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第230話 「リーリャの約束、そして宣言」

 魔法女子学園研究棟ルウ・ブランデル研究室内、午後3時……


 ルウとリーリャはキングスレー商会での買い物を終えた後、人目につかない路地に入り、転移魔法でルウの屋敷に帰還した。

 そして屋敷で元の服に着替えると同様にルウの研究室へ戻ったのである。

 例によってリーリャはお姫様抱っこされて恍惚の表情であり、研究室についてルウの腕から降りなくてはいけないと知るや頬を大きく膨らませた。

 暫し駄々を捏ねた後、不満な顔をしながら嫌々降りたリーリャであったが直ぐに機嫌を直してルウに対して問い質す。


「私はブランカに男性と女性の機微を教えられました。彼女によればどんなに紳士的な殿方でも2人きりになると狼に変貌する方が多いと聞きましたが……ルウ先生は狼にはなりませんね」


 それを聞いたルウは苦笑した。

 ただ自分がそうではないことが珍しい事かもしれないとも考えたのだ。


「2人きりになる場合、許婚同士なら全く問題なく、百歩譲って恋人同士であればみだらではないと。そうでない場合は余程信頼のおける殿方で無い限り絶対に避ける事と教わりました」


 でも今日は……とリーリャは首を傾げる。


「キスをしたのも、しょっちゅう抱きついていたのも……私からばっかり、これはアデライド理事長の仰る通り淑女としてはふしだらで不適格な行為なのでしょうか?」


 ルウはリーリャの言葉を聞いてゆっくりと首を横に振った。

 それを見たリーリャは少し悲しげな顔をする。


「だ、男性の生理現象もブランカから教わりました。女性を抱きたいという気持ちが愛していない女性にも働く事を……でもルウ先生は私を抱く素振りすら見せませんでした。私はそんなに女性として魅力がないのでしょうか?」


 リーリャは今にも泣きそうだ。

 ルウは黙ってリーリャを抱き寄せると耳元で囁く。


「条件付だが俺はお前と結婚する約束をしたのを覚えているか?」


 リーリャはルウの顔を真っ直ぐに見詰めると「はい」と頷いた。


「俺はお前を愛する資格がない男だといっても、お前は構わず愛すると言った。他に妻が居ようが構わないと。覚悟を決めて俺を真剣に愛してくれる素晴らしい女を受け入れないなど俺には出来ない。それに元々お前は美しく聡明で優しい女だし、そんなお前を俺も好きだ。だから同じ様に俺もお前の全てを受け入れよう」


 ルウの熱い言葉にリーリャは涙ぐんでいる。


「私……嬉しゅうございます! 前にも申し上げた通り私の愛する男性は貴方以外には考えられません。お願い致します、約束は必ず果します。こんな不束な娘ですが、ぜひ添い遂げさせてくださいませ」


 リーリャの懇願する言葉に応えるかのようにルウは彼女をきつく抱き、何度もキスをしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園理事長室、午後3時30分……


 ルウとリーリャは本日の報告の為に理事長室に居る。

 朝と同じ様に2人の対面にはアデライドとフランが座っている。

 今のリーリャは朝のようにルウに軽々しく抱きついたりはしない。

 堂々と自信に溢れており、余裕すら感じさせる程である。


 アデライドとフランは女性特有の勘で何かあったなと気付いているが流石に問い質そうとはしない。

 特にアデライドはリーリャと質は違うが魔眼持ちである。

 リーリャの魔力波が朝と全く違う事にはっきり気付いていたのだ。


「ではルウ先生、本日リーリャと行動した内容の報告をして下さい」


「はい、報告します」


 ルウは研究室で自習をした後に王都の中央広場へ行き、昼食を摂った事。

 そしてキングスレー商会に行って銀製のペンタグラムを買った事、以上を報告したのである。

 それはただの物見遊山では無く、王族として暮らして来たリーリャに対してお金、商品、そして物の流通を簡単に教えておいた事も付け加えた。

 

 ここでリーリャがお金の話と共にルウに守って貰った事を話してしまう。


「はい、物がお金を仲介して回っている事も学びました。そして暴漢から襲われた時の対処方法も学びました」


「暴漢!?」


 フランが驚いて尋ねるとルウは問題なかったと頷いた。

 政治的な目的では無く食事の後にキングスレー商会に向う途中で冒険者風の3人の若者に言い掛かりをつけられ、リーリャを渡せと言われた事を説明したのである。

 フランにしてみれば一緒に居たのがルウなので全く心配はしていない。


「で……ルウ先生の事だから簡単にあしらって睡眠と忘却の魔法をかけておいたのでしょう」


 フランが悪戯っぽい表情で片目を瞑るとルウは照れ臭そうに頭を掻いた。


「やはりフランシスカ先生はルウ先生の事はしっかりとご理解されているのですよね」


 リーリャがそう言うと今度はフランが吃驚した。

 ルウはリーリャに目配せした。

 これは理事長室へ来る前に2人で相談しておいた事である。


「実はリーリャに関して報告が未だあります。彼女の素質や能力に関してです」


 リーリャがゆっくり頷くとルウが話し始める。


 リーリャが風、水、土の属性を持つ複数属性魔法使用者マルチプルだという事、そして風の防御魔法『風壁』の発動経験がある事だ。

 

 ただ魔眼に関してはとりあえず伏せておく事にした。 

 因みにアデライドも魔眼持ちだが、その事実を殆ど公開していないのだ。

 ルウが鍛えていずれ伝える必要がある人にだけ伝えればよいという事でリーリャとは合意していたのである。

 

 しかし彼女が風、水、土の属性を持つ複数属性魔法使用者マルチプルという事だけでアデライドはこれからどうしようかと頭を抱えた。

 彼女が魔法使いとして成長したらヴァレンタイン王国に引き留め取り込む為に適当な王族を夫として宛がう話が出るに決まっているからだ。


 3女とはいえ、それに対して当然父王のボリス・アレフィエフは猛反対するであろう。

 そうなれば両国はまた揉めるに違いないのだ。

 その時である。

 アデライドの考えを見透かすかのようにリーリャが心配ありませんわと言い放ったのだ。


「まず私は風の魔法のみ発動し、後は封印します」


 え!?


 アデライドはリーリャの言葉が信じられなかった。

 魔法使いが溢れる出る自分の才能を封印してしまうなんて!


「私、風属性以外の魔法の修行や訓練は陰ながら続けます。決して表には出しません。そして2年後、この魔法女子学園を卒業し、ロドニアへ一旦帰ります。暫くあちらで国に貢献したらまたこのセントヘレナに戻って来ます、その時私は既に王族ではないでしょう」


 具体的な予定までたてた上でこのセントヘレナに戻る為に王族と言う身分を捨てて戻る?


「はい。父を説得し、こちらに戻って帰化しようと考えております。その為の引き換え条件で国に貢献するのですから」


 この子……何故、帰化して……まさか!


「はい、そのまさかです。私、リーリャ・アレフィエフはルウ先生と結婚する為にそう約束しました。絶対、そのようにやり遂げる所存です」


 相変わらずアデライドの考えを先回りするようにきっぱり言い放つリーリャに対してアデライドとフランは「やはり」という表情で言葉を失ってしまったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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