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第24話 「親近感」

 ルウとフランはキングスレー商会王都支店を出た。

 魔法女子学園の生徒ミシェル・エストレとオルガ・フラヴィニーを連れて。

 ふたりの少女は、借りてきた猫のように大人しい。


「商会では待たせて悪かったわね」


「い、いいえぇ!」


 ミシェルが「ぶんぶん!」と首を横に振った。

 

 さらさらの金髪が揺れている。

 フランの労わりの言葉にも噛んでしまうほど緊張しているのだ。


「貴女達、もう寮に戻るの?」


「は、はいっ! 途中でお昼を食べてから帰りますのでっ!」


 今度はオルガが異常に早い口調で返事をした。

 フランは、


「じゃあ丁度良いわ。皆で一緒にお昼を食べましょう」


 と言い、にっこり笑う。

 驚いたのはミシェルとオルガである。


「え、ええ~っ!」

「こ、校長先生! そ、それはっ!?」


 あからさまに、嫌な顔はしなかったが……

 明らかにミシェルとオルガの腰が引けている。

 

 居心地が悪い……

 少しでも早く、この場から去りたい。

 そう考えているのは明らかであった。


「良いじゃない、ねぇ、ルウ、そう思わない?」


「はい、フランシスカ様、食事は大人数で食べた方が美味しいです」


 外見上の主従になって、すぐのふたりではあったが……

 もう息が「ぴったり」と合っている。

 

 生殺与奪の権利を握ると言っても良い、校長代理のフラン。 

 『おいた』をした生徒であるミシェルとオルガには、断るすべなどありはしなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フランが、3人を引き連れて来た店は……

 建物が瀟洒な造りの、垢抜けた雰囲気を持つ店。

 看板には薫風亭と書いてある。


 ミシェルとオルガは目を丸くしている……


「こ、ここですか?」

「こんなお店、来た事ないです」


 普段は学生寮暮らしのふたり。

 いつもは学生食堂で食事を摂る。

 たまに外食してもカフェくらいであり、このようなレストランには滅多に来ない。


「うふふ、ランチなら大丈夫よ」


 フランがにっこりと笑う。


「それにね、これは授業の一環ですから」


 フランから『授業』といわれた、少女ふたりは怪訝な表情となる。


「じゅ、授業……ですか?」

「え? 授業? これが?」


 フランの意図は……

 ミシェルとオルガには、まるで理解出来ないようだ。


「まあ、良いわ。じゃあ皆、入りましょう」


 フランは「早く早く」と、子供のように皆を急かしながら店に入ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後……


「美味しかった~!」

「また来た~い!」


 食事前の表情とは一変。

 ミシェルとオルガは、デザートのケーキを頬張りながら夢見心地である。


「ふふふ、良かったわね。でもルウは、もう少しマナーの勉強をしないとね」


「ははっ、済まないな。俺は田舎者なんだ」


 フランに叱られたルウだが、穏やかに笑う。

 

 美味しい食事もし、ルウのそんな様子を見て……

 すっかり緊張が解けたミシェルが、遠慮がちに聞いて来た。


「あのう、校長先生……私達とだけ、こんな食事をして問題にはならないんですか? 贔屓ひいきとか言われません?」


「全然問題にならないわよ」


 ミシェルの質問に対し、フランは自信たっぷりに答え、話を続ける。


「これはね、淑女としての食事に慣れる為の大切な授業だもの。希望者が居れば、随時受けてあげるわ」


「淑女としての食事? ……ああ、そうなんだ!」


 今度はオルガが、納得したように叫んで手を叩いた。


「駄目よ、オルガ。今ので減点10点。お店で騒いじゃ淑女じゃないわ」


 フランはオルガを見ながら悪戯っぽく笑った。


「じゃあ、もっと教えて頂けます? 校長先生」


 今度はミシェルが笑顔で話し掛けて来た。


「ええ、貴女方は大人になったら、いろいろなお店で食事をする事になるでしょうから。今日はその実地練習ね」


「実地練習ですか?」


「実はルウの練習も兼ねているのよ」


 フランは面白そうに笑って答えた。

 もう怒られる心配はなさそうだ……

 ふたりの少女は、安心したように紅茶をすすっている。


 フランは頃合いと見たのか……

 ミシェルとオルガに対し、ルウに改めて挨拶するように勧める。


「貴女達、良い機会だからブランデル先生に自己紹介したら」

 

「は、はいっ!」

「そうですねっ!」


「うふふ、元気が良いけど……このお店では駄目。ふたり共10点ずつ減点よ」


 フランにそう言われたミシェル達は、「しまった!」という表情で声を潜め、改めて名乗る。


「ミシェル・エストレです。魔法女子学園2年C組、王都騎士隊、魔法騎士志望です」


「オルガ・フラヴィニーです。ミシェルと同じく、2年C組で王都騎士隊、魔法騎士志望です」


「おう! 俺はルウ、ルウ・ブランデル。ミシェルにオルガ、よろしくな」


 ルウが挨拶すると、フランがすかさずフォローする。


「彼は……ルウは、私と教頭先生の推薦で入る臨時の先生です。詳しい事はまだ未定よ」


 フランは、母アデライドが言った通り、自分と教頭の推薦だという事を強調した。


「ええっ!? あ、あの教頭先生の?」

「ほ、本当ですか!?」


 吃驚するふたり……

 やはりケリーは……

 あの性格から、ある意味での名物教師・・・・らしい。

 

 ルウの口角が僅かに上がった。


 ……それから4人の話は弾んだ。

 ふたりはフランの受け持ちクラスの生徒でもあった。


 このヴァレンタイン王国では王都騎士隊は花形であり、中でも魔法騎士は格上とされている。

 彼女達の志望である女性魔法騎士は王妃を始めとした王家や上級貴族の女性達の警護が主な任務というエリート職なのだ。

 

 多くの需要はあるが慢性的な人手不足となっているのも女性魔法騎士がエリートである事に拍車をかけていた。

 その証拠に……

 フランの警護に関しては、同性である女性魔法騎士が担当する事は殆どない。

 

 そもそも女性魔法騎士とは……

 基本騎士ではあるので、華奢な女性でも武技に長けていなくてはならない。

 また容姿も重要視されていた。

 

 そうなると……

 武技と魔法の才能、両方を兼ね備えて、容姿端麗優という女性はなかなか居ない。

 

 元々武技に優れていた騎士爵の娘であるミシェルとオルガ。

 魔法の才能があると分かると、すぐに結婚するよりはと魔法女子学園を受験し、見事に合格。

 女性魔法騎士への道を目指す事にしたのである。


 しかし、入学して順風満帆かといえば、そうでもない。

 

 実は2日後からの春期講習にはミシェル達も参加する。

 入学して1年間学んだが……

 魔法の知識習得や発動には、とても苦労している。

 新年度に向けて、少しでもスキルアップしておきたいと必死なのだ。

 

 そんなミシェル達には新たな、それも異性の教師が入るのはとても刺激になる。


「わぁ! ルウ先生が副担任になってくれるの?」

「本当? ルウ先生?」


 打ち解けたせいか……

 いつの間にかミシェルやオルガの、ルウへの呼び方が変わっていた。


「とりあえず春期講習の間はね。……最終的には、理事長や教頭の意見も入れた上での決定になるわ」


「でも楽しみです!」

「そうです!」


 フランは苦笑していた。

 

 ルウが異性のせいもあるだろうが、ミシェルとオルガのこんな様子は今までも見られなかった。

 フランがそんな事を考えていると、いきなりそのミシェル達から謝られた。


「私達、校長先生の事を誤解していました、御免なさい!」

「そうです! 申し訳ありません」


 誤解って何?

 

 フランは、呆気に取られている。

 今度はルウがフォローした。


「ふたり共、本当のフランシスカ様を、存じ上げなかったと仰っているんですよ」


 ミシェルとオルガはルウの言葉を聞き、強く頷いて言葉を返す。


「そうです! 先生がこんなに気さくな方なんて……これからいろいろ相談させて貰って良いですか?」


「私達、絶対魔法騎士になりたいんです! 鍛えて下さい! 頑張りますから!」


 意気込むふたりを見て、フランも自然に笑顔が浮かぶ。

 彼女は今、人生で初めて……

 教師としての幸せを味わっていたのである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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