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第23話 「幕間 商会王都支店」

「お買い上げありがとうございました!」


 ここは商会の入り口。

 キングスレー商会王都支店長マルコ・フォンティは、魔法女子学園の生徒ふたりを連れたルウとフランを見送った。

 

 ルウ達の姿が見えなくなると……

 マルコはその場に居た武器防具職人のオルヴォ・ギルデンと仕立て職人のエルダ・カファロへ店の中に戻るように命じた。


 3人は商会内へ戻ると、奥の部屋に入る。

 先程まで女子生徒達が居た商会の応接室だ。

 

 マルコはさりげなく内鍵を掛けると、オルヴォと手分けして応接セットを一番奥に持って行った。

 万が一、扉のすぐ外に人が居ても、盗み聞きをしにくくする為である。

 

 3人が座ると、マルコが息を潜めるようにふたりへささやいた。

 

「しばらく、誰も応接室に近寄らないように言ってあります。私からふたりへ、重要な話があるのです」


 人払いとは尋常ではない。

 だが、オルヴォも「当然!」と言うように頷く。

 彼からも、別の話があるようだ。


「マルコ。実は俺も、絶対に伝えなくちゃいけねぇ話があるんだが……とりあえずお前の方から聞こうか?」


 オルヴォがしわがれ声で呟き、腕組みをして眼を閉じた。


「あら、奇遇ね。私からもよ。とても大事な話なの……」


 エルダも手を挙げて、発言の意思表示をした。

 

 マルコはつい微笑む。

 口数が少なく、いつもは黙々と仕事をするエルダが、自ら何かを言うなんて珍しい事なのだ。


「分かりました。ふたりの話も、後でしっかりと聞きましょう。まずは私から……」


 いよいよマルコが話をする。

 オルヴォとエルダのふたりは、逃すまいと聞き耳を立てた。


「真竜王の革鎧の件なんですが……」


「それ! 俺も同じだぞ!」


「私もよ!」


「まあまあ……それなら、なおの事、3人でじっくり話そうじゃないですか」


 入れ込むふたりを、マルコは手で抑えるポーズをとった。

 そして尤もらしく言い放ったのである。


「鎧が完成したあかつきには……当キングスレー商会の功績を世に知らしめる為にですね……」


「…………」

「…………」


「商会が直接請け負った事は勿論、オルヴォ、ウチの専属職人である貴方が、製作をしていたと、いろいろな人へ広く伝えないといけない」


 世にひとつ、否フランの分も合わせるとふたつしかない真竜王の鎧。

 超が付くレアな商品をキングスレー商会が製作する。

 その事実を、世間へ広く知らしめる。


 王都支店長として……

 商会の知名度と利益増を考える立場からすれば、当然の発言であった。


 しかし!

 オルヴォとエルダは、真向から反対する。


「そりゃ、駄目だぜ、マルコ! ぜって~に駄目だ!」

「そ、そうよ! マルコさん」


 ふたりの制止する声を聞いたマルコは、意外にも「違う」と言うようにゆっくりと首を横に振った。


「私の話を、最後まで聞いて下さい、ふたり共」


 オルヴォとエルダに呼びかけた上で、マルコは同意を求める。


「おふたりとも……真竜王の鎧のような超レア、国宝級の品を持っていると……不逞の輩や賊に狙われ易いのは想像出来るでしょう?」


「当り前だろう? だから何だよ? そもそも……」


 オルヴォが訝しげな表情をするが……

 マルコは「待て」と発言を止めた。 


「まあまあオルヴォ、話は最後まで……私はね、この特別な鎧を製作する事を絶対に秘匿せよ! という支店長命令を発令するつもりです」


 マルコの言葉を聞いたオルヴォとエルダは、顔を見合わせた。

 

 やがて……

 先に口を開いたのはオルヴォである。


「なんでぇ! じゃあ俺も全く同じ考えだよ。こういうのは客との信頼関係につながらぁ。俺はな、男としてあのルウの信頼を得たいんだ」


 オルヴォは首を振り、更に言う。


「悪いがなぁ、商会の名誉と利益なんか後回しだ! 俺は世間にこれ以上名を売ろうとは思わねぇ。他の奴等が知らなくても、この俺自身が、凄い素材を手掛けたと分かっていれば良いんだよ」


 名誉欲など皆無であるという……

 偏屈なドヴェルグらしい、常人とは違う台詞セリフであった。

 

 オルヴォが話し終わると、今度はエルダが口を開く。


「私も……あなた方ふたりと全く同意見です」


「おお、そうか! エルダ、偉い!」


 自分と同意見のエルダをほめたたえるオルヴォ。

 エルダは苦笑し、話を続ける。


「ねえオルヴォさん、お客様ふたりと貴方には悪いけど、鎧の意匠デザインも思い切り目立たなく、地味な物にして欲しいんですが」


「分かってらあなあ! 実はあの時、ルウもよ。デザインは派手じゃなく目立たないようにお願いしますって、言って来ているんだよ」


 エルダとオルヴォの会話を聞いて、自然と笑みが浮かぶマルコ。

 やはりルウは只者ではなかったと。

 商会側で懸念している事を、ルウはあの場で計算に入れていたのだ。


 プライスレスな国宝級の特別な革鎧を、キングスレー商会が製作した事が巷に知られたら……

 当然、「他にも在庫があるかも!」と思われ、何者かにこの支店が襲われる可能性は高い…… 

 警戒厳重な王宮ならともかく、所詮王都の街中の商会である。

 存在しない商品の為、余計な警備員も大勢雇わねばならない。


 そして急がば回れという言葉もある。

 

 鎧の件は……

 娘のフランシスカから、すぐに内々で母親アデライドの耳へ入るだろう。

 

 商会側が顧客の重要な秘密を守り、適切な対応をした事を知れば……

 更に彼女の伯父であるドゥメール家本家の当主、バートランド大公エドモン・ドゥメール公爵の耳にも入るに違いない。

 

 本店をバートランドに構えるキングスレー商会にとって……

 ドゥメール本家との関わりは、王都以上に深い物なのだ。

 

 顧客が安心して買い物が出来る誠実な店。

 商会にとっては、最上得意ともいえる顧客へ、深い信頼を得る事が最大のメリット……

 マルコは最終的にそう考えたのである。 


「ところで、マルコ。お前ったら、ルウにあんな素材を出したのは何故だよ?」


 マルコに言葉を投げて来たのはオルヴォであった。

 あんな素材とは……

 古代竜エンシェントドラゴンの皮を言っているのだろう。


「そんな事は簡単に分かるでしょう? オルヴォとは長い付き合いなんだから」


 オルヴォの胸を、マルコは軽く拳で叩く。


「むう……」


 マルコにいじられ、暫く考え込んだオルヴォだが結局、分らなかったらしい。


「マルコ! もったいぶらずに教えろ!」


 オルヴォは、マルコの胸を軽く叩き返した。

 マルコはまるで、悪戯好きな子供のような表情を見せる。


「私はね、お客の中でも特に気になった人にはどれくらいの人物か試します。だから、ああいった凄いお宝を出すのです。安い商品を出して、ウチが舐められちゃいけないという理由もあるのですがね」


 商人として、マルコが相手を測る為に高額の商品を提示する。

 失礼といえば、失礼な話だが……

 その後の商売の為には、有効な方法でもあった。 


「商品に見惚れる客、買うなんて無理だと叫び憤る客、無表情の客、悲しそうに諦める客……客の反応は色々ですね。申し訳ありませんけど、私にはそれで客の器の大きさが分かりますから」


「はぁ……お前……性格最悪だな」


 マルコの話を聞き、呆れてオルヴォは肩をすくめた。

 しかしマルコは、何処吹く風である。


「性格最悪? 褒め言葉として受け取っておきますよ。だけどあのルウを見ましたか? あの古代竜以上の素材をポンと出して、これで鎧を宜しく、なんて言いましたよ……あんな凄いお客は初めてです」


 マルコはオルヴォに性格が悪いと言われても全くめげていない。

 逆にルウみたいな客は居ないと、楽しそうに語っていた。


 オルヴォも、マルコの意見には賛成である。


「確かにな、奴はある意味いかれてるぜ」


「ははは、確かにいかれてる」


 マルコはオルヴォに同意して笑い、今度はエルダに向き直った。


「それより……エルダはさっき気分が悪そうだったけど、どうした?」


「ええ、やっぱりルウよ、彼のせいなの……」


「え? ルウのせいで気分が悪くなったのか?」


 マルコの心配そうな言葉。

 聞いたエルダは「違うのよ逆よ、逆!」と手を横に振った。


「懐かしかったの……」


 遠い目をして、エルダは呟いた。


「ルウさんの雰囲気よ……まるで……爽やかな風と乾いたお日様の匂いがしたの……」


 エルダは故郷を思い出していた……

 子供の頃、住んでいた山の村と同じ……

 草深い田舎で何も無い村……

 

「お陰で元気が出たの」


 エルダは懐かしそうに笑う。

 そして腕まくりすると大きく頷いた。

 

「ルウさんの為に、頑張って早く仕上げてあげないとね」


 そう言うと、エルダは仕事部屋へ戻って行く。

 

 去って行くエルダの、後姿を見送りながらマルコは思う。

 ルウは本当に不思議な男だと。

 

 マルコは……

 気難しいフランシスカがあれだけ、ルウに気を許しているのが分かる気がした。

 

 一方、オルヴォも既にこの部屋に居ない。

 気合を入れて革鎧を作ると、彼の仕事部屋で勇んで仕事を始めている。

 

 いずれ何か、ルウと組んで仕事をしてみたい……

 マルコは何となく、そんな事を考えたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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