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第211話 「狂乱」

「やはりそうか、アスモデウス。お前ほどの悪魔がこんな小悪党に顎で使われるとはおかしいと思っていた。理由はやはりそれか?」


 黒髪の悪魔が何か呟いた。

 すると今迄グレゴーリィの手の中にあった紙片が黒髪の悪魔の手の中に移動している。

 彼は瞬時に『引き寄せの魔法』を使ったのだ。

 それを知ったグレゴーリィは狂ったように口を動かした。

 当然、ルウの魔法の効果で声は出ない。

 

『か、返せ! その書を返せ! 返さないと他の『アッピニアン』達が黙っちゃいないぞ!』


「アッピニアン? 何だ、それは?」


 グレゴーリィの魂の叫びは黒髪の悪魔にも伝わっているらしい。

 だが、黒髪の悪魔が面白そうな口調で聞き返してもグレゴーリィは耳を貸そうとしない。


『な、何でもいい! とにかくその書を返せ!』


 黒髪の悪魔はそんなグレゴーリィに対して鼻で笑うと指を鳴らす。

 するとグレゴーリィはへなへなと力なく崩れ落ちたのである。

 どうやら鎮静と睡眠の魔法を発動させたようだ。

 一度に違う魔法を発動する事がどんなに困難か、その場に居たリーリャには分り過ぎるくらい、分っていた。

 この黒髪の悪魔も一見して優男のような雰囲気だが、実はとんでもない魔法の使い手なのである。

 

 黒髪の悪魔はグレゴーリィから取り上げた紙片を興味深そうに指でなぞると魔法の効果は無くなったようだ。

 その証拠にアスモデウスは苦しむのを止め、放心したように大きな溜息をついたのである。

 それを見たリーリャは黒髪の悪魔の元にさっと駆け寄り、跪いた。


「悪魔様! 助けて頂きありがとうございました。重ね重ねで申し訳有りませんが、更にお願い出来ればと思います」


 手を合わせて必死に懇願するリーリャ。

 そんなリーリャに対して黒髪の悪魔は「大丈夫だ」と優しく答えたのだ。


 15分後――


 黒髪の悪魔はリーリャにロドニアへ自分が考えた手筈を説明する。

 やはり彼はロドニアの事情を全て把握しており、即座に手を打っていたのだ。

 リーリャはホッとしたように問う。


「では、既に悪魔様の命を受けた方がロドニアの城にいらっしゃるのですか?」


「ああ、既にお前の父親と兄姉の救出に取りかかっている筈だ」


「あ、あああ、感謝致します。悪魔様……私は、私は……代償に何を支払えば宜しいのでしょうか? 私の魂でしょうか? なぜなら私には自分自身以外に何も貴方に差し上げられる物がありませんから……一体、どうしたら……」


 そんなリーリャの熱い眼差しに対して黒髪の悪魔はゆっくりと首を左右に振った。


「モーラルに聞かなかったのか? 俺に何も払う必要などない。あえて言えば折角この国へ、魔法女子学園に縁あってお前は来たんだ。1人の生徒として頑張って勉強し、そして同じく女の子として、この王都セントヘレナを楽しんでくれれば良い」


「は!?」


 黒髪の悪魔の物言いに思わずリーリャは耳を疑った。

 途中から余りにも人間臭く感じていた黒髪の悪魔の言葉が最後の最後で親しい人間にしか思えない雰囲気だったからだ。

 黒髪の悪魔はにっこり笑う。

 その人懐っこい笑顔につられてリーリャも思わず笑顔を見せる。

 悪魔はリーリャの肩をポンと軽く叩いた。

 その手は大きく温かい。


「悲しい顔なんかより、お前にはやっぱりその可愛い笑顔が似合う。この後、目が覚めたら、お前の心配事は何も無いようにしておこう。だから安心しろ、リーリャ」


「そんな……助けて頂いてばかりで……私……せめて貴方のお名前を教えて頂けますか?」


「俺は名乗るほどの者じゃない。只の通りすがりの悪魔さ。大丈夫、まあ――任せろ!」


「はいっ!」


 リーリャがつい元気良く返事をした。

 黒髪の悪魔の仕業なのか――その瞬間に彼女の意識は深い底に沈んでいったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リーリャが異界で悪魔同士の戦いの決着を見たよりも少し時は遡る。


 ロドニア城内王の間……


 この広大な大広間は現在完全に人払いがされていた。

 とんでもない密談が王ボリスと何者かとの間でされているようである。


「ははは、ボリス王よ。貴方の地位を脅かす者は確実に粛清しておかねばなりませぬ」


 リーリャの父であるロドニア国王ボリス・アレフィエフに耳元で囁いているのは肉食獣のような目付きをした堂々たる体躯の男であった。


「うむ、オーセィ。そなたの言う通りにロディオン、アンジェラ、イザベラの事を調べた所、余を亡き者にしようとする確固たる証拠を掴む事が出来た。こうなったら我が子といえども容赦はせぬ」


 血走った目で憑かれたように語るボリスに同意するように頷くオーセィ。

 そして大仰に悲しそうな顔をすると念を押すように問い質したのである。


「王よ、油断大敵ですな。悲しいかな、いくら血を分けた肉親の間柄とはいえこの素晴らしき大国ロドニアのあるじの魅力には勝てなかったという事です。して手配は?」


 オーセィの問いにボリスは面白そうに口角を上げた。


「ははは、抜かりはない。我がロドニアが誇る4騎士を向わせた。確実に奴等を誅殺してくれる筈だ」


 自分の今の地位を守る為に我が子を誅殺するとは尋常では無いが、歴史上全く無い事ではない。

 しかしボリスの様子は止むを得なく誅殺するのではなく、まるで殺す事を楽しんでいる雰囲気があった。

 その時である。


「ボリス王よ。そんな者の言葉を真に受けてはなりませぬ」


 兜を目深に被った革鎧を纏った壮年の男が腕組みをして部屋の入り口に立っていたのだ。


「その者の名はオセ。人心を惑わす事が得意な男。王に取り返しのつかない事をさせて、しっかりと陥れようとしておりますぞ」


 そんな男の諫言も今のボリス王には届かない。

 逆に警護の衛兵を声を張り上げて呼び始めたのだ。


「な!? 何奴だ! 出会え! 出会え! ええい! 衛兵は何をしている!」


 慌てて叫ぶボリスに兜の男は窘める様に言い放つ。


「自ら人払いされたのをお忘れか? 左右5つの部屋には人っ子1人おりませぬ」


 見苦しく騒ぐボリス王に対してオーセィ=オセは平然としていた。


「これはこれは! 誰かと思えばバルバトスではないか。しかし久しいなとも言ってはおれぬ。我が主の命を妨げる者は容赦はせぬぞ」


 不敵に笑うオセに対してバルバトスも同じ様に笑みを浮かべている。

 オセは煩そうな表情を浮かべて、未だ騒いでいるボリスの首筋をスッと押した。

 その瞬間、ボリスは玉座にもたれるようにして気を失う。


「これで昔馴染みとゆっくり話せるという事だ」


「ふふふ、成る程。お前のいう主とはグレゴーリィ・アッシュとかいう闇の魔法使いを称している男であろう。そ奴なら今、捕縛されお前とアスモデウスを縛る例の魔道具も我があるじがたった今、取り上げた所だ」


 バルバトスがずばりオセが従う原因をついた。

 案の定、オセは初めて動揺する。


「ほ、本当か!? い、いや騙されぬぞ! それに俺の指示は俺以外には解けぬ。今頃この王の息子達は……」


 オセがそう言いかけた時だ。


「ははは、バルバトスの言う事は真実だ」


 隣の部屋から入って来る者が3人……それはかつてオセが仲間と呼んだ者達だったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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