第195話 「オレリーとの夜」
ルウ・ブランデル邸、日曜日午後7時……
早めの夕食を終えたルウは自室の片付けをしている。
そんな彼の魂へ呼び掛けがあった。
リーリャ王女の留学が決まってから密かにロドニアの様子を探らせている悪魔バルバトスからの念話である。
『ルウ様、ロドニア王宮の辺りが騒がしくなっております。いよいよ例の王女の出発が行われると思われます』
『相変わらず王宮には魔法結界が張られているか?』
最初にバルバトスを派遣した時に彼からロドニアの王宮には結界が張られていると報告を受けていたのだ。
『はい、ルウ様のお創りになる結界に比べればその効果は児戯のようなものですが……如何致しますか?』
『いや、下手に触るな。相手には未だ俺達の事を知られないようにするのだ』
ルウは引き続き監視をするように命じて話を終わらせようとしたが、バルバトスには未だ別の話があるようだ。
ルウが許可するとバルバトスは礼を言い、話を切り出した。
『悪魔達が何人かルウ様に面会を求めております。我々3人や『高貴なる4界王』、そしてあの曲者のメフィストフェレスまでもが貴方様に完全に臣従したのを知ったようでして』
ルウはそこでルシフェルに念話を送る。
一瞬のうちにルウの思念は冥界の底であるコキュートスに届いたようだ。
『ふふふ、そうか。お前の存在に彼等が気付き始めたか……まあ当然だろうな。そして私とお前の間柄にも興味を持っているものが多々あろう』
ルシフェルはさも面白そうに含み笑いをしながらルウに言う。
『まあ会ってみるがよい。人間と同様、彼等にも様々な考えと思惑がある。とりあえず聞いてやるのが今のお前の義務やもしれぬ』
義務……何故その言葉を敢えて言うのかルウには直ぐ分った。
『……もしルシフェルの意向があれば俺は考慮するが……』
『ははは、私の考えは基本変わってはおらぬよ。天界を旅立った時に彼等に告げた通りさ。もし聞かれたらそう言うが良い。基本的にはお前が彼等を従えるのだからな』
ルウは頷くと分ったと答えたのであった。
その瞬間、ルシフェルの気配は消える。
改めて思念をバルバトスに切り替えてルウは問う。
『ふむ、面会を求めているのは誰だ? 名をあげてみせよ』
『はい、大公ヴァッサゴ、侯爵ガミジン、頭領ブエル、伯爵ビフロンズ、そしてあの侯爵アモンも……』
バルバトスが挙げた5人の悪魔はルウがかつての主と、どのような関係か知りたいのであろう。
特にアモンは72柱の悪魔の中で最も強靭にして厳格と言われる名うての猛者なのである。
『おいおい会おう。各自に待てと伝えておけ』
ルウの返事は悪魔の誇りを逆撫でするような言い方だ。
これも彼の計算のうちに入っているのであろう。
バルバトスは『仰せの通りに』と返事をして気配を消したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とんとんとん!
そこにドアをノックする音がした。
ルウが在室の返事をすると涼やかな、しかしやや緊張した声が返って来た。
「オ、オレリーです。『お情け』を頂きにあがりました」
「お入り」
そう、昨夜のジゼルに続いて今夜はオレリー・ボウがルウに抱かれる番なのだ。
屋敷の中なのでオレリーは肌着に薄い部屋着を羽織った格好である。
細身でスタイルの良いオレリーはしなやかな身体のラインが綺麗に現れていた。
「そ、そんなに見詰めないで下さい、旦那様」
恥らうオレリーをルウは抱き寄せる。
彼女の身体からは爽やかな石鹸の香りがした。
「オレリーは可愛いな。男はお前の笑顔と優しさについつい勘違いしてしまうだろう」
ルウはいつかの夕食会で義弟のジョルジュ・ドゥメールがオレリーにひと目惚れをしてしまった事を思い出していた。
自分も分る、彼はオレリーの癒しの波動に一発でやられてしまったのだ。
「そ、そんな事……旦那様は意地悪です。私が旦那様ひと筋なのはご存知の筈でしょう」
少し驚いた後に、じと眼で睨むオレリーをルウはまた抱き締める。
「ベッドへ……あ、あの私もジゼル姉みたいに抱っこしていただけますか」
ルウはオレリーを軽々と抱き上げるとベッドに運ぶ。
そして優しく横たえると傍らに横になった。
「また夢が叶いました」
「夢?」
オレリーの呟きにルウが問う。
「はい! 笑われるかもしれませんが、王子様にお姫様抱っこして貰う事です。いろいろな本を読んで子供の頃からの夢でした」
そんなオレリーにルウは穏やかな表情を向ける。
「ははっ、俺は王子じゃない。しがない教師で単なる魔法使いだ」
そんなルウの言葉にオレリーは首を振る。
「私にとって旦那様は素敵な王子様です。貴方が『先生』の時から憧れていたんです。でもでも……」
オレリーの言葉が途切れたのでルウは思わず彼女の顔を覗き込んだ。
すると彼女の目には涙が一杯に溜まっていたのである。
「フラン姉が居たから……私には叶わぬ恋だと思って諦めていました。私は旦那様の姿を遠くから見るだけで満足していた女の子だったんです」
ルウは流れ出るオレリーの涙を指で掬う。
「でもあの日、悪い冒険者に騙されて奴隷に売られそうになった私を旦那様が助けてくれた……地獄に落ちかけた私を救ってくれた……私、私……旦那様に出会えて本当に良かった。皆も一緒で心強いし、今はとても幸せなんです」
「あの時、モーラルはお前を直ぐに助けなかった。お前はとても魅力的だが余りにも無防備な娘だった。彼女はそれをお前に自覚して欲しかったんだ」
オレリーはルウの言葉に黙って頷いた。
そして彼の名を呼んでキスを求めたのである。
ルウはオレリーの小さな桜色の唇を啄ばむ様にキスをした。
キスによる快感にオレリーの口が開き、思わずルウが舌を差し入れると2人の舌はお互いに絡み合う。
ルウはオレリーの部屋着、そして肌着を優しく脱がせて行く。
やがてオレリーの瑞々しい裸身が現れ、ルウはまたキスをする。
愛する夫の愛撫に無防備に白い喉を見せて悶えるオレリーにルウは逞しい身体を重ねて行ったのであった。
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