第239話 「リーリャの召喚訓練」
人名変更します。
シモーヌ・ボワデフル⇒カサンドラ・ボワデフル(ルウの先輩教師:第29話)
ベルナール・オドラン⇒ベルナール・ビュラン(学園ベテラン教師:第36話)
申し訳ありませんが宜しくお願いします。
魔法女子学園ルウ・ブランデル研究室、水曜日午前9時……
いつもの予定であればルウもフランと共に教室に入って2年C組の授業が行う時刻ではあるが、本日水曜日迄ルウはリーリャ1人について個人授業を行う事になっている。
召喚の魔法の手解きをし、学園生活の過ごし方の再確認を行う。
そして明日の木曜日に改めて2年C組の全員にクラスメートとして紹介した上で、2年生全員が受けた攻撃・防御、そして召喚の魔法の試験を行うのだ。
昨日、異界において初めてルウの召喚魔法を見たリーリャ。
普通であれば初めて行使する魔法に対して臆してしまう所を前向きな気持ちに変えてしてしまう所が彼女の良さである。
今迄接した事の無い未経験の魔法……
巧く行けば御の字で駄目で元々、その分伸び代が多いって事ね。
リーリャはそのような見方で召喚魔法を考えていたのだ。
今日も2人はルウの研究室に移動し、そこから直ぐ異界に跳んだのである。
「ここなら……ルウ先生を旦那様って呼んでも良いですよね。ふふふ、私自身は『妻見習い』ですけど」
婚約者と呼ばれるより自分を『妻見習い』とした方がやる気になって良いとリーリャは言う。
「早速、特訓をお願いします。明日召喚の魔法を発動する為には、まず魔法式をしっかりマスターしておかないといけませんよね。……私、学園から帰ってずっとホテルで詠唱を練習していました。……1人で寂しかったですけど……頑張りました」
「ははっ。偉いぞ、リーリャ」
「お願いします! ぎゅっとして下さい。そうしたらリーリャはもっと頑張れます」
ルウはにっこり笑うとリーリャを抱き締める。
リーリャは甘い吐息を「はぁ」と洩らし、満足そうに頷いた。
「ありがとうございます! 旦那様、じゃあまず魔法式を詠唱します」
そう言うとリーリャは魔力を込めずに魔法式を詠唱する。
彼女の朗々とした声が異界に響く。
「創世神の御使いであらせられる大天使の加護により、我に忠実なる下僕を賜れたし! 御使いの加護により御国に力と栄光あれ! マルクト・ゲブラー・ホド! 永遠に滅ぶ事のない……来たれ、我が下僕よ」
リーリャの詠唱をじっと聞き入っていたルウ。
そして大きく頷くと先程のようににっこりと笑ったのだ。
「俺が1回唱えたのを聞いただけなのに……見事だ、寸分の狂いも無い。素晴らしいぞ、リーリャ……ちなみに何回詠唱の練習をした?」
「はいっ! ……でも3,000回から先は数えていません」
多分、5,000回くらいでしょうかと、リーリャは答える。
「10,000回くらい行きたかったのですが、途中で寝落ちしてしまいました。夜中にそれをブランカに見つかりきつく叱られて直ぐ就寝しましたから」
侍女頭のブランカが風邪でもひいたら大事と、リーリャをベッドに押し込んでしまったそうだ。
「ははっ、ブランカさんはいつでもお前の事が心配なんだな」
「ええ、彼女は結婚もしないで全てを私に奉げて、今迄育て上げてくれました。本当はそろそろ自分の幸せを考えて欲しいのですが……」
でもと……リーリャは言う。
「所詮単なる勘ですが……彼女には暫くしたら幸せが訪れるような気がします。はっきりとはせず不確定な予想に過ぎませんけど」
その時、リーリャには魔眼だけでなく僅かながら予知の能力もあるかもしれないとルウは思ったのであった。
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「創世神の御使いであらせられる大天使の加護により、我に忠実なる下僕を賜れたし! 御使いの加護により御国に力と栄光あれ! マルクト・ゲブラー・ホド! 永遠に滅ぶ事のない……来たれ、我が下僕よ」
ルウの魔法の指導は結構厳しいものである。
これでリーリャの詠唱はもう50回目に達していた。
しかし彼女にへこたれる様子は無く全く辛そうな表情をしていない。
そんなリーリャを見たルウはやっと魔力を込めて魔法式を詠唱する事を許可する。
魔力を込めて詠唱するようにと促すとリーリャは花が咲いたように微笑み、そして頷いたのだ。
何回と繰り返されたリーリャの発する魔法式がひと際はっきりと異界に響く。
「創世神の御使いであらせられる大天使の加護により、我に忠実なる下僕を賜れたし! 御使いの加護により御国に力と栄光あれ! マルクト・ゲブラー・ホド! 永遠に滅ぶ事のない……」
リーリャの言霊と共に彼女の体内の魔力が高まって行く。
「来たれ、我が下僕よ」
異界の地が光り輝いていた。
ルウがベイヤールを呼び出した時と一緒である。
「手応えが……ありました」
リーリャが成し遂げましたという自信に溢れた表情でルウの方を向いた。
やがて光の中に小さな影が浮かび上がる。
「え、栗鼠?」
眩い光と共に現れたのは小さな栗鼠のような愛くるしい動物であった。
ただ普通の栗鼠ではないことは賢そうな顔付きと、その額に真紅の石を持っている事で明らかであった。
「ははっ、リーリャ。この魔法式では大物を呼び出せないと言った俺の言葉を訂正しよう。こいつはカーバンクルだ」
「え、カーバンクルって、あの? ……こんな子だったのですか?」
「ああ、それよりまずはこいつに名前をつけてやるが良い。男の子か女の子か聞いてみろ、声に出さないで魂で呼びかけるんだ」
ルウに促されたリーリャは言われた通りにやってみる。
するとすぐさま反応があり、目の前の小動物は賢そうな眼差しを変えないまま、自分が女の子である事を訴えて来たのだ。
それはリーリャにとってルウとは違う意味で心が癒されるやりとりである。
ふふふ、お前は女の子ね。じゃあ名前は……
リーリャは魂に浮かんだ名前を伝えてみた。
カーバンクルは可愛く、ひと声鳴くとちょこんと座り直す。
どうやらリーリャのつけた名を気に入ったようである。
「旦那様、この子は女の子です。そして名前はクッカにします」
「ははっ、クッカか。良いじゃないか。だがこのままでは額の石が目立つ。石を見せないように言いつけてごらん」
ルウに言われたリーリャがそう命ずるとカーバンクルの証であるクッカの額で美しく輝いていた宝石は瞬く間に消え去った。
「リーリャ、カーバンクルは富と名声をもたらすといわれる伝説の魔獣だ。特にその額の真紅の宝石にその力が宿ると言われているのさ。だから狙う者も多い。そうしておけばクッカは一見して単なる可愛い小栗鼠だ」
リーリャはルウの言葉に頷くとクッカを呼んだ。
クッカはリーリャの肩に乗って彼女と戯れる。
「ふふっ、可愛い」
「ははっ、これで明日の試験も概ねクリア出来そうだ。これからは学園の生徒達と一緒に勉強するんだ。頑張れよ」
「はいっ! 旦那様」
ルウの励ましに対して元気に返事をして、自らを奮い立たせるリーリャ。
その瞳には強い彼女の意思が宿っているのが誰から見ても分かるのであった。
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