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第236話 「フランの提案」

 リーリャとラウラはルウ達に挨拶をするとマリアナ達騎士に守られながら魔法女子学園から宿泊先であるホテルセントヘレナに名残惜しそうに帰って行った。


 時間はもう午後5時を回っていたが今日はジゼルとナディアが一緒に帰る予定である。

 ジゼルは魔法武道部の訓練、ナディアは図書室で勉強と、今迄学園に残っていたのだ。

 今日の御者役はモーラルでいつもの通り馬車を回して正門まで迎えに来ている。

 ルウの馬車は元々ナディアの父エルネスト・シャルロワ子爵から贈られた8名まで乗れる特製の大型馬車だ。

 以前はドゥメール家の馬車で通勤・通学していたルウ達も最近は殆どこちらの馬車を使っている。

 朝は一緒に学園に向うが、下校時間はそれぞれ違うのでモーラルとアルフレッドが交代で御者を務めて迎えに来るようにしていたのだ。

 大体、主婦役のオレリーが真っ先に帰り、ジョゼフィーヌが同行する事が多い。


「旦那様、今日は2年C組コンビが気合を入れて料理を作ると張り切っていました」


 モーラルが馬車に乗り込もうとする皆に面白そうに声を掛ける。

 皆の噂によると最近、ジョゼフィーヌはオレリーに感化されたのか家事に目覚めたらしい。

 彼女はオレリーという良い師匠を間近にして料理を中心にめきめきとスキルアップしていたのだ。

 ルウ達が揃い、馬車の乗り込むとモーラルは鞭で馬に合図をくれ、馬車はゆっくりと動き出した。


 ジョゼフィーヌの話を聞いた3年生の2人には焦りの色が見える。

 なかでも負けず嫌いのジゼルの悔しがりようは半端ではない。

 やがてジゼルの矛先はジョゼフィーヌに向い、だんだんと無茶苦茶な理屈に変貌して行く。


「うう~っ、オレリーは良いとして、ジョゼめ! 急に女子力を上げるなど陰謀だし反則だ」


 それを聞いたナディアが珍しくジゼルに同調する。


「うん! ボクも脅威を感じるよ。もっと女子力を上げないと旦那様に振り向いて貰えない」


 興奮し切った2人をルウが宥める様に言う。


「ははっ、良いじゃないか? 2人共今のままで充分に魅力的だ。俺は妻達全員が可愛いと思っているよ」


「「駄目ですっ!」」


 ルウの言葉を聞いて思わずジゼルとナディアの声が重なった。

 まずはナディアが首を横に振ってルウの不理解を詰る。


「旦那様はボク達女の戦いを分かっていないよ。男の戦いが荒々しさと逞しさ、汗の臭いでアピールするのなら女は美しさ、気高さ、そして優しさで勝ちが決まるのさ」


 続いてジゼルもナディアに賛同し、それに加えて料理の効用を強調した。


「そうだ、ナディアの言う通りさ。旦那様、良いかな、よく聞いて欲しい。美味しい料理は女の優しさをアピールするのに強力な武器となる。出来れば私は料理でも何でも負けたくないのだ」


「分かった、じゃあジゼルとナディアの料理も食べるのを楽しみにしているぞ」


 口をへの字に結んで拘るジゼルと澄まし顔のナディアの頭を思わず撫でるルウ。

 2人はルウに頭を撫でられて満足そうな吐息を洩らしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸、大広間午後7時……


 オレリーとジョゼフィーヌが共同で作った料理が大きなテーブルの上に並べられた。

 湯気を立てた料理の美味そうな香りが鼻腔をくすぐる。


「皆準備は良いか、行くぞ……バルバトス!」


 ルウは妻達に声を掛けてから、バルバトスを呼び出して言霊を唱え始める。


「我は『高貴なる4界王』の偉大な力を欲する者なり! ――風の王オリエンス、水の王アリトン、火の王パイモン、そして土の王アマイモン。さあ我にこの世の真理を説き、仮初かりそめの世界にこのうたげの席共々我等をいざなうがよい」


 ルウが言霊を唱え終わると大広間の空気がびしっと鳴った。

 するとその瞬間周りの風景が一変する。

 そこは以前、皆で訪れた遠くに森と湖を望む広大な草原であった。

 無論、ルウ達の目の前のテーブルと料理はそのままである。


「流石は旦那様、ばっちりですよ」


 フランがルウに片目を瞑って合図する。

 これは今夜の夕食を異界で摂りつつ、今回の王女の一件を聞きたい事を皮切りに自分達の近況報告及び相談、そして魔法の修行と手解きを行いたいという妻達の要望にルウが応えたものだ。

 ただ現世うつしよにおける夕食後の限られた時間では到底、さばききれない。

 そこでリーリャとラウラを誘った異界での試験の事を思い出したフランが、急遽ルウに提案したのである。


 いつもの習慣通り、席につくと暫しの間、食を支えてくれるかつて生のあったものに対して黙祷するルウ達。

 それが終わるとルウの声が掛かる。


「頂きます」


「頂きます」「頂きます」「頂きます」


 爽やかな風が吹き、様々な花や草の香りが仄かにする草原。

 暑過ぎず、寒過ぎない春の日差しが身体に心地良い。

 どうせなら美味しい食事が摂れる雰囲気が良いだろうと、この美しい草原をルウは選んだのだ。

 こんな場所で食べるオレリーとジョゼフィーヌの渾身の料理が美味しくないわけがない。

 案の定ルウは勿論、妻達が料理を口に含んだ瞬間、称賛の声が続出する。


「美味いな! オレリー、それにジョゼ。よくやった」


「素晴らしいわ、2人とも」「凄い、凄い!」


 皆の声を受けてオレリーが嬉しそうに答える。


「はい! これからも料理は任せて下さい。私の料理は母アネットから習ったものですが、このような母の味で良ければどんどん作りますよ」


 満足げなオレリーに対して、片やジョゼフィーヌはまだまだ不満といった面持ちで口を開いた。


「オレリーとレッドの力を借りたものですし、私は少しお手伝いをしただけです。次回は1人で作れるように、もっと上を目指したいですわ……でも」


 ジョゼフィーヌは一旦話を区切り、納得したのか大きく頷いた。


「旦那様のその言葉、そして皆の美味しいという言葉で実感しましたの。料理と言うのは魔法同様奥が深い。そして人の為になって感謝されると嬉しいという共通部分があると分かりましたわ」


 慣れない料理を苦労してやり遂げたが、それを食べて貰う事で人との触れ合いを改めて学んだジョゼフィーヌ。

 彼女はまた人間として一段成長したようである。


 こうしてルウ達のその日の夕食はいつもとはまた違った趣で終了したのであった。


 ―――食事を終わった後のひと時


 ルウ達は紅茶と焼き菓子を楽しんでいる。


 しかし妻達は紅茶を淹れる際にもルウの素晴らしさ、凄さを実感したのだ。

 ルウがテーブルにあったポットとカップを事前に温める為に適温のお湯を魔法で入れると妻達は驚く。

 ルウが使ったのは水属性の単なる生活魔法であるが、ただの水ならいざ知らず『適温のお湯』という所に難しさが潜んでいる。

 これは魔法使いが水を自由自在に様々な温度に変換して熱湯から氷まで使いこなせるという実力の証なのだ。


 もっと上を目指す……フラン達は先程のジョゼフィーヌの言葉が頭をぎり、魔法に対しての意欲を更に燃やすのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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