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第192話 「嬉しい悩み」

 ここは『高貴なる4界王』の異界……


 前回と同じく蒼く深い太古の海である。

 ルウ達は改めて異界での鍛錬に臨んでいたのだ。


『我は知る、力の御使いよ! 汝の力を盾に変え肉体に纏い、我は勝利と栄光の王国へ赴く! 我は知る、かつて人で在りし偉大なる御使いよ! この力の契約を執り行い給え! ビナー・ゲプラー・サーマエール、ビナー・ゲプラー・ネツアク・ザイン・ホド・マルクト・メータトロン!』 


 ルウの声に妻達が応える。


『我は知る、力の御使いよ! 汝の力を盾に変え肉体に纏い、我は勝利と栄光の王国へ赴く! 我は知る、かつて人で在りし偉大なる御使いよ! この力の契約を執り行い給え! ビナー・ゲプラー・サーマエール、ビナー・ゲプラー・ネツアク・ザイン・ホド・マルクト・メータトロン!』 


 完全なる身体強化の魔法式により、各自の魔力があっという間に高まって行く。


強化ストレングスン!」


強化ストレングスン!」


 ルウを始めとして妻達の身体に眩い白光が纏い、力が漲るのが明らかに見て取れた。


「凄いわ!」「これはっ!」「身体が軽い、羽が生えたみたい!」


「皆、良いぞ。過信は禁物だが、身体強化の魔法を完全に習得し、魔導拳を覚えれば最低でも食人鬼オーガなど敵では無くなる。二足竜ワイバーンとも互角に張り合う事も可能だろう」


 食人鬼オーガ二足竜ワイバーンは彼女達にとっては怖ろしい怪物である。

 中でもフランは二足竜ワイバーンと聞いて身体をぶるりと震わせた。

 それを見たルウはフランを呼び、そっと彼女を抱き締める。


「フラン、かつてお前の許婚が奴等に殺された事はアデライド母さんから聞いた。俺はそんな彼の思いも含めてお前を必ず幸せにする。その一方でお前は自分で運命を切り拓いたんだ。自信を持て」


 そう諭すルウにフランは力なく俯いてしまう。


「私は旦那様に出会わなければあの時殺されていたか、『鉄仮面のフラン』のままだったでしょう。今こうして幸せなのは全て旦那様のお陰です」


 声を絞り出すように話すフランにルウはゆっくりと首を横に振った。


「違うぞ、フラン。俺と出会ったのは単なるきっかけに過ぎない。後はお前の意志で自分の人生を確りと歩んでいるんだ。そしてお前は他の妻達も幸せにしている。そもそも俺に先生になってくれと言ったのはお前じゃないか」


 ルウは穏やかに微笑んでフランの頬に軽くキスをした。


「お前があの時そう言ってくれなければ俺は冒険者になり、あのまま旅を続けていただろう」


 自分を見詰めるルウについフランの口から聞きたかった言葉が出てしまう。

 その表情はとても悲しそうだ。


「私を守る為に貴方はこの国に残ってくださった。こ、後悔していらっしゃるのですか?」


 ルウはそんなフランを黙って抱き締めると優しく背中を撫でる。

 そしてはっきりと言い放った。


「後悔などする訳が無い。元々俺は天涯孤独の身の上だった。親の顔も知らない俺が爺ちゃんに拾われて家族の温もりと絆を知った。そして今、俺にはお前達が居る。そして俺達を助けてくれる人達も大勢居る。こんなに素晴らしい事は無いじゃあないか」


「だ、旦那様~っ」


「ああっ! フラン姉ったらずるいですわ」


 ジョゼフィーヌがフランに後ろから抱きつくとジゼルが、ナディアが、オレリーが、そしてモーラルが続いて行ったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ひと通り、身体強化の魔法を発動した後にルウ達は休憩に入る。

 皆、今迄以上に身体の切れがよかったのと水中で鍛錬をした事で基本的な体力の鍛錬にもなる利点があるのだ。

 ルウは妻達に注意する。


「この魔法には弱点がある。効果が切れた時に反動が表れるんだ」


「反動……ですか?」


「ああ。今、俺達はこの魔法を習得した者が犯し易い過ちをしないように、少しずつ強化された身体を使っている。それでも反動は出るのさ」


 妻達は神妙に聞いている。


「ようは地道に鍛えず魔法で無理矢理強化すると魔法の効力が切れた本来の身体に戻る時に無理が生じる。今までは幸い不完全な魔法だったからそんなに目立たなかったが身体の倦怠感くらいはあった筈だ」


 ルウの言葉にジゼルとナディアが思い出したように頷く。


「だからこの魔法を使う時に回復魔法は欠かせない。今回は術の後に掛けるが、術の前でも構わない。この中で今の所、回復魔法を使えるのは俺とモーラル、そしてジゼルだ。これから俺とモーラルで術後の処置を行うからジゼルを含めて皆良く見ておいてくれ」


 ルウは言霊を唱え始める。

 彼が唱え始めたのはいつも使用している精霊の回復魔法ではなくこのヴァレンタイン王国で広く使われている回復魔法だ。


「我は知る、癒しの使徒よ。汝に我は癒され、活力を得る。願わくばその慈悲の眼差しを絶やさず我を見守り給え。ビナー・ゲブラー・ラファエール、 ケセド・マルクト・アイン・メム」


 癒しの使徒の名を呼び、その力の加護を求める魔法式でこの国の神官や僧侶の多くもこの言霊を唱えている。

 しかし先程の身体強化の魔法もそうであるが、彼等とルウの魔法の違いはその魔法式を最後にひとつの言霊に集約する事である。

 魔力が高まり、ルウの口から言霊が迸る。


治せサナーレ!」


 ルウから発せられた白光がフランの全身に纏われ、あっという間に収まって行く。


「これでいきなりの反動は出ない筈だ。モーラル、ジゼルに同じ魔法を掛けてやれ。ジゼルはその後にこの回復魔法の訓練だ」


 ここでナディアが手を挙げる。


「旦那様、3人以外に回復魔法の適性がある者は居ませんか? この魔法は使える者が少しでも居た方が良いですから」


 ルウはナディアの言葉に頷く。


「この魔法は魔法適性では水属性の術者が使える者が多い。あくまで傾向だから例外もある。俺が見る所……ははっ、何と! 残りの者も訓練すればこの魔法以外の回復魔法も含めて何らかの形で使えそうだぞ」


 それを聞いた水属性の魔法使いではないフラン、ナディア、ジョゼフィーヌが特に喜んだ。

 彼女達は良い意味でお互いを競争者として見る事で切磋琢磨しようとしているのである。

 ルウは満足そうに頷くと引き続き、魔法を発動した。

 片やジゼルはルウと同じくらい回復魔法を習得すると密かに決意していたので気合を入れて魔力を込めずに詠唱を繰り返している。


「ジゼル、今日のメニューはここから魔導拳の教授だがどうする?」


 ルウは夢中になって詠唱を繰り返していたジゼルに声を掛けた。


「だ、旦那様! 私も一緒に習うぞ」


 ジゼルは慌てて回復魔法の詠唱を中止し、ルウの方に向き直る。

 そして自分の夫は天性の教師だとつくづく感じたのだ。


 ああ、こんな授業は初めてだ、何という充実感!

 楽しい! そして時間が足りない!


 ジゼルは満面の笑みを浮かべながらルウの次の言葉を待つのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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