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第182話 「悪魔を召喚する者」

「行くぞ、モーラル!」


「はいっ! 旦那様っ!」


 2人はふわりと宙に舞い上がった。

 瞬間、ルウは念話でモーラルに意図を伝えている。


束縛リスツリクシェンズ!」「束縛リスツリクシェンズ!」


 同じ言霊が重なり合う。

 ルウとモーラルは相手の自由を奪う束縛の魔法を、わざと効力の弱いものとして発動したのだ。


 がぎぎぎぎ!

 くああおう!


 ゴブリンが身体を締めつける魔力波オーラの痛みに悲鳴を上げた。

 するとあっという間に彼等の動きが鈍り、緩慢になる。

 そこにジョナサンを先頭に味方が剣を振るって殺到し、たちまち殺戮の嵐が巻き起こった。

 しかし味方の攻撃を躱して、村に入ろうとするゴブリンが何匹も居る。


「旦那様……」


「うん、普通のゴブリンよりずっと魔法耐性が強いし、動きも速い」


 ルウは不敵な笑みを浮かべていたが、ゴブリン達が魔法に縛られた身体を引き摺るように村に入ろうとすると空から急降下し、手刀をゴブリンの顔に叩き込んだ。

 その傍らではモーラルが思い切りゴブリンの顎を蹴り上げている。

 2人は10匹程、村に入ろうとしたゴブリンの息の根を止めた。


「やはり物理的な耐久力はそれ程でもないか……」


 ルウの呟きを聞いたモーラルが頷く。


「旦那様、やはりフラン姉を襲った時の……」


「うん、未だはっきりとは言えないがな。あの時は合成生物キメラで、今回は魔法耐性や敏捷性を強化したゴブリン……両方とも物理的耐久性に欠ける。共通点は確かにある」


 ルウとモーラルが話しているうちにジョナサン達はあらかたゴブリン達を倒していた。

 魔法耐性があるとは言え『束縛の魔法』により敏捷な動きを封じられた状態ではゴブリン達に勝ち目など全く無かったのだ。


「はぁはぁ……ルウさん、モーラルさん。た、倒したぞ!」


「そうさ、儂等は勝った! ゴブリンを撃退して村を守ったんだ」


 ジョナサンが息を切らしながら剣を掲げると、アンセルムも拳を突き上げた。


 アンドラ……実は悪魔アンドラスがさりげなく片目を瞑る。

 彼はルウ達が魔法を使ったのを当然分っていたのだ。


 ――やがて太陽が東の空から少しずつ昇って来た。

 ゴブリンとの戦いは気がつけば夜通し続いていたのである。


「ジョナサ~ン! じ、爺ちゃ~ん!」


 大きな声で2人を呼ぶ少女の声がする。

 声の主はエミリーであった。

 前線で戦っている者達がなかなか戻らないのを心配して様子を見に来たのに違いない。

 孫の声を聞いたアンセルムは苦笑した。


 エミリーめ、儂の事をやっと『爺ちゃん』と呼んでくれたか。

 呼ばれたのが、この男の後なのが癪に障るが……まあ我慢してやるか……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その頃……


 ここはとある迷宮の最深部にある、あの部屋――謎の男とメフィストフェレスが話していた部屋である。


「う~む、メフィストフェレスの反応が消えたのと同時か……何者かに村全体が強力な魔法結界を張られたな……私の魔力波オーラが通らない」


 男の目の前にある水晶球には何も映っていない。

 ルウの魔法結界が男の術を遮断しているに違いなかった。


「畜生! この分だと強化ゴブリンも全滅か……一体何者だ? 以前、『深き者共』を失った時もこんな感じだったが……」


「イクリップス、良いのか? のんびりしていて? 敵がここに来るやもしれんぞ」


 いきなり薄暗い部屋に別人の声が響く。


 男の名はイクリップスというらしい

 ……太陽や星を蝕む『蝕』という意味である。

 多分、仮初かりそめの名であり、本名ではないのであろうが。


「ひひひ、お前か? 私の邪魔をしているのはどんな奴だ?」


 イクリップスはにやりと笑い闇に向って問い掛けた。

 闇の中からは直ぐに答えが返って来る。


「奴の名はルウ、ルウ・ブランデルだ。アールヴのソウェルであったシュルヴェステル・エイルトヴァーラに育てられた男――しかし、アールヴのソウェルではなく只の人間だ」


 それを聞いたイクリップスは怪訝な表情だ。


「只の人間の男――分らんな。アールヴのソウェルが何の見返りも無しに後継者でも無い男を育てるのか?」


「分らない……しかし、奴が強大な魔法使いであり、優れた召喚者サマナーである事は疑いようがない。何せ奴はお前と同じ様に悪魔や魔の者を数体従えているようだ」


 相手の声を聞いたイクリップスは大きく目を見開いた。


「何!? 悪魔だと? となると奴も私と同じ様に『アッピンの赤い本』を所持しているのか!?」


「…………」


 その問いに対して何故か相手は答えない。


「むう……そうか、ひひひひひ。この事だけはお前に聞くのは禁句であったな」


 イクリップスは大きな目をぎょろり動かし、さも面白そうに笑う。


「ひゃひひひひ。奴がもし『アッピンの赤い本』を持っているなら、ぜひそれを頂こうか」


 相変わらず相手の返事は無い。

 部屋にはイクリップスの笑い声だけが不気味に響いていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ヴァレンタイン王国楓村中央広場午前8時……


 戦いが終わってからルウとモーラルは周辺を索敵し、ゴブリンの群れと術者の気配が無いのを確かめてから氷柱を消して、魔法結界を解いていた。

 そして夜通し、戦った村人達を中央広場に集めたのである。


 ルウとモーラルの顔を見た村長のアンセルム・バッカス。

 2人が頷くと彼は村人全員の前に出て叫ぶ。


「皆、聞け! 戦いは我々の勝利に終わった。それも死者を1人も出さずに済んだ。完全な勝利だ!」


 わおおおおおお!


 それを聞いた村人達から一斉に歓喜の声が上がる。


「これは村民が一丸になった事とここにいらっしゃる助力をしていただいた皆さんのおかげである」


 アンセルムはこう言うとルウ、モーラル、アンドラの名を次々と告げたのである。

 村人達は彼、彼女の名が呼ばれる度に大きな声と拍手で称えた。

 そしてアンセルムがジョナサン・ライアンの名を最後に呼んだ時にはひと際大きい声援と拍手が鳴り響いた。

 それはエミリーとカミーユを含めた村の子供達からである。

 エミリーがジョナサンの元に駆け寄って来た。

 そしてひと言「ありがとう」というと何故か俯いてしまったのである。

 その頬は赤く染まっていた。


「あ~、コホン」


 アンセルムがわざとらしく咳をする。


「話を続けるぞ、皆の者。残念だがまたこのような襲撃はあるだろう。しかし我々は戦い勝利出来る事を証明した。今後とも頑張ろう」


 アンセルムが村人達にそう告げると一段と大きな鬨の声が上がったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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