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第185話 「騎士としての帰還」

 ゴブリンとの戦いの後、ルウは歓喜に湧く村人達の目を避けるように密かに転移魔法でドゥメール邸の私室に戻った。

 そしていつものように魔法女子学園に出勤すると、職員室に隣接した会議室でシンディを捉まえ簡単な報告をしたのだった。

 シンディは息子ジョナサンの無事を知り、まず安堵した後でルウに何度も何度も礼を言うと更にどうしたら良いのか助言を求めたのである。


 ルウはシンディに言う。

 『楓村ゴブリン襲撃事件の調査』と言う名目で父キャルヴィン・ライアン伯爵と騎士隊の出動を要請し、ジョナサンを迎えに行かせるのが良いと。


 焦るシンディではあったが、ここで彼女が王宮に行けば目立つという事でルウが代わりにライアンのもとに使いに行ったのである。

 当然フランに授業中の不在を伝える事は忘れない。

 既に妻から息子の家出を聞かされていた夫のキャルヴィン。

 王宮の騎士隊詰め所に彼を尋ねたルウは直ぐ奥に通された。

 人払いをした隊長室で詳しく話を聞いたキャルヴィンはルウに礼を言うと早速、一隊を組んで楓村に出発したのである。

 そしてルウは学園に戻る。

 魔法女子学園はいつもの通り授業中であり、ルウはお昼休みまで待ってまずシンディに報告する。


「そうですか、夫は直ぐ出発してくれたのですね」


 ルウが頷くとシンディは安堵して喜びの余り彼の手を思い切り握る。

 昔『鉄姫』と呼ばれた女傑のその結構な握力にルウも微かに苦笑いした。


 ルウは次に校長室に赴いてフランに報告する。

 フランはルウがそんな強行軍を行っていたとは露知らず大いに驚いていた。

 彼女はまず夫であるルウの体調を心配する。

 職員であるシンディの息子も確かに大事だが、家族であるルウの体調をそれ以上に気遣ったのだ。


「旦那様、お疲れ様です。大丈夫? 疲れていないですか?」


 ルウが「心配ないよ」と笑うとホッとして胸を撫で下ろしている。

 その姿が可愛くてルウはフランを抱き締めてしまう。

 フランはルウに抱かれながら安堵して嬉しそうに呟く。


「でも良かったわ。今回は旦那様とモーラルちゃんの力ね。でも今度は私にも手伝わせてね」


 懇願するフランをルウはまた愛おしくなって抱き締める。


「分った、じゃあ今夜はシンディ先生の家でジョナサン君を迎えてから戻るからまたあとでな」


 ルウはそう言って校長室を後にする。

 フランは頷き、手を振って去る夫を頼もしそうに見詰めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園のこの日の授業が終了した。

 ルウとシンディはジゼルに理由を話して魔法武道部の指導を任せるとシンディの自宅であるライアン伯爵邸に一緒に戻ったのである。


 キャルヴィン・ライアン伯爵邸客間、午後5時……


 部屋の中にはルウとシンディ・ライアンがそれぞれ肘掛付き長椅子ソファに座り、1時間余り話し込んでいる。

 内容は昨夜の楓村の事であった。


「そう……あの子はそんなに逞しくなったの……今迄心配ばっかりしていた分、私から離れて行くかと思うと少し寂しいわ」


 シンディがしみじみと言う。


「でも今回は本当に助かったわ。息子の命の恩人であると同時にライアン家の大恩人だわ」


「ははっ、俺なんかよりさっきからの話の通り、今回は妻の1人にとても頑張って貰ったんだ。今度、紹介しますよ」


 ルウがそう言うと、計ったように家令ハウススチュワードがドアをノックする。


「奥様、門の所に女の子が1人、奥様とブランデル様をお尋ねになっておりますが」


 ルウが頷いたのを見てシンディは一瞬吃驚したが、直ぐ家令に返事をした。


「私のお客様よ、通してあげて。そしてこの部屋にお連れして」


 10分後―――家令がドアを開けると同時にルウとシンディは立ち上がって迎えている。

 鮮やかな濃い青色ブルーのブリオーを着用して部屋に入ると優雅に一礼したのはモーラルであった。

 着ているのは先日、キングスレー商会に行った時に買った新しい服である。

 彼女の美しいシルバープラチナの髪に良く合う色の服だ。


「私はモーラルと申します。ルウ・ブランデルの妻であり、従士でございます」


「ルウ君が言っていたのはこの子!? ……ウチの生徒と殆ど変わらないわ。あ、貴女が……私以上のそんなに凄い魔法使いなんて……」


 ルウが言っていた言葉が記憶に甦り、驚くシンディにモーラルは軽く首を横に振ってから微笑する。


「それは大袈裟過ぎますよ。私なんて大した魔法使いではありません。ただ、いつも全力を尽くすだけです。決して後悔しないように……」


「全力を尽くす……」


 シンディはモーラルの言葉をもう1回繰り返すとハッと我に返った。

 彼女に自己紹介と礼を言う事をすっかり失念していたからである。


「モーラルさん、今回は本当にありがとう。ルウ君から話は全て聞いているの。貴女が居なかったら息子は、ジョナサンは死んでいてもおかしくなかったわ」


 シンディはがっちりとモーラルの手を握る。

 モーラルは微かに手の痛みを感じながら口を開く。


「ライアン様」


「モーラルさん、シンディで良いわ」


 ファーストネームで呼ぶように促すシンディにモーラルは頷いた。


「ではシンディ様、お伝えする事があります」


「モーラルさんから?」


 改まって言うモーラルにシンディは怪訝な表情である。


「はい! 息子さんは楓村での戦いでいろいろな意味で大人・・になりました。夫からお聞きになっているとは思いますが、確りと受け止めてあげて下さい」


 モーラルがそう告げた時であった。

 またもや家令の声が響く。


「旦那様とジョナサン様がお戻りです!」


 その声と同時にシンディはルウとモーラルの事を忘れて部屋を飛び出していた。

 そして階下の大広間に愛しい息子が居る事を確かめる。

 しかし……

 ジョナサンの横には仲睦まじく寄り添う1人の少女の姿があったのだ。


 え!?

 あの娘は誰?


 シンディは驚いて階下に急いで降りて行った。


「母上、ご心配をお掛けしました。申し訳ありません」


 頭を下げるジョナサンよりシンディの目はエミリーに釘付けだ。

 その視線に気付いたエミリーが慌てて挨拶をする。


「お母様、エミリー・バッカスと申します。宜しくお願い致します」


 しかしシンディは息子が無事帰って来た事よりもエミリーの事で頭の中が混乱してしまったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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