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第214話 「好奇心」

「悪魔様って? 彼は人間ですよ」


 アデライドが微笑んで否定するとブランカが気を利かせて、その場を取り繕うように叫んだ。


「あ、ああリーリャ王女様は疲れていらっしゃるのです! 少しお休みになっては如何でしょう?」


 そんなブランカの声など無視して、ルウを指差して鋭く言い放つリーリャ。


「ブランカ! 私は疲れてなどおりません。この人は間違いなく悪魔様です」


「王女様! はしたない! 初対面の方に悪魔だなどと失礼でございます!」


 ブランカは彼女なりにこれ以上リーリャの立場を慮ってのフォローであろう。

 しかし、これ以上ブランカが騒ぐのは事を大きくしてしまう事になる。


 そこでルウは指を軽く鳴らす。

 彼はすかさず鎮静の魔法を発動したのである。

 魔法はあっという間に発動したのでブランカは気を失い、床に崩れ落ちそうになった

 ルウは咄嗟にブランカが倒れないように支えてやると、アデライドとフランに向って言い放つ。


「理事長。侍女頭殿は疲れていらっしゃるようだ。さあフランシスカ先生、リーリャ王女と一緒に学生食堂へ先に行って下さい。彼女は俺が教護室に運んでおきますから」


 リーリャはルウとフランを交互に見詰めている。

 その顔には困惑の色がはっきりと浮かんでいた。

 そんなリーリャに片目を瞑るとルウはブランカを背負って理事長室を出て行ってしまったのであった。


「あ、待って! 悪魔様!」


 手を伸ばしてルウを制止しようとしたリーリャであったがその前にフランが立ち塞がった。


「リーリャ王女……いいえ、これから貴女はロドニアの王女ではなく当魔法女子学園の一生徒リーリャ・アレフィエフです。ではリーリャ、これから学生食堂に向います、宜しくて?」


「え!?」


 ポカンとするリーリャに対してフランは指を左右に動かした。


「え? じゃないわ。返事は? リーリャ」


「は、はい!」


 厳しい表情で詰問するフランであったが、リーリャが何とか返事をすると満面の笑みを見せた。

 その変化にリーリャは思わず引いてしまう。


「貴女は王宮で育って来たから、いろいろな身分の人が居るこの学園での集団生活は最初は辛いかもしれないけれど」


 フランは近付いてリーリャの顔を思い切り覗き込んだ。


「ひ!?」


 思わず悲鳴をあげて逃げようとするリーリャ。

 そんなリーリャにフランは真剣な表情で言う。


「貴女の人生を振り返った時に魔法女子学園で過ごしたあの頃は楽しかったと、きっと思い出す筈よ。私達の生きている中で貴女の年頃は何ものにも縛られない自由で多感な時なんですから……思い切り楽しむのよ」


 リーリャもフランの言っている事が漸く理解出来たようだ。


「は、はい! フランシスカ先生」


「宜しい! では学生食堂に行きましょう。理事長、行って来ます」


 フランはアデライドの方に振り向くと一礼をしてリーリャの手を握った。

 アデライドはそんなやりとりを見ていても終始笑みを絶やさない。


「行ってらっしゃい。リーリャの事、宜しく頼むわね」


「はい、任せて下さい。理事長」


 アデライドが見送る中、フランとリーリャは理事長室の外に出た。


「あのひとつお聞きして宜しいですか?」


 理事長室から出た所でリーリャがフランの顔を見詰めた。


「何?」


「フランシスカ先生って、校長代理でその理事長の……」


「ええ、娘よ」


「じゃあ、何故?」


 リーリャはアデライドとフランが親子なのに何故他人行儀な口を利くのかと不思議に感じているらしい。


「リーリャ、ここは仕事をする場所なの。実の親子と言えども一応『けじめ』をつけないといけないわ。通常はこの魔法女子学園においてアデライド・ドゥメールは理事長であって私の母ではないの。逆にアデライド理事長から見たら私は娘ではなく一教師に過ぎないわ」


 フランの言葉を聞いたリーリャは暫く考え込んでいるようであった。

 しかし彼女も聡明な女性である。

 直ぐに納得したらしく笑顔を見せて「分りました」と答えたのだ。


「じゃあ、魔導昇降機で地下1階の学生食堂に行きましょうか?」


「はい、フランシスカ先生。あ、私がボタンを押して良いですか?」


 魔導昇降機ひとつにしてもロドニアには無い物である。

 リーリャは笑顔を見せると子供のようなお願いをしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園救護室、午後12時15分……


「まあ、どうされましたか? ルウ先生」


 ルウがリーリャ御付きの侍女頭であるブランカを背負って行くと救護室担当で回復魔法の使い手である創世神神殿所属の神官の女性が在室しており、急いでベッドの用意をしてくれた。


「いつも済まないな。……確かギャブリエリィ先生……だったな」


「ええ、そうよ。ルウ先生……」


 ブランカを寝かせた後にルウをじっと見詰めるギャブリエリィ。

 ルウはギャブリエリィの視線をいつもの穏やかな表情で受け止めている。

 そしてぽつりと呟いたのである。


「ここにあなたが居るのは俺達を監視する為なのか?」 


「いいえ……偉大なるしゅは貴方とルシフェルが何を成し遂げようとしているか見守っていらっしゃるわ。そして私は主から何も命じられてなどいない、ここに居るのは単なる好奇心からよ」


 どうやらギャブリエリィは人間では無いらしく、2人共お互いに正体を知っているらしい。

 ルウは相手の顔を見てずばり言う。


「神の言葉を伝える者――大天使、ガブリエル。あなたは創世神の左に座ると言われる大天使だ。出来れば敵味方にはなりたくないものさ」


「ふふ、同感。大丈夫よ、今の所はね。私は貴方達に良い意味で興味津々なの。それに私はミカエルとは全く考え方が違うのよ。所詮世界の摂理なんて『白か黒か』なんて簡単に割り切れる物じゃあないわ」


 ガブリエルは微笑すると「ここは私に任せて」と返し、ルウに早く学生食堂に行くように促したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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