一瞬躊躇ったアドリーヌだが、こくんと小さく頷きルウと同行する事をOKしたのである。


 アドリーヌはふと気になった。

 学生食堂に行く途中でルウがフランを誘うかと思ったのである。

 しかし校長室の前を素通りして魔導昇降機に乗り込むと、ドアを押えて待っていてくれたルウを見て小さく驚くと共に彼女は安堵の溜息を洩らしたのだった。


 ―――30分後


 ルウとアドリーヌは本校舎地下1階の学生食堂に向かい合って座っていた。

 今日は晴天のせいか、早めに昼食を終わらせて地上のキャンパスで寛ぐ生徒が多いらしくて食堂は比較的空いている。

 2人の前には本日の日替わりランチプレートが並んでいた。


「ははっ、今日は俺の奢りだ。それより何か2人きりで喋りたい事があったのだろう?」


「え!?」


 心の内を当てられてアドリーヌはどぎまぎして顔をあからめた。

 ルウに仄かな好意を抱いてるが、アドリーヌはとても奥手である。

 2人きりで話したいとは言っても、いきなり自分の気持ちを相手に言うなどあり得ない事なのだ。

 しかしこの様子では何か彼女にとって重要な事には違いなかった。


「な、何故分かるんですか?」


「ははっ、何となくな。今、悩みがあるのだろう?」


 ルウの穏やかな笑顔に思わず引き込まれそうになったアドリーヌ。

 彼女は済まなそうな顔付きで頷いて見せたのである。


「実は近々、大学時代の同級生達と食事会があるんです。その際、親しい男性の友人を連れて行く事になってしまって……」


 口篭るアドリーヌはごくりと唾を飲み込む。

 彼女にしてみれば無理なお願いをする気持ちなのであろう。


「ルウさん……お願いです。一緒にその食事会に行って頂けませんか?」


 両手を合わせて懇願する涙目のアドリーヌであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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