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第229話 「お忍びデート④」

 馬車に乗り込んだルウ達はルウとリーリャが隣同士、ルウの対面にマルコが座るような形となる。

 相変わらずルウに甘えるリーリャを怪訝そうに見ていたマルコであったがいきなりハッと息を呑んだ。


「ま、まさか……ルウ様、その方は……」


「ははっ、マルコ。気付いたみたいだな、彼女は確かにリーリャ王女さ」


 それにしても……

 マルコは失礼だとは思いながらもまじまじと2人を見詰めてしまう。

 これでは以前、彼が目撃したフランやナディアと全く同じである。


「ま、誠にお聞きしにくいのですが……お2人はどういう?」


 口篭りながら聞くマルコにルウは穏やかに笑う。


「別に今は・・魔法女子学園の教師と生徒さ」


「はいっ! 今は・・残念ながらそうですよね、ルウ先生」


 ルウの意味深な言葉に阿吽の呼吸で同様に合わせるリーリャ。

 この様子を見ても2人が普通の間柄ではない事は一目瞭然である。

 何なのだと思いつつ、マルコは危なく大きな溜息をつきそうになる。


 マルコは仕事ではこの若さでキングスレー商会の王都支店長を任される程の遣り手ではあるが、今迄の人生において女性に関してはからっきしであった。

 何度か人の紹介で女性と会った事はあるが、彼が同じ女性と続けて会う事はまず無かったのである。

 その原因は自分でも分かっていた。

 相手と会話をしていて『間』が持たないのである。

 商売の話ならあれだけ動く口がもどかしいくらいに動かず、まるで錆びついて固まってしまう。

 そんな自分に対してこのルウという男は……

 

 羨ましい!


 彼の今の気持ちを言い表せばそのひと言である

 マルコから見てもルウ自体はそんなに雄弁ではないが、まるで女性をリラックスさせ楽しませる術を会得しているようだ。


 そうこうしているうちに馬車はキングスレー商会王都支店の前に乗り付けられた。

 ずっと物思いに耽っていたマルコ。

 彼は御者の商会への到着を報せる声で我に返った。

 気を取り直したマルコは馬車のドアを開けると「さあ、どうぞ」と誘ったのである。

 ルウは馬車に乗る時とは逆に先に降りてリーリャの手を取った。

 そして彼女が降りるのを優しくサポートしてやったのである。


「ありがとう、ルウ先生」


 リーリャは僅かに頬を染めるとルウに寄り添って歩いて行く。

 その顔はまるで蕩けそうになるくらい呆けていた。

 マルコはそんな2人を見てつい羨ましそうな顔をしてしまうのが情けない。


 支店長のマルコが戻って来たのを見た数人の商会の女性店員が彼の元に駆け寄って来た。

 その中の1人が「あ!」と声を上げかけて、慌てて自分で口を押えたのである。


「ブリギッタ……そうか、君なんだな。この人達を見て心当たりがあるだろう」


 その様子に気付いたマルコはブリギッタを一瞥する。

 この店員……ブリギッタは1ヶ月前くらいからこのキングスレー商会で働き始めた新参である。

 ブリギッタはマルコが厳しい目で自分を見ても平然としていた。

 それどころか自分は間違っていないとばかりにこう返して来たのである。


「ええ、ここは王都セントヘレナ。この街では粗野なバートランドなどと違って貴族と平民は、はっきり区別します。商会の為に私は当り前の事をしただけですわ」


 きっぱりと言い放つブリギッタに反省の色は全く無い。

 そんなブリギッタにマルコは苛立ちを隠せない。


「ブリギッタ、私は身分で客を差別するような指導を君にした覚えなどないぞ。それに粗野なバートランドとは聞き捨てならない。君はこの店の本店がバートランドだと分かって言っているのか?」


「ええ、分かっていますよ。でも私さえ居れば今に王都のこちらの店が本店だと言われるようになるわ」


 ブリギッタは上司であるマルコの言う事に耳も貸そうとしない。

 また言っている事も支離滅裂である。

 こんなブリギッタのような店員が居ると一気に商会の評判が悪くなるのは間違いない。

 マルコは即座に決断をした。


「分かった、君とはもう一緒に仕事は出来ない。今日までの給料は払うからもう来ないでくれ給え」


「ふん! こんな店こちらからお断りよ、さっさと潰れればいいんだわ」


 ブリギッタはそんな捨て台詞を残してあっさりと出て行ってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ご迷惑をお掛けしました」


 深くお辞儀をし、詫びるマルコにリーリャは戸惑っていた。


「マルコさん、でもでも悪いのはあの女の人でしょう? 何故マルコさんが謝らなくてはいけないのですか?」


 それを聞いたルウがマルコに代わって質問に答えてやる。


「マルコはここキングスレー商会の責任者、例えれば王様だ。王様はいろいろな権限がある代わりに何か失策を犯せば責任を取らねばならない。今回で言えば悪いのはあの女だが、その謝罪を彼が代わりにしてくれたのさ」


 ルウがそう言うとリーリャは自分の身に置き換えて理解してくれたようだ。


「そうですね、上に立つ者というのはこんな時にしっかりとした対応が出来るかでその真価が問われますね。その点、マルコさんは立派ですわ」


 可憐なリーリャの微笑みにマルコは今のやり取りで疲れた心が癒される思いである。

 そんな2人を見ながらルウは話を続けた。


「リーリャの言う通りだ。そしてあの女の至らない部分はさっきリーリャに説明した通りさ。最悪なのは自分が商会に与えた損害さえも自覚していない所だな」


 リーリャもルウの言葉に頷いている。


「ルウ先生、確かに外見や身分で人を差別するなど先程の方のように愚かな事ですわ。では人の価値とはどのような所で決まるものなのですか?」


 リーリャの質問を受けたルウは微笑んで大きく頷いた。


「確かに人の価値は決して外見や身分では決まらない。いろいろな意見があると思うが、俺の考えで言えばしっかりした魂の有り方だ。中でも人が清廉且つ真摯な志を持って何かに打ち込むひたむきさは何ものにも代え難い、素晴らしいものだと俺は思うぞ」


 清廉且つ真摯な志を持って何かに打ち込むひたむきさ……

 まだまだ未熟な私には心に響く言葉だわ。

 魔法も勿論、勉強するってこういう事なのね。


 リーリャはそう考えると「ありがとうございます」と返事をして心の底から嬉しそうな表情を浮かべたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キングスレー商会特別商談室午後2時……


 今、リーリャの前には幾つかのペンタグラムが並べられている。

 金製、銀製、それ以外にミスリル製のものもあった。


「……はっきり言って私には全然分かりません。ルウ先生が選んでください」


 リーリャがもうお手上げといったように呟いた。

 完全に諦め顔である。


「ははっ、俺が見た所ペンタグラム自体の効能は大差が無い。後は素材の違いで考えるべきだ。ちなみに1番煌びやかに見えるのが金、吸血鬼や魔獣に抗する力を秘めているのが銀、魔力を1番伝導させるのがミスリルだ」


 ルウの言葉を聞いたリーリャは更に迷ってしまう。

 但し金製は自分の趣味では無いと思ったようだ。


「お前の金髪に映えるという事もあるぞ」


 ルウは一応そう言ったが、彼女は実用的な物と決めたらしい。

 暫く考えた後に銀製のペンタグラムを選んだのである。

 ちなみに値段は魔法女子学園の購買よりも安く、約半額の金貨5枚であった。

 これは元々安いというよりもやはり今回の件でマルコが『サービス』したせいである。

 プレゼントされたペンタグラムを首から掛けて貰ったリーリャがとても喜んだのは言うまでもない。


 そして思わずルウに抱きついて甘えるリーリャをマルコは複雑な表情で見ていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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