第220話 「幕間 リーリャと部下達」
リーリャ一行がホテルセントヘレナに戻るとヴァレンタイン王国外務担当大臣ディオン・バルテレミー伯爵が1時間後に来ると言う連絡があった。
どうやら帰還したらホテルから連絡が行くように命じていたらしい。
―――ここは、スイートルームと同じ階にあるロドニア騎士団副団長マリアナ・ドレジェルの部屋である。
部屋ではマリアナと王宮魔法使いのラウラ・ハンゼルカがとうとう来たかと、いう表情で会話を交わしていた。
「外務大臣が来るという事はいよいよヴァレンタイン側からの指示が出るという事だな」
「そうね、王女様の警護人数の絞込み、私達魔法使いの扱い等いろいろでしょう」
ラウラもマリアナの推測に同調した。
侍女や魔法使いはともかくロドニア騎士団の100人は多過ぎると言われるであろう。
たぶん殆どの騎士達が帰国を要請されるに違いない。
しかし国王からの指示書を見たせいもあり、帰国してもお咎めが無い事を知ってラウラは安心している。
それよりも肝心のリーリャの事が気になる。
「リーリャ王女様の様子はどう?」
ラウラと部下の魔法使い達は魔法女子学園への同行を認められなかった。
ヴァレンタイン王国の決定が出てからという学園側の判断だったらしい。
「いや……さすがはリーリャ王女様だ。逆にロドニアでお過ごしになっていた頃よりとても自由闊達になられている。まあ即座にこちらの環境に順応したのだな……それに加えて今日は成り行きで貴女方魔法使い達にも協力して貰わなくてはならない話にもなった」
「私達の……協力」
怪訝そうに美しい眉を顰めるラウラに対してマリアナは学園で起こった事を説明したのである。
―――15分後
「ふふふ、自分も出たいとはリーリャ王女様らしい。私達は構わない、学生とはいえ相手の魔法使いと手合わせするのは望むところだから。それにリーリャ様の為にもルウ・ブランデルという教師には会っておきたい」
そんな会話をマリアナと交わしてからラウラは外務担当大臣が来る迄に時間が少しあると見てリーリャの顔を見に行く事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラウラがリーリャの居間をノックすると入室を許可する返事が来た。
彼女はドアを開けるとリーリャに一礼して部屋に入った。
「マリアナから聞きましたよ。ヴァレンタイン魔法女子学園がとても気に入られたそうですね」
ラウラは先程聞き及んだ事をリーリャにも投げ掛けてみる。
別にマリアナを疑うわけではないが、最終的に自分で物事を確認するのはラウラの昔からの癖であった。
「ええ、とてもとても気に入ったわ。先生も同級生もよくしてくれるし、第一これから学ぶ事が多くてわくわくするわ」
リーリャは学園で勉強する事が待ちきれないといった様子であり、瞳をきらきらさせてラウラを見詰める。
「件の模擬試合も私達魔法使いが参加するのは問題無いと思います。尤もリーリャ様ご自身が参加されるかどうかは、改めてマリアナと相談しますが……」
ラウラがそう言うとリーリャは何故? という表情でラウラに問う。
「私から見てリーリャ様は未だ魔法使い相手に戦えるレベルにはないからです。これに関しては私の意見を尊重していただきます」
ラウラが師として毅然とした物言いで伝えると意外にもリーリャは大人しく引き下がった。
「分かったわ。でもラウラ、ルウ先生とも相談してね」
「ルウ先生? ああ、ルウ・ブランデルとかいう魔法女子学園の男性教師ですね。彼はどうですか? リーリャ様の期待に応えそうでしょうか?」
ラウラが怪訝な表情で問い掛けるとリーリャの態度が一変した。
まるで親しい身内を褒めるかのように語り始める。
「ええ、ルウ先生は凄いの。あの方はいろいろな事をご存知だし、多分魔法の行使に関しても桁外れだわ」
「リーリャ様……」
リーリャがかつてこの部屋で悪夢のような出来事を体験し、『通りすがりの悪魔』と名乗る者に助けられた事を知らないラウラは首を傾げた。
「ふふふ、私がルウ先生の事をどうしてそこまで見込んで買っているか、ラウラには不思議でしょうね。だけど理由は内緒、いずれ貴女にも分かるわ」
ラウラとしては正直、師である自分を差し置いてそこまで言われると面白くはない。
しかしそれで感情を露にするなど、短絡的で愚かな事だとラウラは理解しているのである。
「ふふふ、分かりました。私もぜひそのルウ先生の力を見てみたいものです」
その時であった。
控えの間から侍女頭ブランカ・ジェデクの声で外務大臣のディオンが来訪した事が告げられたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1時間後……
ディオンが部屋を去った。
彼が残したヴァレンタインからの通達は想像通り厳しいものであった。
リーリャ王女を魔法女子学園の一般生徒と同様に扱い、何か不慮の事故が起きた場合も原因によってヴァレンタイン王国の責任は軽減される事。
護衛の騎士はマリアナを含めた女性騎士5名、魔法使いは3名、侍女も5名のみ残す事。
指定区域以外の立ち入りを禁ずる事。
セントヘレナから出る場合は届出を必要とする事。
それ以外にも細々とした規定が綿々と記載されていたのである。
リーリャは今迄に父ボリスやこちらの騎士団がとった態度を考えれば仕方無いものだと受け止めていた。
マリアナとラウラは想像していたよりも厳しい指示には当初難色を示したが、これまでの経緯とボリス王の方針変更もあって最終的には受け入れる事を了承したのである。
しかしヴァレンタイン王国側もただ厳しい条件のみを出したのではない。
警護に関しては王都騎士隊から交代で騎士を派遣する事と3名の魔法使いにはヴァレンタイン魔法大学への留学を許可したのだ。
これは宰相フィリップとディオンの配慮であり、ラウラにしてみれば予想外の出来事である。
「ラウラ、良かったわね」
リーリャがホッとしたように笑顔を見せるとラウラもそれに応えた。
「帰国する3名には気の毒ですが、私を含めて残る3名はこの国でしっかりと魔法を学んで、いずれロドニアにおける魔法教育の環境を作り上げたいと思います」
ラウラの言葉を聞いたリーリャは笑顔でエールを送った。
「ふふふ、ラウラにも夢があるのよね、頑張って」
ラウラにも?
ラウラはリーリャの言葉が気になった。
ということはリーリャにも夢があると言うことであり、それはこのヴァレンタインに来てから変わった 彼女の様子にも関わることかもしれない。
それにもしルウ・ブランデルが関わっているとしたら……
これは調べておく必要がある。
ラウラはそう心に決め、幸せそうに微笑むリーリャの顔を見詰めるのであった。
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